第4話 とりあえず……


 どす黒い魔力を溢れ出し殺意をむき出しにしてくるロペス。

 

 「たしか兄は妹に比べてカスみたいに何もできないって学校で噂になってたな。少しくらい楽しませてくれよ。お兄ちゃん」

 「…………」


 魔力を練り上げるロペス。

 俺はそれを黙って見る。相手の魔力の性質を見るためだ。

 しかしロペスには俺がただ立っているだけに見えているのだろう。


 「ふはははははっ! 俺の圧倒的な魔力に何もできないと悟ったようだな!」


 全く違うが勘違いしてくれているならそれでいい。

 奴は火属性の魔法を得意としてしているのだろう。魔力の流れからそれが分かる。

 

 「死ね!」


 ロペスが詠唱無しでエンペラーストームを発動させる。

 さっきのよりも規模は小さいが魔力が込められており、破壊力だけならこっちのほうが上だろう。

 俺に向かって放たれる青い炎。このまま喰らえば骨も残るまい。

 しかし、もちろん俺には効かない。


 「消えろ」

 

 俺は目の前に迫っていたエンペラーストームを調和させる。

 調和魔法は対象魔法を対となる魔法で完全に消す魔法だ。もちろん俺のオリジナル魔法だ。

 自身の魔法が何故消えたのか理解できていないロペスは動揺を隠しきれていない。

 その隙に俺は常に自身にかけている身体強化魔法を10倍にして瞬時にロペスの背後を取る。


 「なっ!」

 「遅いよ」


 こちらを振り向こうとして俺は背中を蹴り飛ばす。

 10メートルほど吹っ飛んだロペスはなんとか体勢を立て直しそのまま立ち上がる。


 「き、貴様なぜそんっ!」


 言わせねえよ。

 俺は再びロペスの背後を取り蹴り飛ばす。

 そしてまた吹っ飛ぶロペスを今度は体勢を整えられる前に再び蹴る。


 「ぐはっ! や、やめっ! ってくれっ!」


 やめるかよ。

 お前は妹を誑かし、気持ちを弄んだ。この俺がそんなことした奴を見過ごすか。

 何回繰り返したのかわからないがロペスが何も反応しなくなり蹴るのをやめる。

 うつ伏せで倒れるロペスの髪を掴み起き上がらせる。

 そこには顔中血だらけになった金髪イケメンくんの顔がある。


 「おい、もう終わりか? 起きろよ」


 魔力を込めて言うと腫れたまぶたがゆっくりと持ち上がる。

 

 「ひっひぃぃぃぃ! お、お前はい、一体なんなんだ!」

 「うるさい。勝手にしゃべるなよ」

 「ぐへっ!」


 黙らせるために殴る。

 右の拳が熱くなる。


 「…………」

 「お前は黙ってろ」

 「…………」


 コクコクと首を縦に振るロペス。

 とにかくこいつは殺す。

 右手に魔力を込める。


 「最後に何か言いたいことは?」

 「…………」

 「ああ、そうか。黙ってろって言ってあったな」


 なにか言いたそうにしているが、俺の言霊魔法のせいでウンウン唸っていることしかできてない。


 「死ね」


 首に向けて手刀を放つ。

 魔力を込めた手刀はロペスの頭と胴を切り離す……はずだった。


 「ロペスさん!」


 近くでメルの声が聞こえた。

 どうやらメルがこいつを探しに来たらしい。


 「命拾いしたな。でももしお前が一人きりになったら、お前にナニをちょん切ってから、指をケツの穴に詰めて殺す。それに妹に俺のことを話したら……今言ったことの100倍苦しい思いをすることになるからな……」

 「…………」


 返事はもちろんない。言霊が効いているからだ。

 そして俺は魔法サイレントインビジブルを発動し姿を消す。

 すると10秒もしないうちにメルがロペスを見つけると走って駆け寄っていく。


 「ロペスさん! 大丈夫ですか?!」

 「…………」

 「ひどい……。でも生きてる!」


 メルは傷だらけのロペスに治癒魔法をかける。


 「これで大丈夫なはず……」

 「メル! ここにいたのか!」

 「みんな! 早くこっちに来て!」

 

 次々とメルのパーティーメンバーが現れる。

 それぞれの役割を果たしロペスを看病するメンバー。


 「とりあえず早く街に戻ろう! ここだと魔物に襲われるかもしれないし、上級の治癒魔法をかけられる人がいない!」

 「俺がロペスを運ぼう!」


 急ぎ街に戻ろうとするメル達。

 俺はとりあえず少し離れて付いていくことにする。

 


 

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