トイレ中のオーク狙いましょうよ!

「みんな、このまま直進だ、オークがいるぞ」


 みんなに声をかける。

 一瞬の緊張が走り皆の表情が変わる。


 先制攻撃を意識してなるべく気配を殺して前進する。

 しばらく進むと…… いた。


「前方オーク2体。2体か…… どうする?」


 オークは食事をしているのか、向かい合ってしゃがみ込んでいる。

 奇襲にはちょうどいいが…… 2体か。


「先輩、ここは慎重に行きましょう。1体のオークを探すべきです。また怪我しますよ」


 そうだよなぁ。

 敵の数が多いだけで戦闘の難易度は跳ね上がりまくりだ。

 前回もコーンウルフにやられたのは複数の時だもんな。


「いったん引こうか」


 俺達が引こうとしたその時、オーク同士がなにやら興奮しているのか、フゴフゴ争っている。

 こっちに関心はもうないだろう。

 ゆっくり下がるとしようか。


〈おい、このまま下がるといるぞ。またオークだ。まだ距離はだいぶあるな。オーク共は食事のために狩りでもしているのだろう〉


 後ろにもオークか。

 数は?


〈2体。挟まれたらまずいぞ。前方のオークをやれ。後方のオークまでは距離がある。やるなら今だ〉


「みんな、後方にもオークがいるようだ。前方のオークをやるしかない。やるぞ。クローディア、よつば、手前のオークから倒す。ナルシッソス、もう片方のオークを維持できる?」


「たやすい御用です。陽介氏、オーク共は手前が棍棒、奥のは槍です。棍棒は受け方が悪いと骨まで響きます。見た目より凶悪な武器なので気をつけてください」


「わかった」


 オーク共の争いは続いている。

 棍棒のオークが槍のオークをぶん殴っている。

 イイ感じにダメージ入ってるな。

 

 オークはブタのような顔に緑色の肌、身長は180くらいだろうか。けっこう大きく筋肉質だ。

 強そうに見えるが頭は悪そうだ

 

「詠唱開始」


 よつばとクローディアが詠唱を始める。

 槍を握る手に力が入る。

 手に汗握るとはこの事だな。


「「【風の刃ウインドスラッシュ】【光の矢ライトアロー】」」


 二人の魔術が同時に棍棒オークに放たれる!

 ケンカをしているやつらは突然の魔術にまったく対応することができずに直撃を喰らう


「ナルシッソス!槍オーク頼んだ!」


「お任せを!」


 俺は棍棒オークが怯んでいる隙に距離を一気に詰め槍を突き出す。

 槍は狙い通りに腹部に埋もれていく。

 これはどう考えても致命傷だろ。


「次! 槍オーク!」


「陽介氏!オークの体力を甘くみてはいけません!」


「え!?」


 オークを見るとまだ目が死んでいない!

 腹部に刺さった槍を持たれ、引き抜くことができない。


「【光の矢ライトアロー】!!」

 

 よつばの援護魔術が棍棒オークの胸元を焼き焦がす。

 オークは膝をつくが、それでも倒れない。


「くそが!!」


 槍を離して即座に左手を短剣に『身体変化』させる。

 体力が奪われるのを感じるがそれどころじゃない。


〈いい判断だ、眉間、もしくは首を刈り取れ。油断するなよ?〉


 油断なんかするかよ。

 言われた通りに首を狙い接近するが、オークが最後の力を振り絞って振る棍棒に右肩を打ちぬかれてしまう。


「ウ゛ッ!」


〈油断するなと言ったろうに。これもいい経験だ〉


「くそっ!」


 左手の短剣で首を狙う。

 切れ味を意識して創った短剣はやすやすとオークの首を狩り取る。


「一体目!!」


 激痛が右肩に走るが痛みを無視して叫ぶ。


 ナルシッソスが相手にしていた槍オークは満身創痍まんしんそういだ。

 全身傷だらけで赤黒い血で染まっている。

 圧倒してるな。

 よつばは弓を放ちナルシッソスを援護している。


「これで終わりじゃ!! 【風の刃ウインドスラッシュ】!!」


 クローディアの魔術が止めとなりオークは息絶える。


「いいじゃん!! 2体相手で全員無事!!」


「先輩!!また怪我してるじゃないですか!!バカ!!」


 イライラしながらも、さっそく治療魔術を掛けてくれるよつば。

 よつばの手から柔らかなものを感じ、受入れる。


 痛みがだんだんと引いていき肩がすっかり元通りになる。

 

〈今の傷は骨までいっていたぞ? 初級治療魔術で完治しただと?〉


 なんだよ?コーンウルフに噛まれた時はもっと大怪我だったぞ?


