先輩! 女の子に頼ってる場合じゃないですよ!
ギルドの受付で話を聞こうとすると、なにやら揉めているようだ。
「この依頼は俺達が先に受けたんだ! お前らは引っ込んでな!! 」
「あ!? 俺達が先に受付に来ただろうが! 引っ込むのはお前だ!! 」
朝から元気だな。
揉めている二人のうち、一人は見覚えがある・・・・・・ 昨日よつばをナンパしたちゃら斧男じゃねーか。
揉めている相手も戦士だろう。腰に剣を挿し背中に盾を担いでいる。
顔に
クレリックのイザベルちゃんが仲裁するかと思いきやイザベルちゃんは何も言わない。
剣士のフールは静観している。
こりゃ収まらないな。
「怒鳴りあうのはやめましょう! 訳を話してください!! 」
怒鳴りながらよつばが仲裁に入る。
ケンカしてる二人よりも声がさらにでかい。
でかい声を聞いた二人はさらにヒートアップしている。
火に油を注いだな。
それにしてもなんでかかわりに行くかな?
ここはスルーしてればいいじゃん!
「あぁ!? 関係ねーだろガキが!! すっこんでろ!! 」
ケンカ相手の冒険者は怒りが収まらない。
どっちがいいがかりつけてるんだろうな。
ケンカに先入観持つのはいかん。
「女性にその態度は見過ごせないな、表に出ろ!! 」
え!? ナルシッソスが今にも腰の剣を抜き放ちそうな勢いで刺青君にすごむ。
お前まで入ってくるなよ!
ココはケンカしている雰囲気を感じとっているのか怯えておりかわいそうだ。
誰か止めてくれないの!?
周りを見渡すが冒険者達は見物しているだけだ。
止めてくれる気配がない。
もう受付嬢に止めてもらおう!!
「おねいさん! 止めてくださいよ!! 」
「ええ!? 私がですか!? 無理ですよ!! 」
「先輩! 女の子に頼ってる場合じゃないですよ!! 」
「時間かかりそうだし、エール頼んでもよいか? 」
「表に出ろクソガキ共! 」
もうだめだ、収拾がつきそうにない。
ナルシッソスもケンカを始めそうだし、よつばは俺にケンカを吹っかけてきそうだし、クローディアはエールの注文に行った。
仕方ない。
「『注目!!』」
『指導者』のスキル、『アテンション 』 を発動させる。
注目を集めるだけのスキルだが、俺の声が届いた範囲からの視線がいっきに集まるのがわかる。
もしも今、全裸だったらある種の快感を得ることができたであろう。
俺はその種の快感に興味はないけどな。
一瞬の
「まずは落ち着きましょうよ、ヘイス! それから盾を持った刺青のお兄さん、二人の話を聞かせてください! 」
周りも俺がスキルを使用した事がわかったのだろう。
しかし、何のスキルを使ったかまではわからないようだ。
冒険者で指導者なんてジョブに就くやつはいないだろうからな。
わからないだろう。
「挑発」されたのか? なんて声も聞こえてくるが「挑発」じゃないと否定する声も聞こえてくる。
実際「挑発」じゃないしな。
勢いを
よつばは満足そうにニコニコだ。
話を聞いてみると、どうやらダブルブッキングらしい。
刺青君は刺青君で受付から依頼を受ける。
ヘイスも同じ依頼を別の受付嬢から受けたようだ。
それに気付いた受付嬢が二人を呼び出したところ始まったケンカだ。
どっちも悪くないな。
依頼内容を確認すると、『モルベア』という魔物の討伐依頼だった。
王都から半日も歩いた先にある森の『モルベア』が最近増えており数を減らして欲しいという内容の依頼だ。
依頼主は木工師ギルド。
モルベアの数が増えたことによって木材の供給に影響が出ているようだ。
討伐数は10体以上。
受注制限はなし、だが、C級以上が推奨されている。
素材の買取もしてくれるようで、そのお肉はとてもうまいらしい。
肉がうまいと聞いてよつばが反応していた。
これさ。
討伐数10体以上だぞ?
刺青君は一人か? 無理じゃない?
どれほど熟練した冒険者かは知らないがヘイス達も3人でできるもんなの?
