episode 2 遭遇と邂逅
彼女――改め、麗華は自らの記憶領域に、ステータスの他に別の文が紛れ込んでいることに気づいた。
「ん? これは……?」
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【魔王軍 Lv.1】
総戦力値:1
恩恵:『支配者』
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頭の中に漠然と浮かぶ、魔王軍の単語。
ステータスの能力の欄にあった魔王之御使という文言と、どうにも被る。
更には総戦力値という数値と、恩恵というもの。
「総戦力――この1にあたるのは私?」
これは麗華の推測ではあるが、総戦力値を上げていくことで、軍のレベルが上昇していくのだろう。
そしてその数値を上げるには、麗華自身のレベルを上げて戦力アップを図るか、能力の一つ、『モンスター・テイム』というものを使って魔物を
そして最後に、恩恵の欄だが――。
「支配者……か。恩恵っていう程だし、プラスに働くもんなんだろうけど、効果がわからん」
そう呟いた矢先。
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『支配者』:
『モンスター・テイム』の成功確率上昇(大)
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どうやら、効果の説明までしてくれるらしい。
至れり尽くせりである。
「ということは、能力の説明も見られるはず」
麗華は今一度ステータスを参照し、能力の欄に並ぶ単語の説明を片っ端から表示した。
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『皆殺の型』:
殺傷を目的とした攻撃形態。肉体・武器に特殊な気力を纏い、致命的な攻撃を放つ。攻撃能力だけでなく、全体的な身体性能も向上する。上昇値は自らの気力量に依存する。また、極端な攻撃能力の対価として、守備能力を支払う事になる。
『不殺の型』:
無力化を目的とした攻撃形態。肉体・武器に特殊な気力を纏い、致命的な攻撃を与えても気絶に留める。殺傷力の上昇は見込めない。自らの気力量によって、体力と敏捷、攻撃力の上昇が見込める。
『軍団統率』:
軍団の統率・指揮能力を著しく高める。自らの意思や思考の伝達を精確且つ容易にする。また、統率を受ける者は本来の実力を超えた力を発揮する。
『調教』:
配下の成長を促す。より早く成長し、より強大になり易くなる。調教対象の自身への恐怖度上昇(大)
『モンスター・テイム』:
すべての魔物を自らの仲間にすることが出来る。テイムの際、一定以上魔物を弱らせる必要がある。また、対象は魔物だけであり、動物や人間などはテイムの対象には出来ない。
『全世界言語』:
全世界の言語を理解し、会話が可能になる。時として、世界や種族の垣根を超える。
『魔王之御使』:
魔王に直接選り抜かれ、魔王の命を遂行する者。
魔王よりいくつかの力を授かる。
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「――一番大事なところの説明だけ大雑把だな」
彼女が最も知りたかったのは、言うまでもなく魔王之御使だ。名前からして不穏な空気が漂っていたが、説明を見たことで更にその空気が増してしまった気がした。
「勝手に選んどいて放置とか、魔王やる気あんのか魔王」
麗華は放任主義も甚だしい魔王とやらに対し憎まれ口を叩くも、目の前の――正確には頭の中だが――現実から逃避することなく、甘んじて受け止めることにした。
モンスターだの、魔王だの、ステータスだの。
幾ら何でも現実から逸脱し過ぎている。
それにも拘らず、彼女は平然と受け止める。
幻覚や幻視などと一蹴せずに、だ。
だがそれは、彼女の脳内で起こっている事実を考えれば、当然の結果と言えよう。
――それは、麗華が最初に目覚め、記憶を探っていた際のことだ。
彼女はまず、自分がなぜここにいるか。そもそもここは何処なのか。それを必死に思い出そうとしていた。しかし、前後の記憶が結びつかず、思い出せず仕舞いであった。
それどころか、何も思い出せなかったのだ。
生まれの地も、家族も、何もかもだ。
自らが生まれてから今に至るまでの変遷……その全ての記憶が、彼女から欠落してしまっていたのだ。
よって彼女の頭に広がっていたのは、どこまでで続く限りない“無”であった。
だからこそ、彼女は縋り付く他になかった。
次から次へと流入してくる新たな記憶に。
そうでもしなければ、彼女はきっと自我を喪失してしまうから。
これらは無意識のうちの思考ではあるが、彼女自身、その異常性に気付いてはいた。
非現実を平然と受け止め、記憶の喪失をなかった事にしようとする己に気味の悪さすら覚えるほどに。
だが、彼女は歩く足を止めなかった。
自分が何者かなんて、思い出したくもなかったから。
「――モンスター・テイム。ちょっと使ってみるか」
麗華は、数ある能力の中の一つ、『モンスター・テイム』の行使をしてみることにした。理屈で言えば、先程のケイブ・ホッパーもテイム出来たことになるが、過ぎた話である。
解説によれば、仲間に出来るのは魔物だけで、普通の動物や人間などはテイム対象外のようであった。それ故、その辺りに這っている虫などを手懐けるのは不可能らしい。
――そういった理由があり、麗華は探索がてら魔物の捜索を並行して行っていくのであった。
そして、その成果は存外に早くやってきた。
「お? あれは……」
前方に、魚群のような無秩序性のなかに、軍隊のような『統率』の取れた動きを見せる、30cm弱のドブネズミらしき大群を確認した。
中央には一際大きな、群れのボス格と見られる存在がヂュウヂュウと唸りを上げている。
(やっ……べぇ!)
