第17話 亡き母の想い


その男の妻は

末期がんに侵され

余命数年の命であった


子供は

十五歳の男の子一人と

十二歳の女の子一人


彼女は

どうしても自分の子供たちの傍に

いつまでも寄り添っていたい

執念に近い想いが強く

ご主人にある依頼をした


その男はかなりの資産家

だったため資産すべてを

なげうって

妻の要望に応えようと

プロジェクトを開始した


世界中から

最先端の技術を持つ


人工知能開発者

ロボット工学者

三D画像技術者

著名な霊媒師

IT技術者


が集められ

彼女が亡くなる直前に

なんとかそれは完成した


それは世界初の

人型人工知能搭載

ロボテックスだった


人間の生理現象は無いが

生きていた時の

妻の思考や性格・言動は

ほぼ完ぺきにトレース

されていた


子供たちは

最初は、人工的な母に相当な違和感を持ったが

生きていた時の母と全く同じ感覚に馴染むには

そう時間は掛からなかった


その人工母は

子供たちの成長に合わせて

外見も精妙に老化して行くし

人工知能がどうしてても

再現出来ない部分は

霊媒師に

あの世の亡き奥様を呼び出して貰い

子供たちに伝えて欲しいことを聞き

各技術者達に伝え

ロボテックスにインストールさせた


このような、日々のたゆまぬ

アップデートのお蔭で

子供たちは数年も経つと

実の母が生きていて

普通に一緒に生活している

感覚に自然となっていた


むしろ

人工的に作られた物体である

事を思い出すのが困難なレベルまで

彼らの人生に溶け込んでいた


それから月日は流れ


上の男の子が

六十歳になった時に

父親が亡くなったため

資金的な問題もあり


人工母は活動を辞めた


男の子も女の子も

ずっと実の母親と暮らしてきた

想い出がリアルなものとして

二人の脳に刻み込まれており

ロボテックスの事は

完全に脳の片隅にも

残っていなかった


人工母の葬儀の時に

二人は喪主として

そろって弔辞の挨拶をした


こんなに長い間

私達兄妹を

立派に育て上げてくれて


旅行やイベントなどの

数々の楽しい沢山の想い出も

作ってくれて


私達二人にとっては

掛け替えのない

最高の母親でした


母との想い出は

一生涯私達の記憶から

離れないでしょう


四十年以上の月日が流れ

四十年以上前の亡き母の

強い想いは


ついに壮大な幕を降ろし

永遠のものとなったのである


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