episode 10 進化先評論
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レベルが一定に達しました。
個体【宇多川 麗華】に能力:『牙城の型』
個体【カリスタ】に能力:『潜影』
以上を獲得しました。
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カリスタがクロムダイルにとどめを刺した瞬間、二人のレベルは上昇。20に達した為か、新しい能力の獲得に成功した。
そして何よりも、カリスタのレベルが最大まで達した事で、進化が可能になったのであった。
「お、新しい型だ」
「牙城――見るからに防御特化だな。不殺の防御性能では不安の残るところもあった事だし、現状ではなかなか有用に思えるぞ」
「まま、取り敢えず、調べてみようぜ」
他でもない、自分の能力の主力である型が増えたことで、麗華は非常にワクワクとした様子で解説を表示した。
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『牙城の型』:
防衛と補助を目的とした防御形態。肉体・装具に特殊な気力を纏い、あらゆる物理的攻撃を寄せ付けない。また、周囲の仲間にも効果の付与が可能だが、その場合、自己に対する効果が薄れてしまう。気力量によって、軽減率が上昇する。
『潜影』:
影に潜り、その影が繋がっている限り影伝いでの移動が可能になる。身を隠す事は可能だが、攻撃の遮断は不可能。術力の消費が非常に大きい。
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「おっ、これお前にも効果あるっぽいぞ」
「うむ、そのようだ」
チーム全体にも効果を及ぼす型だけあって、一層の連携強化が見込める能力であるようだった。
また先程カリスタが分析したように、不殺による防御性能の上昇は副次的なものであった為、防御に特化した型の習得は、これより殆ど未知である下層の魔物を相手取るに当たって不安要素を解消するものであった。
「お前の『潜影』も、相性良さげだな。影伝いに移動って、この下水道ならほぼ全域じゃん」
「術力の消耗が激しい事を鑑みても、結構有用そうだな」
使える能力を一度に二つ獲得する事が出来、ほくほく顔の麗華であった。
しかしながらメインはそれらではない。
「――さて、んじゃ本題に入ろう」
「うむ……進化先についてだな」
カリスタの――正確には屍喰鼠の成長限界による、進化であった。
「カリスタ、さっきのアレ、もう一回開ける?」
「あぁ、出来る」
カリスタは、先程に開示された五つの進化先を、もう一度表示した。主従の繋がりによってステータス等を共有している麗華の頭の中にも、同様の情報が表示される。
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【切裂鼠】
闘力:D 魔力:E 潜在:D
【窮鼠】
闘力:E 魔力:E 潜在:B
【シュヴァルツ・トーポ】
闘力:E 魔力:C 潜在:C
【
闘力:C 魔力:--- 潜在:F
【黒死】
闘力:D 魔力:C 潜在:C
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「選り取りみどりだな」
「……本来、屍喰鼠はそうそうに進化出来ない種だ。そもそも、魔物を積極的に狩ろうとしないから、レベルが上がらず、それ故に進化出来ない。まぁ稀に一部の運の良い者が切裂鼠に進化したり、群れのボスを長く務めていた者が屍創大鼠になったりしていたがな」
切裂鼠は、
屍創大鼠は、曰く、大鼠という名だけあり、屍喰鼠よりも二回り以上も大きく、戦闘能力も体躯に見合った強さだそうだ。
「やっぱ、小っちゃいと大鼠に憧れたりする?」
「まぁ惹かれなくはないが――それだけで決定的な材料にはならん」
「とか言っちゃって?」
「……まぁ、その、何だ。少しだけ、なりたい」
「かーわいーん」
「殺すぞ」
矮躯に悩むカリスタを茶化して遊ぶ麗華。
その後しばらく麗華はゲラゲラと笑っていたが、次第に落ち着きを取り戻して、真面目な話に戻った。
「まぁ普通に考えれば、切裂鼠、あと屍創大鼠は候補から外すべきだよな」
「あぁ、普通の進化を辿っても、
「となると残り三択か……どんな種類かってのは?」
「全く分からん。見たことも、聞いたこともない」
長らく隠密生活を続け、情報力と経験だけは蓄積されていたカリスタだったが、余程珍しい種なのか、この三種は知らなかったという。
「ならさ、この進化先でも解説ってできないかね」
「ふむ――出来そうだ」
「じゃあ上から行こうぜ」
「承知した」
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【窮鼠】
闘力:E 魔力:E 潜在:B
進化条件:
能力『矮躯なる者』獲得 (達成)
『窮地からの脱出』10/10 (達成)
命の危機を幾度にも渡り、乗り越えてきた小さき者。追い詰められれば追い詰められる程その力を増していき、死に際ともなれば竜をも喰らう力を得る。
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一つ目、窮鼠は、生命力が底に近づけば近づく程、戦闘力を増していくという、何とも名前の通りの特性を持つ種族だった。猫どころか、竜さえも噛む事が可能だそうだ。
「てかお前どんだけ窮地経験してんだ」
「お陰様でな」
「え、私?」
とにかく、これは候補から外すことにした。
