第四夜アライメント・トリニティ


ガララ!ガラッ!


何か、重いものを引きずる音がする。


喰狩誠也が後ろを振り向くとそこにはおかっぱ頭にがしゃどくろが描かれた赤いスカジャンが特徴的な奇抜で奇をてらったファッションをしている男が打撃部分の頭部と柄を組み合わせた合成棍棒の一種である。 日本語では鎚矛、槌矛つちほこあるいは戦棍せんこんと呼ばれるメイスと呼ばれる武器を引きずっていた。


「我こそは『鵺』、辻より来たれし災厄、って、そないなかったるい挨拶抜きにのぉ、おどれ死んでくれへんか?喰狩誠也クゥン!」


「『鵺』だと!?」


喰狩誠也がそれに深く不快に驚いた、『鵺』とは得たいの知れない不気味な存在である。


「そうやで?なんか珍しいんか?」


「あぁ、珍しいな、てっきりだと思っていたからな」


「せやねん、『鵺』は色々あって絶滅危惧種やねん、って、おどれら人間がわしらを絶滅させる心算しとったとは、こりゃ驚きやな」


メイスを持ち上げて肩に乗せた男が、喰狩誠也に対して、それを完璧に挑発だと認識して、顔に青筋を浮かび上がらせたのだった。


「あっはっは、おどれ中々おもろい事言うやんけ、でもそないな事を聞いて漫才始めようとか言う心算はないで?わしのお目当てはおどれの惚れた女の形見のその魔導具やで?」


喰狩誠也はそれに苛立ちを隠せなくなる。


「人様の死んだ女の形見を奪おうとするのは悪趣味なヤツだな」


「しょーないやろ、その魔導具は『鍵』の役割をしとって、それがないと開けられへんがあるねん、分かったらちゃっちゃと渡せい」


「『鍵』??」


その疑問に答えは返ってこない、その代わり、その男はメイスを構えていたのだった。


「あー、知らんかったか?あのアマはほんま寡黙やったなぁ、まぁええわ、おどれの肉はボコって砕いて壊してミンチにして殺してどっかの人肉料理店に売りさばいてやっから」


「じ、人肉料理店?」


「『鵺』のためのよーな店やでぇ?そないなおどれの死体の末路なんてえぇやろ、今、おどれが考えなあかんのはどう死なないかや」


そしておかっぱ頭の男は急接近してきた、俗に言う縮地、メイスを振り下ろしながら、その男は攻撃してきた。


喰狩誠也はその攻撃をかわしたが、メイスの先っぽが地面に当たって、そこが爆発した。


「これは『魔物解放派』の爆弾魔の能力!」


「あぁ、あのアマ殺したソイツ、『鵺』の獲物を横取りしたって事で捕まり、嬲られまくったで?人間体はおっさんやったし、最後まで醜い姿を晒しよってほんま腹立ったわ、その亡骸を魔導具にした、魔物を魔導具にして扱うから魔導師、『鵺』は魔導師の中でも魔導具を使うんのを極めた者に送られる称号やでぇ、なら、もう実力差も瞭然やろがい!」


今度は振り下ろたそれを上に振り上げた。


「ちっ」


それをバックステップでかわした喰狩誠也。


そしておかっぱ頭の男は再度構えて、そしてまた振り下ろす。


「のろいのぉ!ほんま!」


メイスを途中で振り下ろすのをやめ、突きを放ってきた、それはまさに神速の域だった。


喰狩誠也の右肩に当たり、そして爆発した。


「ガァァアッ!」


「ほな、もう一丁!」


今度は左膝に当たり、またもや爆発した。


「グッ、グゴ、ガ!」


「わしは『鵺』の中でも『武芸百般』が出来るからあらゆる武器を使いこなせられる、今の二発、ほんまは槍でやるようなやったからのぉ、じゃー、今度は剣のやつでやるでぇ」


それは薩摩の示現流の蜻蛉とんぼの構えと呼ばれるモノだ、蜻蛉の構えは左足を前に出し、剣を持った右手を耳の辺りまで上げて、左手を軽く添えるという八相に似た構え。その特徴は左肱をそこから少しも動かさない「左肱切断」によって手元を動かないようにして、右手だけであたかも石を投げるように相手に向かって剣を振り降ろすことによりより速い斬撃を送ることができることにある(なお他の流派では剣を支える軸になるのは左手の小指であり、この点は現代の剣道でも変わらない)。また構えるとき刀の刃を体の外側に向けて置き、捻り打ちに打ち下ろすため、斬る力が強いが、高度な技術が必要である。


「ほないくでぇ、チェエエエストォッ!!」


片足だけでバネ足ジャックよろしく後方に飛び跳ねたがそれでは避けきれる気がしない。


しかし、その振り落とし攻撃が当たるという危機は免れて、その代わりに新たなる危機が現れた、二人がいるのはミノタウロスとなった牛頭宮明市と幼い魔女の棗川ゼフィラの死体のある廊下、階は三階、二人から見て、おかっぱ頭と喰狩誠也の片サイドには窓があり、その窓がパリーンと小気味良く割れる。


