第4話 初日終了【後編】



「現実でのお体ですか? シア様のゲーム開始が確認されたら専門の医療機関に位置情報が通知され、そちらに医療機関関係者と政府関係者が赴き、お体を保護致します。そちらで然るべきお世話がなされる事になっております」

「し、然るべきお世話、とは……」

「ドローンによる肉体維持の点滴、排泄の処理などです。VRゴーグルはつけたままになりますが、毎日の肉体の清掃もドローンが行うそうでございます。ご希望の方はコールドスリープも可能です。その場合はご家族の方に資金負担を頂く事になりますが」


 え、かなり大掛かりな事になってない? それ。


「……え、ええ……そ、そんな事して大丈夫なんですか?」

「政府の承認を受けておりますので」

「そ、そうなんだ……。でも、いつの間にそんな法律? 出来てたの?」

「若い方はご存じない方が多いのですが、国会とは国民にバレないようにしれっと法案を通すのが得意な連中……こほん、方々がとても多いのです。自殺者増加に関しては大変問題視しておられる方も多く、そのほとんどは十代から三十代と若い方が多い。ですからそんなこれからの働き手を守る為には様々な角度から救済処置を検討していかねばならない、という事になったのです」

「…………じゃあ、私たちみたいにこのゲームを始めた人は自分の意思でログアウト出来ないんですか?」

「ログアウトしてそのまま亡くなる方がいる可能性がゼロではないので……。セラピストNPCの許可を得て、ログアウト可能となる『聖戦の祠』というダンジョンに挑めばログアウトは可能なのです」

「ダンジョンに挑戦……」


 そうか、ログアウトするのにはログアウト可能ポイントに行かないといけないって事だったのか。

 そういうゲームはある。

 ただ、普通は自室のベッドに横たわれば、とか町に入れば、とか、そんな感じ。

 この世界から出るには『自らの意思で』そのダンジョンに挑まないといけないのか。

 面倒くさいな。


「場所はセラピストNPCしか知りません。ログアウトを希望されますか?」

「いいえ!」


 即答した。

 それなら別に良いわ。

 体が無事ならそれで良い。


「ちなみに私の体を維持する費用は?」

「未成年の方はご家族の方に負担頂きます。ご家族が支払い拒否した場合は税金から」

「ふーん……」


 父さんと母さんはどうするのだろう?

 三重香はゲームの中に引きこもった私を嘲笑っていそうだけど……。

 別に私がいなくても、あの人たちは自由にやるでしょう。


「親が入ってきて無理やりゴーグルを取ったりしたら、強制ログアウトになるんじゃないの?」

「それもご安心ください。ドローン以外は入れない個室になっているそうです。人間の形では、個室には入れないそうですよ」

「…………入り口が奇抜という事?」

「はい」


 想像つかないな。

 まあ、部屋に入れないなら無理やりゴーグルを外されて強制ログアウトさせられる可能性は低い?

 父さんと母さんはきっとそこまでしないでしょうね。

 三重香はもとより、だけど。


「……それにしてもシア様はかなりしっかりとされておられますね。普通の方ならそんな事は気になさいませんが」

「え、あ……ああ、私はその、少し育ちが特殊なの。大手製造会社の跡取りとして育てられたから……」

「左様でございましたか。では職業は生産系をご希望なのですか?」

「……まだ、詳しく聞けていなくて……」

「左様でございましたか。では明日、引き続きキャロライン様からご説明を?」

「た、多分」


 ……やっぱりキャロラインは少し特別なんだな。

 フローラさんと話してると、その無表情ぶりと淡々とした処理的な話し方で差が目立つ。

 ふう、とにかく食事をすると心が少し落ち着く気がする。

 ステータスを確認すると『空腹』が『満腹』になっていた。

 ちえ、食べないとステータスに影響が出るタイプかぁ。

 まあ、VRゲームに夢中になりすぎて餓死者が出たりするから『空腹』に関してはかなり仕組みが変わったってゲームニュースで見掛けたしなぁ。


「では、明日、キャロライン様と朝食をご一緒されてはいかがでしょうか? その時に説明の続きをお聞きになればよろしいかと」

「そ、うですね……そうします」

「かしこまりました。そのようにお伝えしておきます。それでは今夜はごゆっくりお休みください」


 頭と食器を下げ、フローラさんが部屋から出ていく。

 なんだか疲れた。

『疲労』数値は溜まってないけど精神的に。

 色々考えたし、今後の事とか……うん、あんまり考えたくないや。

 もう今日は良いよね、なんでも。

 寝ちゃおう。

 VRゲームの良いところは歯磨きもトイレも必要ないところだよね……。


「……………………」


 考えない。

 父さんも母さんも私の事なんてきっとなんとも思ってない。

 迎えになんてきっと来ないわ。

 さあ、さっさと寝よう。

 明日から、私はこの世界で生きていくの。

 時間が許す限り、ずっとこの世界に引きこもってやる!

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