今際の際にならないと本領を発揮できないなんて、あまりにも不安定すぎるとの判断だ。
竜をも喰らう力は確かに魅力的だが、闘力と魔力の基礎能力が他種より圧倒的に劣っているのが、最大の要因であった。
「てか『矮躯なる者』って能力だったのな」
「魔力関係や敏捷以外のステータスにマイナス補正が掛かる、要らない能力だがな」
「うわひでぇ」
その代わり『ジャイアント・キリング』との多大なシナジーを持つが、それにしても要らない能力であった。
「じゃ、次いこか。ぶっちぎりで名前がカッコいいやつ」
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【シュヴァルツ・トーポ】
闘力:E 魔力:C 潜在:C
進化条件:
黒色の体毛を持ち、闇を操る鼠。直接戦闘能力は他の鼠型魔物に多少劣るが、追随を許さぬ術力を持ち、自らのテリトリーに決して外敵を寄せ付けない。かつて落ちぶれた魔道士だった男が、シュヴァルツ・トーポを使い魔として自らの影に忍ばせ、闇の魔道士として宮廷魔術師に選ばれたが、あえなく事実が発覚し、打ち首となったことがある。
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二つ目、シュヴァルツ・トーポは、『闇鼠』を得たことで条件が達成され、進化可能となった種族であった。見たところ魔力特化で、こと闘力に至っては窮鼠と同等だった。
「うん、結構ありじゃね?」
「この種にすれば、更に闇を操る力も強まりそうだしな」
「ただ私も打ち首にされそうなのがちょっとな」
「誰がそんな事するんだ」
しかし、総合力で言えば次に来る黒死とやらに劣っているのが唯一憂慮すべき点であった。
「次は黒死、か」
「随分物騒な名前だな。鼠でも何でもないじゃん。ペスト菌にでもなるのか?」
「まぁ、見てみない事には判断は出来ん。いくぞ」
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【黒死】
闘力:D 魔力:C 潜在:C
進化条件:
『闇属性の鼠型魔物』 (達成)
『魔王軍配下』 (達成)
『魔力:100以上』(達成)
『格上魔物討伐』 5/5 (達成)
闇の魔力を持ち、魔王の御旗の下に強大な魔物を数大きく打ち倒した者が至る。獲物を殺傷することに異常なまでの執念を持ち、その身の爪牙と操る闇には猛毒を含む。太古の魔王は黒死の大軍を率い、人間の世界を滅ぼしたが、黒死の撒き散らした毒によってその身すらも滅ぼすことになった。
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「怖っ! 黒死怖すぎだろ!」
闇を操るという点ではシュヴァルツ・トーポと同様だが、それに付随して猛毒を有しているという。
闘力もD以上は確約され、決して無い選択肢ではなかった。しかし――解説があまりに不穏な雰囲気を臭わせているため、即断するには至らなかった。
「で、どうする? 結局二択になったけど」
「俺としては、黒死だな」
「まさか私を毒殺しようと!?」
「アホか。そもそも主は毒効かないだろ」
「いやいや! もしかしたら効くかもしれんやん!」
解説文はあくまでも昔の話であり、そもそも大軍だったからという話だ。一匹居たところで、生態系には何ら影響ないし、大体人間を滅ぼす気なんて更々ない。
よって、カリスタは黒死を選んだのだった。
「確かに、シュヴァルツ・トーポで闇の力を伸ばすのも手だ。だが、これより下層はどんな敵が居るか分からん。打撃も刺突も斬撃も効果が薄い魔物が出るかもしれん。闇の術とて結局は物理攻撃だ。手数は多い方が良い」
「お、おぉ、色々考えてるのな。えらいぞ〜カリスタ。よ〜しよしよし」
「毒殺怖がって露骨に媚びてくるなこいつ」
人が変わったように、カリスタを両手でわしゃわしゃ撫で回す麗華。
「ま、まぁアレだね。黒死の方が条件厳しいそうだし、選ぶのは全然藪坂じゃないよな、うん――毒殺しないよね?」
「するわけないだろ」
「愛想尽かして後ろから刺して来ないでよ!?」
「愛想はもう尽きてるから安心しろ」
「え、ちょ、ホントに、頼みますよ?」
強大な存在になりかねないカリスタに、麗華は生命の危機を感じる。
そんな主を尻目に、カリスタは進化を開始してしまう。
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進化先
【黒死】へと進化を開始します。
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カリスタの灰色がかった体毛が、ほろほろと抜け落ち、漆塗りのような深みのある黒色の体毛へと生え変わる。
毛質は大きな変化を見せ、針のように太く固かった毛は、細やかで柔らかい毛並みへと変貌した。
変化はそれだけでなく、耳は鋭く先端が尖り、尻尾も体躯よりも一回り長くなっていた。
そして何よりの変化は目の色で、赤い眼光を放つ様は、まるで火が灯っているかのようだった。
――しかし、しかしだ。
「身体が――そのまま、だと……!?」
そう、身体が――正確には、能力『矮躯なる者』を受け継いだせいで、進化前と一切変わらぬ大きさだったのだ。
「クッソォ!」
「長くなったの尻尾だけやん!」
「うるせぇバカ! 毒殺すっぞ!」
「あっひゃっひゃっひゃっ!」
この後、麗華が酷い目にあったのは言うまでもない。
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