麗華は咄嗟に水路脇にあった溝に姿を隠し、息を押し殺す。彼女が回避行動を取ったその理由は鼠の存在ではない。ボス格の鼠の視線の、更にその先であった。
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【タイラント・リザード Lv.21】
闘力:57 魔力:4 戦力:38
体力:C 筋力:C 敏捷:D
気力:E 術力:- 知力:F
『暗視:★★★』『保護色:★☆☆』
『鋭牙:★★☆』『鞭:★★☆』『毒牙:★★☆』
『静音:★★☆』『タイラント:★★☆☆☆』
解説:巨大な蜥蜴の魔物。特筆すべき能力は無いものの、その巨体が内包する力は脅威。微かに気力を帯びており、牙や長い尾を強化し、獲物を仕留める。
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丸太を思わせる、するりと伸びた漆黒の胴体。
お伽話に聞くドラゴンと見紛う威容を放つ顔からちらつく、鈍く輝く凶悪な牙。
全長を目測することすら億劫になる程のその巨体は、爬虫類らしく壁や天井に張り付いていた。
(――ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! どう見てもアイツはヤバイヤバイ!!)
精神強度に優れた麗華でさえも、姿を見るだけで恐慌に陥る圧倒的なまでに現実離れした巨体。それも、同じ爬虫類で有名なアナコンダですら、比較対象にすらならない程のものだった。
名をタイラント・リザード。
地球上に蔓延した異界の魔力の影響で、地下迷宮と化した廃下水道。その上層の一部を縄張りとする極めて獰猛な魔物である。
身体の大きさ故に大食漢であり、縄張り付近の魔物の出現率がそう高くはないのは、彼が原因の一つを買っていた。しかし逆に言えば、彼の食事対象になり得ないような生物からするとまさしく楽園であると言える環境であった。
そんな場所に、今日、厄災が降りかかる。
外界と隔離され、悪辣な魔物が跳梁跋扈せし地下迷宮最下層の生存競争を生き抜いた、矮躯なる機動要塞。
名を、【
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【
闘力:37 魔力:726 戦力:4261
体力:E 筋力:D 俊敏:C
気力:C 術力:B 知力:S
『戦王:★★★★☆』『暴君:★★★☆☆』
『智将:★★★★☆』『同族支配:★★★★★』
『同族強化:★★★』『同族魅了:★★★』
『調教:★★★』『軍団統率:★★★』
『鼓舞:★★★』『笛之音:★★★★★』
『王者波動:★☆☆☆☆』『激励:★★☆』
『ジャイアント・キリング:★★★★☆』
『狂戦士化:★★☆』『隠密:★★★』
『噛みつき:★★★』『無音:★★★』
『暗視:★★★』『跳躍:★★☆』
『覇王之御使:---』『同族喰らい:---』
『真化者:---』『竜骸喰らい:---』
解説:竜骸を喰らい、死線を抜け、
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彼は号令を出した。
自らが指揮する死を運びし軍隊へ。
我が覇道を阻む怨敵を滅せよ、と。
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