仲間はずれの気分

「陽介、なんで嫌なんだ?」


 全員の注目を集める俺。

 アルバート達、俺のパーティメンバーは純粋に理由を聞きたそうだが、リトア達からはピリッとした空気を感じる。

 俺の次の言葉をみんなが待っている。

 興奮してくるな。


「……なんとなく。なんとなくなんだけど違和感があってさ。聞かなかった事にして帰らない?」


「なんとなく……か」


 アルバートは俺のあまりにもふわふわした適当な返事を受け止めてくれている。ほんとこいついいやつだな。

 リトアが俺達の会話に割って入る。


「陽介。どうしても頼めないだろうか? 陽介の『索敵』は私達の今後の作戦にとても役に立つ。報酬は満足なものを用意させてもらうし、なるべく危険はないようにしたい」


 リトアは真剣だ。


 ……ただなぁ。

 こんな駆け出し冒険者の集まりにそんな報酬準備するか?

 自分で言うのもなんだが、勧誘されるほどのメンバーじゃないだろ。

 

〈くっくっく。お前は身の程がわかっているな〉

 

 なんだよ。


〈いや。人族は身の程知らずが多いからな。好感が持てるぞ〉


 っち。変なところに好感持ちやがって。


 さてさてどうしたものか。

 とりあえず協力するふりでもして途中で抜けるか?

 なんかそれが良さそうだな。

 馬車に戻ったらみんなにこっそり俺の考えを伝えよう。


 リトアは少し不安そうな表情で俺を見ている。


「わかった。協力しようか」


 俺の返事を聞いたリトアは、ほっとしたのか爽やかな笑顔を見せる。

 男も女も落とすなこの笑顔は。

 俺達はリトア達「魔殺」に協力する事にした。







「さっそくだが、これをつけてくれないか?」


 そういうとリトアは俺達にブレスレットを渡してきた。

 何の特徴もない、細い金属性の黒いブレスレットだ。

 多少重量感はあるが、気になる程ではない。

 レジーナは受け取るとさっそく腕に通す。


 少しは警戒しろよな……


「これは?」


 さっそく腕に通したレジーナはリトアに尋ねる。


「これはお互いにいる場所を知る事ができる腕輪だ。けっこう貴重なモノだから大切に扱ってくれ。使い方は……」

 

 どうやらお互いのいる場所わかる腕輪のようだ。

 そこまでの精度は無いようだが方角とだいたいの位置がわかるらしい。


 魔力を通して使う魔道具らしいが、俺は使う事ができない。

 魔力なんて胡散臭いもの無いしな。


 リトアが「魔力を通して~」なんて言うがまったくわからん。


 俺だけみんなの位置わかんないじゃん!


 ローラは腕に通すと早速魔力を通したようだ。

 驚いた顔から察する事ができる。

 どのように他のメンバーがわかるのか、さっぱり想像もつかないがレジーナやアルバートと目が合っては笑っている。


 俺だけ仲間はずれじゃん!!


 俺の心の叫びに気付いたのか、ローラは俺の様子を伺うように声をかけてくる。


「陽介さん? 拗ねてるんですか? 」


「す、拗ねてないし!! そんなおもちゃいらないし!!」


「もう。 これがあれば陽介さんが迷子になったら探してあげれますよ?」


「迷子になんてなるか!」


 駄々をこねる子供を見るかのような、今にもため息をつきそうな顔で俺を見つめるローラ。

 子供扱いしやがって!


「おっぱい!」


「ちょ、ちょっと陽介さん!! 声に出てますよ!!」


 一瞬で顔を赤くするローラ。

 バカを見るかのような視線を放つレジーナ。

 アホを見るかのような視線を放つアルバート。

 

 突き刺さる周囲の視線。 

 

 バカなことをやっている内にリトアは俺が魔力を持っていない事に気づいた。


「陽介は魔力がないんだったな。まぁ私達が陽介の位置を把握できるし、身に着けておいてくれ」


 とりあえず言われた通り腕に通しておく。

 少しひんやりとした感触と重みを感じる。


 なんか……

 なんか仲間はずれな気分!!