そして現れた男、二丁拳銃を持ち、火もつけず曲がりくねった煙草をくわえ、シルバーアクセサリーをじゃらじゃらさせ、ダボダボのファー付きカーキ色のコートとよれよれのシャツにズタズタのジーンズをしている無精髭の男は赤くカラーリングされた左手の拳銃は左に、青くカラーリングされた右手の拳銃を右に向けて、そして容赦なく乱射する。


「チィ!」


「グッ!」


おかっぱ頭はそのまま振り落としきり、そして廊下の地面を裏返して、浮かび上がらせた瓦礫で弾丸をガードしていった、喰狩誠也は居合い斬りにより弾丸を切り落としていく。


「流石、『魔界界隈』の中で『凶剣士』の異名を持つ華城美鐚深幸かしろみあみゆき、通称MMの弟子の喰狩誠也と遥か昔より『鵺』として地位を確立して、室町時代より海外に自分の国の奴隷を売る海運業で元々有名で、その奴隷シンジケートを国内にも構築して江戸時代には全国各地の遊郭を支配して、戦前にも慰安婦、公娼を取り仕切り、内地で生産した麻薬を海運で満州国に輸入して、今でも関西の麻薬売買の流通を裏で管理して、今ではゼロゼロ物件、無料低額宿泊所、ヤクザのためのフロント企業の貸ビルなどの不動産案件やJKビジネスなどにも手を出している悪名高き複合企業コングロマリットの『巽グループ』の御曹司、巽零たつみぜろだな?」


「長説明台詞どうもありがとう、しかしやなぁ、あのアマの名前とその坊主はどうでもえぇねん、突然飛び込んで何さらしとんじゃおどれ、どこの誰や、名前言ってみいやおい」


ガンマンの男は名乗りをあげた、ガン=カタだろうか、とてもかっこよいポーズである。


「俺様の名前は鬼神ヶ浦瀬徒だ!」


それに巽零は初めて聞いた!って顔をしているように見えて聞いたことあるな!という曖昧模糊に不確かで不思議な表情をした。


「ほぉ、あの終焉ゼット計画のなぁ、そんなら、この階まで飛び上がるための馬鹿力発揮しても再生能力でカバーできるわなぁ……」


「知ってるのか?」


鬼神ヶ浦瀬徒は巽零の方を見て、言った。


うんうんと頷きながら巽零は語り始めた。


「もちろんや、うちんとこは秘密結社トリニティのスポンサー様の一つやった、ただ、満州国や慰安婦の件暴かれて関係おじゃんになったがな、今はもうわしらは今は東洋より西洋とか南米とか中東に目を向いてる、時代はやっぱりグローバリゼーションやでぇ?」


「そうか、口封じされそうだな」


喰狩誠也が巽零にそんな軽口を叩いた。


「それは


と、巽零は喰狩誠也の軽口にそう返した。


「そこまで知られてるならどうするか、そこのトリガーハッピーのバカはどうやら僕達の敵のようだ、それゆえ敵の敵は味方になるんだがな、どう思う?巽零、二対一には誰がなれば良い?それともこのまま三人でバトル・ロワイアルとでもしゃれこみたいのか?」


それに巽零は賛同した。


「願ったり叶ったりやな、終焉ゼット計画の目的の一つはやからなぁ」


「俺も同感だ、そこに『鵺』がいる、そして喰狩誠也、いや、あの魔導具作りの魔導師が造った『不死式自動人形型魔導具』、それも壊さねばな、それは曰く付きの品だからな」


その鬼神ヶ浦瀬徒の言葉を喰狩誠也は戸惑い、そしてオウム返しのように言葉を放つ。


「ふ、『不死式自動人形型魔導具』??」


それにおいおい知らなかったのか?という顔をする鬼神ヶ浦瀬徒はそのまま真実を紡ぐ。


「お前は人間じゃない、ドールマニア悪徳令嬢の『鵺』に売られるはずだった『物』だ」



「おいおい、鬼神ヶ浦クゥン、それは酷な話やで、わしでもそこに触れへんかったのに」


それに呆れ果てる巽零、彼が数分前に言っていた殺した後に人肉料理店の売るのくだりは人間ではない人形に言えた冗談らしかった。


「僕は、僕は人間なんだよぉおおおっ!」


喰狩誠也は頭に湧いた妄念、それを植えつけた鬼神ヶ浦瀬徒を殺しにかかり、抜刀した。


「事実を言ったまでだ」


鬼神ヶ浦瀬徒は彼に向けた赤くカラーリングされた左手の拳銃から火炎放射のように流れるように伸びる火炎の竜を発射していった。


それを見て、巽零はダッシュ、鬼神ヶ浦瀬徒のもう片方の青くカラーリングされた右手の拳銃から放たれた雹をスライディングしてかわしながら、そのままスライディングのまま喰狩誠也の足のくるぶしをメイスで狙いにいく。


「もろたで!この、もはや中古品野郎が!」

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