第18話 投資家の館


今日もまたか・・・


その男は四十代の投資家

一昨年大暴騰した仮想通貨の投資や

昨年のトルコリラの空売りで

数十億円の資産を築いた


欲しいものは大抵買える

雑誌やメディアで著名になるにつれ

どこのパーティでも登壇を依頼され


周りには彼の後光の源になっている現金に

若いタレントやモデルが

ひっきりなしにアプローチをしてくる


もちろん、悪い奴も


彼の知名度を利用しようとする詐欺師から

彼の資産を直接強奪しようとする暴力団まで


本当の犯罪者から

ご馳走・おごりになろうと群がる

友人・知人・まで


親戚の金の無心も数珠繋ぎで途切れない


そんな、カネ・カネ・カネ・カネ・カネ

毎日毎日、彼がカネを出す話ばかりされる生活に

彼の精神と神経は

うっすらとただよう夜霞のように

じわじわとそして深く浸食されていった


そんな中

周りに群がるカネ目当ての連中の牙が

彼にいっせいに襲い掛かった


まずは

パーティで知り合ったモデルの美人局

ハニートラップにかかり

処理に一千万円単位のカネをむしり取られた


次は

詐欺師の架空投資話

タイの山岳地帯でレアアースの鉱脈が発見された

その共同発掘権の売買

手の込み入った案件から

新規IPО仮想通貨詐欺まで

億単位のカネを剥ぎ取られた


そして友人・知人・親戚

なまじ深い人間関係にあるため

断りづらい状況に陥ってしまった

ものも数多く


気が付けばやはり億単位のカネを

手元からすーっと持っていかれた


やがて数年も経つうちに

彼の手元から約十億円のカネが

去っていった


様々な事件や経験により

精神不安定になり、病院へ行くと

「人間アレルギー」

極度の人間嫌いと診断された


落ち込むかと思いきや

意外に真逆で彼は完全に吹っ切れた


スマホやパソコンの連絡先は全て変え

SNSもすべて削除した


そして

千葉県の房総半島中部に位置する

ドイツ様式の洋館を購入して

そこに引き籠る生活を始めた


そこは彼にとっては理想の楽園だった


部屋数が14室もあり、メイン寝室には

露天ジャグジー、天然温泉引きの内湯

も完備されている


しかも、女性が待機する十六畳の別室

も隣接されている


もはや、個人の家と言うよりは

プチホテル並みの豪華さであった


その館で彼は

愛人、いや独身なので、恋人四人

ペットの

カワウソ三頭、ミニブタ二頭、猫五匹

犬三頭、カピパラ三頭、

執事一人

という

デカダンス漂う厭世的な生活を送っていた


だが、彼にとっては今までの人生で

一番幸せな時間であった


寝室には毎日四人もの恋人が

争うこともなく、彼を待っていてくれる


五十畳程のメインリビングには

様々なペットが待っていてくれて

何時間でもペット達と安らいだ時間を

過ごすことが出来る


執事は優秀で、記憶力抜群で的確に淡々と

物事を処理してくれる


学生時代からのごく親しい友人数名だけには

引っ越し先のこの邸宅の住所は教えてあったが

誰もまだ招かれたことは無かった


あんなに社交的で人当りも良くていい奴が

引っ越し先に呼ばなかったことってあったか?

今まで一回も無かったよな??

毎回引っ越し祝いのパーティやっていたもんな


数人の古い友人達は訝る


そしてある日とうとう、実際に行ってみよう

という話になり、連絡の取れない彼にアポを

取らずに訪ねた


たしかに凄い豪邸だ

友人達はその存在感と建物が醸し出す異様さ

に圧倒された


友人の一人が恐る恐るインターホンを鳴らすと


しばらくして、自動で玄関の扉が開き

邸内から、乳白色に光を反射させて

ペッパーくんがやってきた


わたしは、〇〇様の執事のペッパーです

ご用件はなんでしょうか?


一同ポカーンとしている中で

ペッパーくんの胸の部分に設置されている

モニターから投資家の男が話しかけてきた


お前たち、よく来たな!

やっと完成した俺の楽園へようこそ!


びっくりするほど、弾んだ元気な声であった


友人たちは邸内に入れて貰い

邸内全てをペッパーくんに一通り

案内された


案内が終わると、投資家の男が友人達を

待ち構えていて、飛び掛かる勢いで喋りかける


どうだ!

凄い楽園だっただろ!


男の本気さに、友人達は返す言葉が

無かった


寝室には

ラブドールと呼ばれているリアルな

女性型の人形が四体


メインリビングには

それぞれ冒頭でご紹介した数々のペット

のぬいぐるみ・・・


執事はロボットのペッパーくん


自然の生き物は彼一人しかいない


彼は「人間嫌い」病を拗らせ

ついに、「生き物全般嫌い」になってしまったのだ・・・


彼の脳内では

日々四人の彼女達と楽しく暮らし

数々のカワイイやんちゃなペット達に囲まれて

完璧な日々を送っている妄想が展開されていた


投資家の館は

ラブドールとぬいぐるみに溢れた異様な光景の

生き物が存在しない館であった・・・

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