先輩、ものすごく失礼な事考えてますね?

 俺達は買い物を終えると屋台でパンとソーセージを買い込んだ。

 まだ昼には早いのでリュックに入れておく。 


 さっそくオーク退治に向かう為のきびだんごだ。

 

 犬のココ、猿のクローディア、キジのよつば。

 あれ? そうすると桃太郎はナルシッソスか?

 そうすると俺はなんだ?


 まぁそんなことは本当にどうでもいい。


 冒険者ギルドからオークのいるという『クルト原生林』の位置は聞いてきた。

 途中までは王国の運営する『国営馬車』に乗ることができるのでそれに乗る事にする。

 国営馬車は主要都市を結ぶ馬車で、なんといっても運賃が安い。

 俺達の目的地付近まで乗って一人50Gだ。

 オーク一体で元がとれる。

 

 馬車に揺られながらガントレットに『身体変化』をわせる練習をする。

 無の状態から短剣に変化させる事に比べてめちゃめちゃやりやすい。

 体力の消費も明らかに低く、使い勝手が抜群ばつぐんに良くなった。


〈だから言ったであろう。持っているものに『身体変化』を這わせるのは効率が良いと〉


 ほんとだな。これからは安くてもいいからなるべく装備をそろえたいところだ。

 

 しばらく馬車に揺られていると、目的地のクルト原生林付近に到着したようだ。


「おにいちゃん達よう! この辺がオークがでる林付近だ。 もっと奥までいけばオークの巣でもあるかもなぁ。 まぁ頑張ってくれや! 」


 馬車の御者に声を掛けられ俺達は馬車を降りる。


「案外早く着いたの」


 クローディアは腕を上げて背筋を伸ばす。

 ぐぐーっと伸びる背筋に合わせて、胸が前面に押し出されるが何もない。

 

 何もないのだ。


 おへそから首まで一直線に平だ。

 定規だ。


 定規が必要な時はクローディアを使おう。


「先輩、ものすごく失礼な事考えてますね? 」


 胸を隠すように自分の肩を抱きしめるよつば。

 まったく勘の鋭いやつだ。 


 そういえばナルシッソスを入れての戦闘は初めてだな。


「じゃあナルシッソスと俺が先頭、後ろに二人で」


「犬小僧はどうするんじゃ? 」


「その辺にいてくれ」


 ココは話を聞いている雰囲気はないが、なんとなく林に行くことはわかるようだ。

 縄張りを主張したそうに辺りのにおいを嗅いでいる。

 好きなだけ主張してくれ。


 俺達はさっそくそれぞれの武器を構え林の中に入っていく。

 オーク以外にも色々な魔物がいそうな雰囲気だ。


〈前方右手、いるぞ〉


 ん? 見えないけどな?


〈しっかり見ろ〉


 そんな事言われてもなぁ。


「ナルシッソス。前方右手になんか見える? 」


「右手ですか? なにも…… !! 」


 ナルシッソスは気づいたのか小声で俺達に警戒させる


「トレントです。あの木、よく見てください」


 ナルシッソスが指を指すが、まったく違いがわからない。

 だって木はたくさん生えてるんだもの。


 ココは野生の勘で気づいているのか、低く唸っている。

 まったくもってわからん。


「ぜんぜん違いがわからないんだけど……」


「よつばさん、あの木わかりますか? 弓で射って欲しいのですが 」


「うーん? ぜんぜん違いが分からないのですが……」


「わらわに任せい!」


 クローディアは魔術の詠唱を始める


「風よ風よ、わらわの魔力を刃に変えよ【風の刃ウインドスラッシュ】!!」


 クローディアのかざした杖の先から魔術の刃が放たれ、周囲の小枝を切り裂きながら一本の木に深い傷跡を残す。


「違います。その隣のやつですよ」


 トレントは気づかれている事に気付いたんだろう。

 腕? と呼んでいいのか、枝を振り回しながら俺達に迫ってくる。

 意外と速い!


「あいつがトレントじゃったのか」


 分かってなかったのかよ!?

