ちょっと先輩!においを嗅がないでくださいよ!!

 通じるか!?


 俺の『アテンション』を聞いた全員が俺に注意を向ける。

 声の届く範囲にいた全員だ。

 ナルシッソスもよつばもクローディアも、そしてココも。

 もちろん狙い通りにフォレストドッグ、オークの視線も集めることができた。


 いち早く趣旨を理解したナルシッソスは、隙をついて相手をしていたフォレストウルフを斬って捨てる。


「ナイス! オークは任せた!」


 『アテンション』で俺に注意が向いている為、目の前にいるフォレストドッグの殺意を痛いほどに感じる。


 よつばからの弓、クローディアからの魔術の援護を受けながら徐々に追い詰めていく。

 牽制けんせいくらいしかしていないが、俺に引き付けておく事が俺の仕事だ。


 フォレストウルフがイラだっているのがわかる。

 徐々に追い詰められているのを感じているのだろう。

 後ろにさえ通さなきゃ俺達の勝ちだ。


 フォレストウルフが槍を潜り俺に飛び掛る。

 瞬時にガントレットに『身体変化』を這わせ盾にするが、一瞬間に合わず左手首を噛まれる。

 俺はかまわずガントレットを『身体変化』で強化すると、噛んでいるフォレストウルフの牙を押し戻した!


「おお!? すごいな『身体変化』」


 フォレストウルフが戸惑っているうちに左手を短剣に『身体変化』させ切り裂く。


 同時にナルシッソスもオークを倒していた。

 あいつはちゃんと戦士してるなぁ。


「先輩!怪我は!?」


「ガントレットのおかげで怪我にまで至ってないよ」


「それにしてもすごいのう!『身体変化』で牙を弾き返したのか?」


「そうなんだよな、グッと押し出すように変化させたら牙をこじ開けたよ」


 クローディアは素直に関心している。

 あとはあれだな、『アテンション』の効果は魔物にも効くんだな。

  

「陽介氏、まさか『指導者』の『アテンション』が魔物相手にも効くとは思いませんでした。これは発見ですよ」


 まぁそもそも『指導者』で戦闘に行くやつもいなかったのだろうな。

 

 俺達は牙と魔石の回収を済ませ、帰路に着く事にした。

 ガクッと力が全身から抜けるのを感じる。

 なんだこれ!?


〈吾輩の能力を使いすぎたな〉


 そういうことか……


 俺がガクガクしているとよつばが察してくれたのか、肩を貸してくれる。

 せっかくだからクンクンしておこう。


「ちょっと先輩!! においを嗅がないでくださいよ!!」


「安心しろ、いいにおいだ」


「バカアホ! ナルシーさんお願いします!」


 俺の事をポイッとナルシッソスのほうへ投げつけるよつば。 

 俺かわいそうだな!


 ナルシッソスに肩を貸してもらいつつ帰路につく。

 帰りもオセレーダーで索敵しながらだったので安全に戻ることができた。

 しばらく歩くと森を抜け街道に出る。

 俺達は王都へ戻る事にした。



======



 帰りは徒歩の為すっかり日は落ちかけている。

 冒険者ギルドで換金した俺達は宿で夕食を取ることにした。

 ちゃんと食べるなら、宿か食堂に行くのがこの世界の共通認識みたいだ。

 ちなみに魔石は色々使い道があるらしいので売却していない。


「「お疲れ!!」」


 俺達は今日の戦闘の良いところと悪かったところを振り返った。

 といっても俺の悪かった所しかないんだけどな。

 特に『身体変化』のデメリット、体力を使うっていうのは突然くるんだな。


〈そんなことはない。興奮して気づいていなかっただけで、しっかり体力は削られていたぞ〉


 そうなのか。

 まったく気づかなかったな。


「先輩!盾買いましょう!そして槍は売って剣のほうがいいんじゃないですか?接近された時に対応難しくないですか?」


「けどそれだと槍のように牽制できないだろう。剣での牽制よりも間合いが取れるし、安全な気もするんだよな。『身体変化』もあるしなぁ」

 

 こればっかりはほんとわからん。 

 わからんが『アテンション』で注意を牽ける事がわかった今、盾に持ち替えて攻撃を受ける役、タンク役をしたほうがいいのかもな。


「牽制をする事に注力するなら槍のほうが向いてますよ。間合いが取れる分安全ですし。ただ、大きめな盾を構えて牽制するのもありだとは思いますが、オークのように力任せの相手の時、耐えられますかね?」


 そうか。盾ごと吹き飛ばされそうだな俺。

 ほんと体力つけることが最優先だな。


〈盾にも使い方がある。受け流すように受ければ力は分散されるぞ。お前には無理そうだがな〉


 まぁそうだよな。

 いずれにしろ明日は冒険者ギルドの訓練もあるし、いろいろ習ってこよう。


 俺達は、というか俺の疲労がすごいので食事を取るとさっそく寝る事にした。

 



