第21話 代役


モーガンはかけがえのない親友のニコラス

からの切なる依頼に

しばし言葉が出なかった


「今の話は本気なのか?」


モーガンの問いに

ニコラスは一点の曇りもない

力強い澄んだ目でモーガンを見据えている


「そうか。。。 少し考えさせてくれ」


頼まれた内容の重大さに

モーガンの脳内はぐるぐる同じ所を周って

全く集中出来ない


それはニコラスの人生をかけた

最初で最後の頼みだったからだ


ニコラスとは

モーガン自身の記憶の無い2.3歳からの付き合いだと

母親から聞かされたことがある


それから約二十年


二人は音楽や食べ物と言った

好みが同じことが多い共通点から

深い場所に佇んでいる価値観まで


お互いのことをよく理解しあっている

唯一無二の親友同士になっていた


悩んでいても時間がもうない


モーガンは覚悟を決めた


半年後

不治の難病に侵されていたニコラスは

モーガンに望みを託して

この世を去った


ニコラスの彼女のジェシカは

見ている方が窒息してしまう程の

孤独と絶望感に包まれていて

魂がなくなってしまったかのように漂っている


その姿が

モーガンの覚悟と決心をより一層強くした


予定通りモーガンとニコラスの遺体はカナダに渡り

世界で唯一「顔面交換手術」が出来る

神の手を持つと形容される形成外科医の元を訪ねた


手術内容は

ニコラスの顔面をモーガンの顔面に移植して交換する

というもの


単純な皮膚移植とは異なり

顔面の皮膚に繋がっている下顎骨や頭蓋骨

その合間を縫って這っている血管・神経

全てをニコラスの遺体から切除して


モーガンの元々ある血管と神経に接合

移植しなければならない


内容的にもかなりリスクを負う手術で

技術的には成功しても

生体や血管・神経細胞の拒絶反応で

50%の方は命を落とす


まさに神がかりな手術であった



「まさか。。。」


ジェシカはある日街で見掛けた男の姿に息をのんだ

一卵性双生児かと思う程に

ニコラスに瓜二つの男性が歩いているのを見掛けたからだ


「待ってください!」


反射的にジェシカの声帯から声が沸き上がった


それからジェシカはニコラスの顔を手にしたモーガンに

自分のことやニコラスとのことを堰を切ったダムのように

話し始めた


ニコラスのことを熟知しているモーガンは

最大限ニコラスの気持ちを代弁して

ジェシカと接した


ニコラスが蘇ったような奇跡を感じ

神に感謝したジェシカがモーガンと恋に落ちるまでには

それほど時間は掛からなかった


モーガンも

最初は必死にニコラスの代役を務めていたが

自然とジェシカに惹かれていくのに時間は必要なかった


ジェシカとモーガンは

ごく自然な流れで結婚し家庭を築いた



「ジェシカ。きみには感謝しかない

 いくら感謝しても感謝し足りない

 言葉だけでは、とてもいい表せないんだよ」


「大丈夫。あなたの愛は全てしっかりと伝わっているから」


ジェシカの嘘・偽りのないまっすぐな言葉に心から安堵し


モーガンは

自身とニコラス、二人分の愛で

ジェシカを全力で愛しきって


ほほえみを浮かべながら

静かに目を閉じた





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