賛成だよな?

 さてさて、どうしたものか。


 『魔殺』の仲間になったらよつば達の敵になっちゃうよな?

 王国の騎士団とか、謎の諜報部隊とか、暗部とか、そんなのに追われる生活になるのか?

 そしてクローディアもナルシッソスも敵か……

 

 ちょっとこれは飲めないな俺。

 

 リトアは俺達の方を向いて真剣な眼差しを向けている。

 口元に力が入り全員を納得させるように見渡す。

 

 だめだめ!! そんな顔したってダメなんだからねっ!!


「まずは話を聞いてくれないだろうか?」


 リトアは必死に俺達を勧誘しようとしている。

 うーん。

 上手い事丸め込まれるような気がするな。

 なんとか優位に話を進めたいが。


 うーん……


 オセ!! 周りに潜んでいるやつとかいるか?


〈いるぞ。魔術での潜伏が三。『気配遮断』での潜伏が二だ〉


 やっぱりいるか。

 俺のオセレーダー『索敵』を舐めているのか?


「その前にリトア。 魔術での潜伏が三人、『気配遮断』での潜伏が二人いるみたいだけど、その話、断ったらどうするつもりだったの?」


 リトアの表情は変わらない。

 

「すごい『索敵』だな。魔術での『潜伏』もスキルでの『潜伏』も見抜くか…… そのスキル、もはや『索敵』じゃないような気もするな」


 そういうとリトアは手で合図を送る。

 潜伏していたリトアの仲間達が姿を現す。

 俺達の後ろに五人立っている。

 

「この状況でまともに話が聞けるとでも? 」


「……すまない。私達も必死でね」


 オセ!! この状況で切り抜けることはできるか?


〈無理だ。人数も戦力も差がありすぎる〉


 リトアの能力はなんだ? ローラの能力を見抜いたし、鑑定するスキルか? 

 そんなスキルに覚えはないか?


〈ふむ。 魔眼の一つに『鑑定眼』と言うものがあるな〉


 ならそれだな。鑑定眼か。だったら俺の事も見てるはずだな。

 後はその『鑑定眼』はリトアが持っているスキルなのか、もしくはリトアの仲間が持っているスキルなのか、だな。


 よし。


「リトア。『鑑定眼』で俺も見たよな?」


「!?」

 

 リトアは一瞬驚いた表情をしたもののすぐに取り繕う。

 周囲の警戒レベルが上がったようにも感じるな。

 悪手だったか?

 

 リトアの眼に魔力が籠ったように感じる。

 俺の体中に視線が入り込んでくるような感覚がするな。

 これ「鑑定眼」使ってるって事か?


「…… 陽介には『鑑定眼』は無いようだが?」


 俺はいかにも余裕ですよ?って顔でリトアに軽く笑ってやる。


 ……うまくできてるか?


〈知らん〉


 相変わらずクールだなオセ。

 けどまぁ、これでリトアが「鑑定眼」持ちって事がわかったな。


 リトアはどう解釈したのかわからないが、警戒はするものの敵対する意思は無さそうだ。

 リトアは周りの仲間に目配せをすると、再度俺達に語り掛ける。


「繰り返すが…まずは話だけでも聞いてくれないか」


 まぁしょうがないだろう。

 レジーナ達もそこに異論はないようだ。


 全員で話を聞くことにした。





「まず、誤解のないように言うが、魔術師の団体を襲っているのは私達『魔殺』ではない。正確には『魔殺』だった者だ」


 どういうことだ?

 『魔殺』にも派閥があるのか?


「元々『魔殺』はコモンドール王国のある公爵主催の研究会だった。正確には、『魔術の発展と進化、究極の必殺魔術を求めるジェントルマン達』という名のついた研究会だ」


 なんだそりゃ………… 

 随分とひどい名前だな。

 ネーミングセンスが死んでる。


「『魔殺』ではいったい何が『必殺魔術』なのか、という議論が連日連夜繰り返されていた。全てを破壊できる魔術なのか、全てを弾き返すことができる障壁なのか、何ができる事が必殺なのか、議論は常に白熱していた」


 『必殺』って言ってるのに盾? 攻撃魔術じゃないのか?

 まぁどんな攻撃も防げる盾というものがあればそれはそれで最強か。

 突っ込みどころが多いがとりあえず聞こう。


「研究会には二人の天才がいた。一人は死霊魔術を扱う『オスカー』。もう一人は闇魔術を得意とする『フルーベルク』。この二人はとある結論を導き出した。 

オスカーは死ぬことが無ければそれが最強だ。死から解放される道を研究すべきだ、と。

フルーベルクはどんな攻撃も通用しなければそれが最強だ。いつ襲われても防げてしまえば死ぬことはない、と。」


 『必殺』魔術を研究する会なのに天才と呼ばれる二人はどっちも攻撃魔術の研究をしなかったんだな。

 どんな攻撃をされても死なない事、とどんな攻撃も防げる、は同じようで違うな。


「オスカーは死から解放される研究に力を注いだ。死を無かった事にする、死ぬことがない体を求めた。

 フルーベルクもまた、死から解放される研究に力を注いだ。死を受け付けない、最強の体を求めた」


 どっちも死なない事を求めたんだな。

 それにしても、それからどした?