〈…………〉


 何か言いたそうだな。まぁ今はそれどころじゃない。


「ありがとうよつば」


「次怪我したらもう治療してあげませんからね!!」


「まったく。陽介ボーイは油断も隙もありありだのう!」


 よつばはプリプリしているが、どうせ怪我したら治してくれるだろう。


 俺達は互いの健闘を称えつつオークの牙と魔石を回収する。

 2体分、500Gか。

 一回の戦闘でこんなに疲れてたら体力が持たないな。


 そろそろ腹も減ってきたし、食事にしようか。


 俺達はオークとの戦闘跡から離れ食事を出来そうな場所を探した。

 オセレーダーを使い、周りに魔物がいなそうな場所を探し食事を取る。


「ほんとにすごいですね、オセ様の索敵能力」


 ナルシッソスはオセの能力が大好きなんだろう。

 道中もオセの話ばっかりしてくる。

 ナルシッソスがオセのことを褒め称えまくるからオセは上機嫌だ。


 食事を終えた俺達はさらなるオークを探す。

 

「先輩! オセちんに言ってください! 一体だけのオーク探してって!!」


「え!? って言ってるよオセ!」


〈オーク共は基本的に一体で行動をあまりしないぞ? 無茶言うな〉


「無茶言うな、って。あまり単独行動しないんだってよ」


「なんでですか! と、トイレの時とか! トイレ中のオーク狙いましょうよ!」


 鬼だなよつば。

 うんこしてる最中のオークを襲うだなんて鬼畜すぎだろ。

 聖神から愛されるとは思えない発言だ。


〈まったく。無茶苦茶いう奴だな〉


 俺もそう思うよ。けどなるべく頼んだ。


 俺達はさっそく次のオークを探して歩く。

 オークの巣でもあるのか、わりとすぐにオークは見つかった。

 

 オセの索敵能力で先に見つけて先制攻撃を仕掛ける、複数の時も最初と同じ要領で倒していく。

 なかなか慣れるということはなかったが、なんとかあれから4匹を仕留めた。

 そのたびに多少の怪我をすることもあったが致命傷はない。


 よつばはそのたびにプリプリしていたので、もはやプリプリプリプリプリ、プリの王様だ。

 王様は俺の治療をしながらなにやら考えているようだ。


「先輩は戦闘向いてませんねぇ……」


「そんなことないわ! まだまだ駆け出しだよ!? けっこうやれてるし!」


「じゃあ怪我しないでください。後方に下がりましょうよ!」


「じゃあ誰が前出るんだよ」


「私が出ますよ!」


 バカ言うなよな。


 とりあえず6匹分のオークの牙、魔石を得ることもできたのでこの辺にしよう。

 一日の稼ぎは1,500Gか。


 4人分の宿代にはなってるな。

 魔石分もあるしな、ヨシとしよう。


〈来るぞ! こっちに真っ直ぐだ、気づかれてるな。オークとフォレストドッグ2、だな〉


「来るぞ!!オーク、フォレストドッグ2!!」


 俺達は迫りくる方向に武器を向ける。

 あれがフォレストドッグだろう。

 コーンウルフよりは小柄で角がないが、鼻がオークのように豚だ。


 素早い敵だ、後衛に向かわないように牽制する。


「よつば、クローディア!」


「わかっておるわ!!」


 ナルシッソスは俺より一歩前に出て牽制する。


「抜かれる可能性があります! とにかく後ろに行かせてはだめです!!」


 フォレストドッグを牽制するも、オークも迫ってきている。

 短期決戦をしないとまずい、ナルシッソスと一体づつ相手をするがかすり傷しか負わせることができない。


 後方から魔術の援護が入るがフォレストドッグに回避されてしまう。

 なんとかならないか!? 3体同時相手はきつい!!

 ナルシッソスはかなりの手傷を負わせているが致命傷にはなっていない。

 隙を作らないと。なんかないか!?

 そうだ!


「『こっちを見ろ!!』」


 俺は『アテンション』を発動させる。

 魔物相手に聞くか!?

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