======




 翌朝。


 身体がなんとなくだるい。

 昨日の身体変化の使いすぎが原因だろうか。

 まだ疲労感が多少あるもののベッドから起き上がる。

 一緒に寝ていたココが「え!?もう起きるの!?ばかなの!?」と不満そうな顔をしているが、そろそろ起きないとな。


 俺が1階に降りるとよつばが兵士となにやら会話をしていた。


「……ということで、よろしくお願い致します」


 兵士はよつばに何かを告げると俺にも一礼をし宿を後にする。


「どうしたの? なんかあった?」


「特になにも。今のところまだ進展はないようですね」


 よつばは髪の毛をくるくるしながら答える。

 すでにクローディアもナルシッソスも朝食を終えており、俺が一番最後のようだ。


「ごめんね、遅くなっちゃった」


「大丈夫ですよ。昨日は疲れたでしょう」


「遅いのじゃ!! これだから童貞は!!」


 反応が対照的すぎる。

 とりあえずクローディアの頼んでいたエールを奪って飲み干してやる。

 けっこうアルコール度数が高いうえに酸っぱいな。


「なにするんじゃ!! そろそろお小遣いよこせ!! 全部よこせ!!」


 クローディアはガオガオわめいているがとりあえずほっておく。


「さっそく冒険者ギルドに行ってこようかな。オークの依頼もまだ続いているようだし、しばらくはクルト原生林で鍛える? 」


「それもありですね。私はとりあえず魔の咆哮に連絡しておきたいと思います」


 ナルシッソスは魔の咆哮への連絡をする為に街へ、俺達は冒険者ギルドに向った。





 ギルドでの初心者支援は単純だった。


 Eランク冒険者なら無条件で無料参加可能。


 Cランク以上の冒険者に依頼として発注。それを受けた冒険者が指導員といてくる為、当たり外れが大きいようだ。

 学べる内容は戦闘訓練やそれに関わる知識、武器の手入れ等。それから魔術(運がよければ)。座学としては、薬草知識や冒険者に必要なサバイバル知識等、多岐たきに渡るが慣れた冒険者なら当たり前にできる事のようだ。

 魔術に関してはなかなか指導員として冒険者が来てくれないようで、運の要素が強い。

 

 魔術は高いからな。そう簡単には教えたくないのかな? 






 俺達は三人で参加したい事を伝えると、ギルドの裏手にある広場を案内された。

 そこそこ広い広場には、既に駆け出しっぽい冒険者がけっこういた。10名くらいだろうか。

 かわいい子もいるな。


「先輩?」


よつばが瞬時に察して釘を刺してくる。

恐ろしい子。

 ギロリと俺を睨みつつ、俺の視線の先を探しているようだ。


「ふーん」


 なんだよ。

 そうだよ、おっぱいだよ。


 今日の指導員は昼間から酒を飲んでいそうな中年のおっさんだった。


「今日のお前らの訓練を担当する、ガッソだ。ジョブは『戦士』、得意武器は剣だが斧も槍も、武器はなんでも使うぞ。短い間だがよろしくな」


「わらわは!! クローディア・ボトッ」


 慌ててクローディアを押さえる。

 そうだった、こいつは名乗られると名乗り返したくなるやつだった。


 一瞬空気が止まる。いつもの雰囲気だ。


「すいません、どうぞ続けてください」


 それにしても今回の訓練担当冒険者は普通のおっさんだ。

 鎧だって着ていない、普段着のおっさんだ。

 普通すぎるおっさんなのだが、なんか雰囲気を持っている人だ。


 全員が木の剣、木剣を持たされる。


「わらわも!? 杖より重いものなど持ちたくないゾ!!」


 体力をつけるために必要だろ。がんばれクローディア。

 わざとらしく重そうに持つな。まったく。


 俺とよつばでクローディアをなんとかなだめすかしていると


「あ、そういえばこの中に治療魔術を使えるやつはいるか?」


 おっさんは全員に声をかける。


反応したのはよつばともう1名、16歳くらいの少年だ。


「お、二人もいるのか。なら多少の怪我なら大丈夫そうだな」


 何が大丈夫なの?

 何も大丈夫じゃないからね?

 怖いことおっしゃる。

 全員でこのおっさんに襲い掛かってやっちまったほうが良くない?


 素振りから指導を受けつつ、剣の扱いや間合いについての指導を受ける。

 以外とおっさんの指導はうまく、理解できる。


 しばらくは型というのか、素振りの練習をしていたがその後模擬戦をした。

 俺の相手はまだまだ駆け出しのひよっこ冒険者君だ。

 俺との模擬戦だなんてついてないなこいつ。


 模擬戦の結果はもちろん全敗だ。

 剣なんて始めてなんだもんっ

 仕方ないよね。

 

 2、3時間くらい訓練していただろうか。

 丁度俺の腕が上がらなくなったところで訓練が終了。

 おっさんに挨拶をしてお開きとなった。


 クローディアだいぶ前から倒れている。

 もう寝るゾ!と言ったきり動かない。


 風呂に入りたいな。


 よつばは何かを言いたげに俺の様子を伺っている。

 な・・・・・・なんか言いづらそうだな。

 何を言うきだ!?


「どうした? なんか言いたそうだけど」


 話を振られるとは思っていなかったのか、とまどいながらも意を決したのか言う。


「先輩!! 午後からデートしませんか!?」


 え!?

 よつばは赤くなっているように見えるな。

 

「な、なに意識してるんですか! せっかく王都まで来たんですから、観光しましょうよ!」


「あ、あぁ。そうだな。午後は観光にしようか」


 寝腐っているクローディアを宿の部屋に放り込むと俺達はデート、王都観光をすることにした。


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