 その二人の暴走か?

 悪魔的なものでも呼び出しちゃったのか?

 

 リトアの話は続く。


「二人の研究は順調に進んだ。 オスカーは新たな死霊魔術を生み出した。 浮遊する死霊を使役するだけではなく、その身に宿し死を肩代わりさせる身代わり魔術だ。そしてフルーベルクは新たな障壁魔術を生み出した。中級魔術以下は無効にできるほどの障壁魔術だ。どちらの魔術もかなり有用な魔術だ。一定の成果に二人は満足しているようだった」


 どちらもかなり使える魔術なんじゃないか? 身代わり魔術は若干怪しい気もするが死を肩代わりさせるだなんてすごいよな。


「二人は魔物の討伐や他国との戦争等、戦闘行為が必要となる場には積極的に参加しその魔術を披露した。新魔術の成果はすごいものだった。討伐隊の死亡者数は驚く程減り王国内での評価はそれは高いものになった。さらなる資金が注がれ新たな魔術の開発が期待された。しかし、この魔術には欠点があった」


 欠点? 


「この魔術は、使用する度に魔力と魂を削る事になった。少しづつ使用者と魔術を掛けられた者の魂が削られていく者達。気づいた時にはもう遅かった。オスカーもフルーベルクも、そして第一騎士団の半数の姿が消えた。そして………… 」


 なんだよ? 溜めるな。

 リトアの仲間達の雰囲気も緊迫している。 

 なんなんだよ……


「…… 国内の魔術師団を襲い始めた。姿を異形なモノに変えて」


 レジーナ達も初耳だったのだろう。

 一様に驚いた顔をしている。

 この話を素直に信じていいのか悪いのか、なんとなく言葉にならない。

 リトアの話は続く。


「いなくなった者達は報告によると、オスカーが率いているようだ。どういうわけか、オスカーには自我がある。そして研究を続けるために魔力の高い者を襲っているのではないか、と我々は考えている」

 

 なるほどね。

 そういう事か。

 事情は分かったが、ならなぜ王国と連携を取らないんだ?

 

「なぜ王国との連携を取らずにリトア達は別行動で『魔殺』を追うんだ?」


「我々『魔殺』の名誉のためだ。我々が起こした問題を我々が解決するのは当然だろう。我々には責任がある」


 名誉か。

 なるほど。

 

 まったくわからん。


 そんなもん気にしてる場合か?

 名誉とか誇りなんて、童貞並みに役に立たないだろう。


 ローラは感慨深く頷いている。

 リトア達の考え方がわかるのか。

 日本にいると貴族なんて馴染みが全くないからな。


 それに問題が起こった場合には速やかに上司、上へ報告を上げてより責任と力のある者を使うべきだ。


 そのほうが自分が安全なのだ。


 もし、上司に報告もせずに後から問題が露呈した時には大問題になる。

 上司に報告しておけばその問題は上司と一緒に抱える問題になる。


 責任の一部を上司に移す為に、悪い事程さっさと報告するに限る。

 自分一人で動いたって碌な事にはならない。


 リトア達も騎士団に全面協力をして別で動くのなんてやめてしまえばいい。


 レジーナは俺達に問いかける。


「どうする? リトア達は信用できそうだけど、王国とは別で『魔殺』を追うことになるんだ。正直危険は多そうだし、私達に出来る事なんてあるかな?」


 ちょっと弱気だなレジーナ。

 察したアルバートがレジーナの肩を抱く。

 ッケ!


「どうしたレジーナ? いつになく弱気じゃねーの? 俺もいるしローラもいる。今は陽介だっているんだ。役に立てる事はあると思うぜ?」


「アル……。アルは賛成?」


「ああ。汚名返上なんてかっこいいじゃないか。公爵家が絡んでるとなると報酬もでかそうだしな」


 そう言って笑うアルバート。

 こいつの笑顔は緊張をほぐす効果があるな。

 レジーナの乳を好きにしていると思うと撲殺したくなるが、こいつはいいやつだ。

 後で初体験の話を聞いてみよう。

 男女共に知っている同士のそういう話ってドキドキがムネムネするよな。

 

 アルバートは続いてローラにも確認を取る。


「ローラ、どう思う?」


「私はいいと思いますよ。 レジーナさんが心配しているように、出来る事は少ないと思いますが…」


「そっか、だってよ陽介! 賛成だよな?」


 なんだそれ!?

 ローラがいいなら俺もセットでいいのかよ?

 そんな事ないぞ。


「俺は嫌だ」


「なんでだよ!?」


 なんとなく仲間になる雰囲気だったのをぶち壊す俺。

 だってなんか嫌なんだもん。

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