 勘で魔術放ったの!? 


「ナルシッソス!」


「はい!」


 俺達はそれぞれの武器を構えるとトレントの前に躍り出る


 てか、これ木じゃん!?

 斧とかじゃないと辛くない!?


「よつば! 弓はあまり効かなそうだ! 魔術で頼む!!」 


 すでに詠唱を初めていたよつばの魔術が放たれる


「光と私の魔力よ!輝く矢となり敵を撃て!【光の矢ライトアロー】!!」


 トレントは本体? 木の幹の部分を枝で守り魔術の直撃を防ぐ。

 ちゃんと意思があるんだな。


「防がれちゃいました!!」


 目前に迫るトレントにナルシッソスが剣で斬りかかる。


「ハッ!!」


 気合いの声と共に斬撃は襲い掛かる枝を斬り落とす。

 枝からは体液なのか、白い液体がまき散る。

 返す刀で本体にも切り込み斬撃をくりだす。


 ナルシッソスのおかげで邪魔な枝が落ち本体への道ができる。


「ヨシッ!! 」


 俺は槍にありったけの力を込めてトレントの幹に突き刺す。

 大木に突き刺したような感覚を手の中に感じる。

 そのままだな。これ効いてるか?


 そんな心配をよそに、痛みを感じているのかトレントは嫌がるように残った枝を振り回す。


〈左から攻撃がくるぞ、かがめ! 〉


 左!? かがむのが間に合わず槍で受ける体制を取る。

 その一瞬後に枝が槍にぶつかり、 受けきれていない枝が多少の傷跡を俺につける。


〈ちゃんと聞いてろ〉


 助かるなこれ!! オセ、ナイスだ!!

 後方から詠唱が聞こえる


「【風の刃ウインドスラッシュ】!!」


 狙いを外さず今回はしっかりトレント本体を魔術の刃が切り刻む。

 声は無いものの、ナルシッソスの連撃を受け続けるトレント。

 動きが徐々に小さくなってきたかと思うと完全に停止した。


「これ、倒したの?」


「はい、倒しましたね。それにしても陽介氏、よくあの攻撃を防ぎましたね?陽介氏からは死角からの攻撃でしたよ?」


「長年の勘、ってやつかな? 」


「先輩数える程しか戦闘してないじゃないですか……」


 かっこつけたかったが無理か。

 それにしても大きな傷を負うことなくトレントを討伐できたのは嬉しい。

 俺のかすり傷を見て少しムッとしながらも、よつばは俺に治療魔術を掛けてくれる。

 これくらいならほっといてもいいんだけどな。

 俺のこと好きすぎだなこいつは。

 しょうがないやつだ。


「それにしてもナルシッソス。すごくスパッと枝を切り裂いたね?技術でどうにかなるものなの? 」


「これはですね、技術もありますが…… 剣を見ててください」


 そう言うとナルシッソスは力を込めて剣の持ち手を握りしめる。

 集中しているのだろう、刀身を見つめる眼が真剣だ。

 徐々に刀身がにぶく輝く。

 よーく見ないとわからない程度だが。


「それはなに?」


「これはですね、刀身に魔力をめる『魔刃まじん』という魔力を使った技です。私の剣はそこそこの剣ではありますが、魔石が組み込まれているので『魔刃まじん』がより

使いやすいのです」


 なんと! 魔刃か。かっこいいな。

 オセ、俺にもできる?


〈無理だ。籠める魔力がないだろう〉


 だよな。よつばならできるのではないだろうか。


「『魔刃』の効果は切れ味が上がることが一番ですね。魔力が籠められていますので物理攻撃への抵抗がある魔物にも効果がありますし、魔法障壁も斬ることができますよ」


 なにそれ俺も使いたい!! 俺も魔刃使いたい!!


