第3話 なんだかんだでドラゴン登場



 周辺の村を襲っているゴブリン退治をするために南の森へ向かう勇者パーティー。

 男2、女3の合計5名で構成されるパーティーの中に天使と見紛うほどの可愛い黒髪ロングの美少女がいる。

 我が妹メルだ。

 

 なぜ俺は妹を尾行しているのかというとどうやら妹は現在恋をしているらしい。

 相手は仲間の賢者ロペス。一緒にいるあの金髪イケメンだ。

 普通なら妹の恋を応援してやるのが兄の務めだが、俺の第六感があの金髪イケメンには何かがあると訴えている。その何かを調べるためにこうやって尾行しているわけだ。


 「そろそろゴブリンのテリトリーに入る。顔引き締めていこう」


 金髪イケメンがそう言うとメルを含めパーティー全体の雰囲気が戦闘モードになる。

 なるほど。ゴブリン相手でも油断しない。素晴らしい心がけだ。

 すると100メートル先に魔物の気配がする。今のところ気付いてるのは俺だけだ。

 30メートルくらいの距離になりメルが魔物の存在に気付く。


 「30メートル先に魔物がいます。ゴブリンか分かりませんが行ってみましょう」

 

 メンバーは頷くと前衛に魔法剣士と剣闘士、中衛にメル、後衛に賢者と弓使いというフォーメーションをとる。バランスのいいパーティーだ。

 

 「あの茂みの奥にいます」

 「よし、俺が行こう」

 「気をつけて下さい。ゴブリンは意外と賢いです。何か罠を張っているかもしれません」

 「分かってるよ」


 ロペスの忠告に笑顔で頷く剣闘士マーク。

 俺は先回りして茂みの奥の様子を見に行く。

 そこにはたしかにゴブリンがいた。

 

 1000体ほどのゴブリンが。


 明らかに普通じゃない数のゴブリン。通常ゴブリンは30~50匹の群れで行動する。1000匹はさすがに異常だろう。しかも剣闘士マークの存在に気付いており、今か今かと待ち構えている。

 まあられたりはしないだろうが、さすがにこの物量はやばいだろう。

 とりあえず俺は黙って見守ることにする。


 「なっ!」


 どうやらマークがゴブリンの異常な数に気付いたらしい。

 ゴブリンたちは雄叫びを上げながら一斉にマークに向かって襲いかかる。

 しかしそこはさすが勇者パーティーのメンバー。即座に一体、二体と襲いかかってくるゴブリンを屠りながら後退していく。


 「おい! こりゃヤベェぞ! 数が尋常なく多い!」

 

 パーティーと合流したマーク。

 メルたちはゴブリンの異様な数に驚くも冷静に対処する。


 「メルとマークは近づいてくるゴブリンを! リリィとビスは二人の援護を! 僕が大規模魔法で一掃します!」

 「おう!」

 「了解した!」

 「了解しました!」

 「分かったニャ!」


 ロペスの指示で的確にゴブリンを捌いていく。

 ロペスは詠唱しながら手で指示を送っている。


 「煉獄の炎よ、すべてを焼き尽くす炎よ、我の敵を焼き払え! エンペラーフレイム!」


 エンペラーフレイム。

 対象を灰すら残さずに消す大規模炎魔法だ。

 本来この魔法の詠唱はこんなに短くない。並の魔術師でも詠唱に5分くらいかかるはずだが。

 そこはさすが賢者ということか。

 青い炎がゴブリンを襲い100体ほどが存在ごと消える。

 それからエンペラーフレイムを5回ほど繰り返し

 

 「はぁ……はぁ……」

 「ロペスさん大丈夫ですか!?」


 肩で息をするロペスにメルが珍しく高い声で声をかける。

 おそらく魔力切れでも起こしたのだろう。

 エンペラーフレイムは威力は高いがかなりの魔力を消費する。5回も放てたならすごい方だ。

 

 「くっ! こいつはやべぇぞ!」

 

 勇者パーティーはかなりの数のゴブリンに囲まれかなりピンチだ。

 普通のパーティーならここで全滅だろう。

 しかしこのパーティーには勇者がいる。

 

 「私に任せてください」


 メルが凛々しく一人で前に出る。

 手には聖剣エクスカリバーを持ち輝く黄金の光を身に纏っている。

 メルが勇者になって1年。

 久しぶりにメルの本気が見れる。


 「行きますよ。エクスカリバー」

 『おうよ』


 聖剣に語り掛けるメル。

 今メルにはエクスカリバーの声が聞こえてるはずだ。

 エクスカリバーの声は勇者に選ばれた者にしか聞こえない。

 なんで俺には聞こえるのかって? それは昔色々とあったからだよ。


 「光よ」

 