〈おい。吾輩がいるだろ〉


 何?慰めてるの?弱ったところをワンチャン狙ってんのか?

 このけだものめ!!


〈…… 吾輩が『索敵』すれば済む話だ〉


 あぁ、そうか。別に俺はこんな腕輪なくても索敵できるしな。


〈『索敵』するのは吾輩だがな〉


 細かい事はいいんだよ。

 そういえばこの場所はどこなんだ?

 よつば達が追った『魔殺』を追ってるんだよな?

 聞いてみよう。


「そういえば、ここはどこなんだ? 俺達は討伐隊が追っている『魔殺』の拠点に向ってるんだよな?」


「あぁ。あと五日もあれば騎士団が目的としている『魔殺』の拠点に着くだろう。そこで提案なんだが、途中から二手に分かれたいんだ」


 二手に分かれる!?

 ローラちゃんと俺を別々にするつもりか?

 このガキ、そのイケメンを使ってローラちゃんかレジーナとワンチャン狙ってるんじゃないだろうな?

 もしそうなら俺に勝ち目はない。

 このガキイケメンなんだもん。


「二手に分かれるって言うのはどういうことだい?」


 レジーナはリトアに話の先を促す。


「私達『魔殺』は『魔殺』に近づけないんだ」


「え!?」

 

 誰ともなく声を上げる。

 どういう事だ?


「実は、私達『魔殺』は互いに位置がわかる、契約魔術でお互いを縛ってある。裏切りや情報漏洩ろうえいを防ぐ目的でね。だから一定以上近づくと私達が来ているとバレてしまうんだ。渡した腕輪はその応用魔術だが、それはあっちの『魔殺』には関係ないものだ」


 そういう事か……

 だから『魔殺』以外のメンバーが欲しかったのだろう。

 リトア達『正義魔殺』がいくら『悪魔殺』を追おうとしても、相手にバレてしまっては追いようがない。


「ちなみに王都の諜報部隊に『魔殺』の拠点情報を流したのは私達だ。私達にもプライドはあるが、近づけばバレてしまうし、正直戦力は心もとない。王国が動けば戦力としても申し分ない。討伐をサポートし、オスカー達を始末しなければならない」


 リトアは決意の表情で言葉を続ける。


「オスカーは死霊魔術を得意としていた。正直、オスカーを殺すことで何が起こるかわからない。オスカーとの最終局面で私達はあいつを封印しようと考えている」

 

 人を封印? どんな事になるんだ?

 よくわからないがなんとなくニュアンスはわかるな。

 つまりは死んでから余計な事を出来ないようにするって事だろう。


 それからのリトアの作戦はこうだ。


 俺達パーティは『悪魔殺』には把握できないが、腕輪のおかげで『正義魔殺』のメンバーには場所がわかる。

 これからは別行動を行い俺達は『悪魔殺』の拠点へ。リトア達は封印の準備を行いつつ、近づきすぎないように離れた位置で様子を伺う。

 腕輪を使って合図を送ることもできるらしいので、討伐隊が戦闘を開始したら合図を送り、リトア達が駆けつける、という算段だ。

 俺達はこれから討伐隊を追う。

 一日討伐隊より遅れた出発をしているが、間に合うように近道を通っている、それがこの森だ。

 討伐隊は人数も多いため、迂回をしているだろうから丁度いいらしい。


 けっこうしっかり作戦を立てていたんだな。

 まぁ、俺があのまま断ってたら丸潰れだろうが。


 リトアに聞いてみたら「陽介達は人が良さそうだからな。断らないと思っていた」だとさ。

 まったくしょうがないやつだ。

 おねいちゃんがいたら紹介しなさい。


 改めてここから仕切り直しだ。

 

 目標は『悪魔殺』の拠点。 

 討伐隊に合流し一緒に『悪魔殺』を叩く。

 リトア達がオスカー達を封印したら今回の作戦は終了だ。

 パーティメンバーと確認し合うと俺達は馬車に乗り込み、『魔殺』の拠点を目指して走り出した。 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る