〈おぬしはアホウか。吾輩の『身体変化』の効果を舐めておるな?『魔刃』と同じような効果だろうが〉


 あ!? そっか。

  

〈だが『魔刃』のように魔力を籠めるわけではない。魔力障壁しょうへきや結界は切れぬ〉


 うーん。切れ味が上がるだけでもよしとするか。


 俺がオセといちゃついている間に、ナルシッソスは倒れたトレントの幹に剣を突き刺して何かを探している。

 なにやってんだ?


「ありました。魔石です」


 ナルシッソスの手にはビー玉くらいのいびつで薄っすら黒い石がある。


「それが魔石? 魔物にあるの? 」


「そうですよ? あれ? コーンウルフから取ってないんですか?」


 え!?そんな話知らないよ!?


「クローディア!? 知ってた?」


 クローディアはココの鼻に鼻をくっつけて遊んでいたが、こちらを振り向くと当たり前のことを聞くな?とでも言いたげに


「知っておるゾ?」


「ならコーンウルフ倒した時に言えや!!」


「なんじゃ!! わらわのせいか!」


「だって俺ら知らなかったし!」


 ギャーギャー言い合った俺らだが、結局はクローディアの「どこにあるかなんぞ知らんし、わらわは解体なんかしたことないんじゃゾ!」と言われ何も言えなくなった。

 まぁ仕方ないな。

 けど言ってくれたら探したのに。


 俺達はオークを探しさらに森の奥へ入る。

 エアロの森の時みたいに方角わからなくなったら大変だな。

 

「方角さ、誰かわかってる?」


「え、先輩分からないんですか?」


「それはチェリーボーイの仕事じゃろ」


 なんで俺なんだよ!

 とりあえずクローディアのケツを引っ叩く。


「大丈夫ですよ皆さん。私が『コンパス』の魔術使えますから」


 話を聞いてみると、『コンパス』という魔術は方角がわかる魔術らしい。

 簡単な魔術なのですぐに覚えることができるようだ。

 特に属性魔術というものではないらしいが、一応魔属性らしい。

 

「それ、今度よつばにも教えてやってくれない?」


「もちろん。冒険者なら必須の魔術ですよ」


 冒険者に必須? クローディアは使えないのか?

 クローディアを見ると目が合う。


「なんじゃ! わらわにはそんなちんけな魔術なんぞ必要ないゾ!! 」


「ナルシッソス、クローディアも追加で」


「わかりました」


 クローディアはぶつぶつ文句を言っているが無視だ。


 道中さらにトレントと2体遭遇したが問題なく倒していく。

 俺は多少攻撃を受けてしまうが。


 そもそもトレントはでかいだけでそこまで強い魔物ではない。

 不意打ちには気をつける必要があるが、先に気づいていれば問題ない。

 オセが見つけてくれるから安心だ。

 『オセレーダー』と名付けよう。


「それにしても陽介氏、トレント見つけるのうまいですね」


「まぁ実際には俺見つけてないんだけどな。オセいるでしょ?」


「オセ様? オセ様が見つけていたのですか? 」


 ナルシッソスは魔神崇拝者だ。オセに様をつけて呼んでいるし、そのオセを支配している俺のことをなぜか尊敬している。

 悪い気はしないな。


「そうなんだよ。オセがあっちこっちトレントがいる場所教えてくれるんだよね」


「羨ましいですねそれは」


 便利なレーダーだよな実際。

 よくあんな分かりづらいの見つけるよな。オセすごいな。


〈ふん。造作もない事よ〉


 心なしか少し嬉しそうだな。


〈嬉しくなんてないわ!!〉


 照れてる照れてる


〈もう教えんからな〉


 嘘ですこれからもよろしくお願い致します。


〈ふん! そろそろオークが居そうな雰囲気だな。そうだ、視界だけではなく、五感全てを感じる許可を寄こせ〉


 なんで?


〈魔物を探して欲しいのだろう?〉


 なるほど、いいぞ。

 俺はオセに五感を感じる許可を与える。

 許可といってもなんとなくいいぞ、と思うだけなのだが、それでちゃんと許可になる。


〈素晴らしい! 久しぶりのこの世界の感覚だ。さっそくだがこのまま直進しろ。いるぞ〉

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