 その短い言葉の中にとてつもない魔力が込められているのが分かる。

 メルの身に纏う黄金の光が蠢き形作られていく。


 「天使だ……」


 思わずそう呟いてしまうほどメルの姿は神々しかった。

 身に纏う魔力の光が翼を形成し周囲を明るく照らし、空間自体が神聖な場へと変貌している。

 その姿はまさに神話の天使そのもの。輝く黄金の翼を羽ばたかせながらゴブリンを蹂躙している。

 俺は巻き込まれないように距離を取りその神々しい姿を見守る。


 「さすがだな、メル」


 400近くいたゴブリンを瞬く間に殺していくメル。ちなみに魔物は死んだら魔石となり消える。魔石は冒険者の収入源だ。色んなものに加工され売られている。

 メルの通ったところにはゴブリンの魔石が所狭しと落ちている。


 「ふぅ……。光よ」


 全てのゴブリンが魔石になったのと同時に再びメルが詠唱をする。

 途端にメルの纏っていた光が聖剣に収束していき消える。

 

 「メル殿、お疲れさまでした。それにさすがです! やはり何回見てもお綺麗です!」


 興奮冷めやまぬといった様子で銀髪の魔法剣士リリィがメルに近く。


 「ありがとうございます。リリィさんもお疲れさまでした。しかし一番頑張っていたのは……ロペスさんですよ」


 頬を赤く染めながら少し伏し目がちでロペスを見つめるメル。

 その瞳にはやはりと言うべきか乙女の視線がうかがえる。


 「そんなことはないさ。僕なんて魔力切れを起こしてこのざまだからね」


 ロペスは地面に腰を下ろし額からは汗が出ている。

 しかしそんな姿でさえも金髪イケメンには様になっている。


 「しかし……ゴブリンがあんなにも大量にしかも群れで行動するなんて……」

 「今まであんニャのは見たことないのニャ……」

 「ああ、メルが勇者でなかったら俺たちは全滅してた」


 ビスとマークがロペスの言葉に神妙に頷く。

 

 「もしかして……魔王が何か仕掛けてきたとか……」

 「いやさすがにゴブリンで勇者をどうにかしようとは魔王も思わないでしょう」

 「少し調べていきましょう。何か分かるかもしれません」

 「ロペスさんは大丈夫なんですか? あんなにエンペラーフレイムを発動したからお疲れでは……」

 「大丈夫。心配してくれてありがとう、メル」


 二人の間にピンク色のキラキラが見える。

 他の3人もやれやれといった感じで二人を見ている。リリィなんて顔を真っ赤に染めて手で顔を覆ってしまっている。

 えっ……もしかしてもう付き合ってるの? もう手遅れなの? 俺が気づかなかっただけでもう大人の階段登っちゃったの?

 

 「とりあえずゴブリンの魔石を見てみよう。何か分かるかもしれない」


 澄まし顔のロペスの提案に頷く一同。

 ゴブリンの魔石をリリィが風魔法で一点に集める。山のように積まれた魔石は売れば相当な額になるだろう。

 メルたちは魔石を一つ一つ手に取り異変がないか調べている。

 するとロペスが何かを見つけたのか仲間を呼び手に取っている魔石を見せている。


 「これを見てください……」


 手に持っている魔石は通常の魔石とは異なりひどく禍々しい雰囲気を醸し出している。  

 

 「これを見てくれ……」

 「なんだか……真っ黒ですね……」

 「こんな魔石見たことニャいニャ」


 黒々とした魔石は不思議な魔力を帯びているがそれにメル達が気付いた様子はない。

 すると突然魔石が発光を始め、地響きが起こり始める。


 「ニャ、ニャんだ! ニャにが起こってるニャ!」

 

 地響きに続き今度は近くで何か巨大な生物の鳴き声が響く。

 

 「この声は……もしかして……」

 「ド、ド、ド、ドラゴンニャ!」


 ここから10キロ以上離れたところで膨大な魔力の塊が現れたのがわかる。

 この魔力は一度魔王との戦いの時に似たものを見たことある。たしか魔王のペットがドラゴンだったような……。

 メルたちもドラゴンを見たことがあるようで声を聞いただけでわかったらしい。

 ここまでくると俺も姿を見せるべきか迷うがメルに言われたことが頭をよぎりもう少し見守ることにする。

 そして黒く巨大な影が現れる。ドラゴンだ。

 ドラゴンは空を駆け一直線にメル達のいるところに向かって来ている。

 

