第7話 世界の変化


 いつもの日常だった。

 俺が魔人を処理すると決めた次の日の昼休み。

 シャルが休んでいたのは気になった。もちろん気になるというのは何か裏で動いているのではないのかという意味での気になっただ。

 さすがの俺にも特定の個人の居場所がわかる魔法はわからない。妹は別で、メルの居場所は常に把握している。

 メルが常に携帯しているエクスカリバーの本来の持ち主は俺だ。持ち主となったときに魔力によるパスができて、エクスカリバーの場所がわかるようになった。

 メルは今訓練中だろう。学校の中庭で素振りしている。

 すると突如シャルの魔力が教室の外に出現する。傍らには多分宮廷魔術師だろう、この学園にはない大きな魔力が共に現れる。どうやら何か異常事態のようだ。


 「ルース君」

 

 教室のドアを開け放ち、入ってくるシャルと宮廷魔術師。

 教室にいるクラスメイトや廊下の他クラスの生徒たちがいつもとは違ったシャルの様子に戸惑いながら見学に来る。


 「ルース君、いいえ……ジル・セウルス。国の代表として命じます。この国を救ってください」


 「えっなに? どうゆうこと?」「わかんないよ」「王女様がシスコンに何をしてほしいって?」などと教室中がざわめき出す。


 「現在アルトリアは推定1万の魔人に包囲されています。奴らの一人が父であり王のクルル・ツェペシを亡き者にしました。そして奴らは不遜にもアルトリアに宣戦を布告、現在ここより100キロの地点にて交戦の準備をしています」


 どうやら魔人共が攻めてきたようだ。そりゃ慌てるだろう。俺は簡単に半殺しにしたが、本来なら宮廷魔術師が1000人でやっと倒せるといったレベルの相手だ。そんなのが1万となると王国の危機だろう。

 クラス中がざわめき始める。


 「魔人ってあの魔人?」

 「でもそれって伝説上の存在なんじゃ……」

 「バカ! 100年前にどこかの王国が魔人1体に滅ぼされたって……」

 「1体に! そんなのが1万体ってヤバイじゃん!」

 「でもなんであのシスコンなんかに頼むんだよ……」

 

 周りから様々な声が聞こえる。

 当然だろう。俺の力はシャルしか知らない。

 廊下からざわめきと共にメルの魔力が近づいてくるのを感じる。


 「シャル姉! これは一体どういうことなんですか!?」


 大声を出し状況の説明を求めるメル。

 

 「メルちゃん……いいえ勇者メルディ・セウルス。今は控えなさい」

 「なっ!」

 「改めて依頼します、ジル・セウルス。この街を救ってください」


 今度は頭を下げてお願いをしてくるシャル。

 クラス中がより一層の喧騒に包まれる。それはそうだろう。一国の王女がただの一般人に頭を下げているのだ。しかもそいつは魔法も剣術も成績最下位の男。

 多分シャルにとってこの状況は計算どおりだろうな……。


 「兄さん! 説明してください! この状況は何なんですか?!」

 「……今アルトリアは1万の魔人に包囲されているらしい。そして王様は死んで今はシャルが代理の王だ」

 「なんですって! なら私がその魔人たちを……」

 「だめだ」


 思わず魔力を込めて言ってしまう。

 周囲にざわめきが静まり、静寂に包まれる。


 「シャル……お前……こうなることを読んでたな……」

 「さて……なんのことかな?」

 

 シャルはメルの性格をよくわかっている。

 勇者として国の危機に立ち上がれないわけがない。

 だが今のメルだと魔人を10人相手にするのがせいぜいだろう。

 だからシャルにそこをつかれた。今のメルが行けば確実に死ぬ。そんなこと俺が許すはずがない。

 そして英雄として帰ってきた俺と正式に婚約する。国全体が祝福してくるだろう。


 「はぁ……わかった。今回はお前に使われてやるよ」

 「では早速行ってください」

 「待って! 兄さんに何ができるというの! 私のほうが!」


 身体強化魔法を10倍にしてメルの腰にある聖剣を抜き取る。

 今のだとここにいる誰にも俺の姿は見えなかっただろう。勇者であるメルにも。


 「なっ!」

 「これ借りてくな」


 肩にエクスカリバーを乗せながら格好つけてみせる。

 別に死にに行くわけじゃないがここは格好つけたほうが妹の株は上がると思ったから。


 「ではよろしくおねがいします」

 「ああ、お前に乗せられてやるよ」


 外には1万の魔人。

 さすがの俺も無傷ではいられまい。

 教室の窓から外に出用とするが後ろから声をかけられる。


 「待って……待って! 兄さん!」

 

 メルの叫びが教室中に響く。

 

 「なんだい?」

 「兄さんはずっと……私をどう思ってたの!? いつも私は兄さんにしっかりするように言ってきた。でも本当の兄さんは私より強くて……勇者にだって私じゃなくて、本当は兄さんが選ばれるはずだったんでしょ?」


 俺は黙って聖剣を見る。

 こいつ今バラしやがったな……。


 「なのに私が勇者になりたいって言ったからって……そんなのっ!」

 

 これ以上話させないために俺は静かにメルの唇に指を当てる。

 そしてメルにしか聞こえない声でささやく。


 「俺がお前をどう思ってるかなんてわかってるだろう? そんなの愛してるに決まってる。世界で一番な」

 

 泣いているメルをそっと抱きしめる。 

 俺はお前を守るためなら何でもするよ。

 そして1万の魔人が待つアルトリアの壁の外に行く。

 

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