 「メル! もう一回さっきの力を使えますか?」

 「すいません! 後10分は無理です!」

 「まずいですね……」


 ドラゴンはあっという間に10キロの距離を駆けてくる。

 そしてメルたちの目の前まで飛んでくると鋭い牙を見せつけるように口をひらき空に向かって高々と火炎を吐く。片目には古傷が付いている。


 「ギャャャャャャャ!」


 あれ? あの古傷は……。

 溢れ出る既視感。記憶を辿ると案外簡単に思い出した。

 あのドラゴンは以前俺が魔王の所に行った時立ちはだかったドラゴンだ。

 たしかあの目の傷は俺が落ちてた木の棒でつけたものだったような気もしなくもない。


 「皆さんは逃げてください……僕が囮になります」

 「何を言っているんですか! ロペスさんを置いていけるわけないじゃないですか!」


 おっと。考え事していたら何か修羅場みたいになってしまっていた。


 「今の僕は完全に足手まといです。それにメルが……勇者がここで死んだら世界はどうするんですか?」

 「で、でも……皆さんもロペスさんを止めてください!」

 「…………」

 「…………」

 「そ、そんなどうして……」

 「みんなも分かってるからですよ。ではみなさん後はよろしくお願いします」


 リリィ、ビス、マークは打ち合わせ通りとでもいうように黙って頷き、メルを抱えてドラゴンから離れていく。多分こういう時になったらと事前に相談していたのだろう。


 「待ってください! そんな……ロペスさんっ!」

 「大丈夫。僕だってこう見えて賢者だよ。ドラゴンから逃げるくらい訳ないさ」


 な、なんだこれは……。

 まるでこの後生きて帰ってきたロペスとメルが抱き合う様子が見える。どうやら未来予知を習得してしまったようだな。


 「こっちだ! ファイヤーボール!」


 残り少ない魔力をドラゴンの意識を向けさせるために使うロペス。

 ふっ……参ったぜ……。どうやらロペスの野郎はメルにふさわしいようだな……。

 そう思いロペスを助けてあげようと魔法を構築する。

 しかし――


 「いやー完璧に騙されてたな」

 『そうじゃのう。久々に本気で吠えたわい』


 マジか。

 見るとロペスがドラゴンに近寄りまるで往年の親友みたいな感じで気軽に声をかけている。


 『で、なんでこんなことわしに頼んだのじゃ?』

 「お前も見ただろ? あそこには勇者がいるんだよ。しかもこのオレに惚れてやがる。長年いい子ぶって人間の中に潜入して甲斐があったぜ」

 『勇者を……どうするつもりじゃ?』

 「どうするも何も魔王様の所に献上するに決まってるじゃねーか」


 明らかに雰囲気も口調も変わっているロペス。

 なるほど……そういうことね。つまりすべて茶番だったってことか……。

 でも何故ゴブリンをパーティーにけしかけたのかだけ分からない。


 「さてと……そろそろ戻るとするか……。今日は悪かったな、ザード」

 『わしも前に謎の男に負けて以来自信喪失気味じゃったからな。良い練習になったわい』

 「へぇ~ザードの旦那が負けるなんて余程凄い魔人だったんでしょうね」

 『いや、あやつは魔人などではなくただの人間じゃった』

 「なっ! ただの人間如きがあんたに傷をつけたなんて!」

 『世界は広い。そういうこともある……。お前さんは自分より強い相手に出会ったら迷わず逃げるんじゃぞ。老骨の忠告じゃ』


 そう言うと翼を広げ漆黒のドラゴンは彼方へ飛んでいってしまった。

 さてロペスの奴を殺すか。

 あのドラゴンにられたことにすればなんの問題もない。メルは悲しむかもしれないが……。


 「おい」

 

 とりあえずなぜこんなことをしているのか聞いてみるためサイレントインビジブルを解き姿を見せる。

 

 「何だ貴様。なぜこんなところに……って勇者の兄貴か。溺愛する妹を尾けて来たのか。キモすぎだろ」

 「そんなことよりお前魔人だったんだな」

 「ん? ああ、僕としたことが魔人モードのままだったのか……。まぁでも……キモいお兄さんはここで死ぬからバレても関係ないか……」

 

 大量の魔力がロペスから溢れ出し、殺意が俺にビンビン伝わってくる。

 どうやら戦闘開始のようだ。

 

 

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