「お二人とも、この依頼なんですが『討伐数10体以上』ですよね?盾のおにいさんは一人ですか? 」
「一人だ。 多少手強い相手だが戦った事がある魔物だ。問題ない」
一人か・・・・・・
「ヘイス、3人でこれ受けるの? この魔物は慣れてる? 」
「そうだが? モルベアは初めてだが、一体づつ相手にするさ」
うーん。
「これ、一緒に受けたらどうですか? 盾の刺青おにいさん、このヘイスのパーティには治療魔術使えるメンバーいますよ? ヘイス。このお兄さんはモルベアとの戦闘経験もある。一緒に行って損はないでしょ? 」
二人とも考えているようだが、いまいち納得しきれていない。
ちょっとケンカしちゃったもんな。
「二人ともこんな事がなければケンカなんてしなかったでしょうに。報酬は分けられちゃいますけど安全・安心はもっと大事では? ねえ? イザベルさん 」
いきなり話を振られて慌てるイザベルちゃん。
「そうですね! 私治療魔術使えますし、何かあった時に役に立ちますよ! ね?ヘイス、フール? 」
納得してくれたようで、ヘイスが先に刺青にいちゃんに謝っていた。
刺青にいちゃんも謝罪を受けて悪い気はしなかったようで、なんとなく打ち解けた雰囲気だ。
お互いに話あった結果、四人で一緒に依頼を受けることになった。
まぁ一番悪いのはダブルブッキングさせてしまった受付嬢だが、同じ時間に同じ依頼を受注されたら難しいよな。
「よし、それにわらわ達も一緒にいくゾ! 」
「は? 」
「依頼受けようとしていたし丁度いいじゃろ。決まりじゃ! 」
「良くない! 俺の話聞いてた!? Cランク以上が推奨されてるんだぞ!? 」
「わらわは実質Bランク以上の実力があるゾ!! 」
何言ってんだコイツ!
「すいません! おねいさん! 初心者に手頃な依頼お願いします!」
結局俺達は手頃な依頼として
依頼内容:オークの討伐
依頼人 :冒険者ギルド
受注制限:なし
報酬 :一体につき 250G
依頼者から一言:オークの数が増えておりその討伐を依頼したい。
討伐部位として牙を冒険者ギルドに持ちこんでくれ。
討伐制限制限なし。
この依頼を受けることにした。
さすがにCランク推奨の依頼を一緒に受けるわけにはいかない。
死にに行くようなものだ。
初心者のための訓練については今日はないらしい。
一日置きに訓練は実施しているようで、次の訓練は明日だ。
実施としての訓練から座学、冒険者としての基本や旅支度等、広範囲に亘って教わることができるようだ。
ちなみに実施というのは 剣 短剣 槍 弓 といった扱う者が多い武器に加えてその日の担当者によって教われる武器は変わる。
とりあえず今日は受けられないから仕方ない。
国からの依頼報酬(5,000G)をもらうとさっそく買い出しに街に出る。
現在の所持金は14,000G。
何が買えるかな。
さっそく防具を扱っている防具屋へ入る。
鎧を中心に盾やローブ、ブーツや小手までなんでも揃っている。
さすがは王都。
「先輩の盾買いましょうよ盾! 」
「俺槍だからなぁ、盾持ったら邪魔でしょ」
「またすぐ噛まれちゃいますよ? 先輩前衛なんですから後衛よりも防具大切です! 」
まぁわかるんだけどさ。
なんとなく盾の売り場を見るものの、どれも手で持つタイプだ。
両手を使う槍と同時使用は難しいな。
悩んでいると定員のおっちゃんに声を掛けられる。
「おう? 駆け出し冒険者かい? 武器は槍なのに盾見てるのかい?」
「え、ええ。両手が塞がってても使える盾なんてないですよね?」
ダメもとで聞くだけ聞いて見る。
「盾として、っていうのは難しいが、これなんてどうだい? 」
おっちゃんが持ってきてくれたのはガントレットだった。
手は自由に動くようになっており、手の甲から肘の手前までを守る防具だ。
身体に鎧も着てないのにガントレットだけ装備してるのもなんか不格好にも感じるが、これいいな。
盾程の防御力は無いにしても、俺ならこのガントレットに『身体変化』で強化できそうだが。
〈できるな。『身体変化』でガントレットを覆うようにイメージすればその強度を飛躍的に上げられるぞ。イメージ力次第だがな〉
よし。ならばガチガチに硬いものよりも動きやすさと値段で決めよう。
みんなにガントレットを買っていいか確認すると、誰も異論はないようだったのでさっそく値段交渉に入る。
「おっちゃん、これいくら? 」
「駆け出し冒険者だとこの辺かな。この鉄製のガントレットで4,500G、皮製のもので3,500G、魔物素材、これはロックトータスの素材なんだが、これが7,000Gってとこだ。魔力を籠めることで強度を上げることができる品だ」
ロックトータス製の物は論外だな。俺魔力ないし。
それにしても高い。
ガントレットでその値段かよ。
値段的には鉄製が丁度いいな。
試着させてもらうと頑丈さとずっしりとした重みを感じる。
これは長く装備しておくのは疲れそうだ。
「鉄製の強度がありながらもっと軽いのはありませんか? 」
「ミスリルや白銀製ならあるが…… 一桁以上違うぞ? 」
あかん。一桁違ったら何も買えないわ。
鉄製か革製か、どちらにすべきか……
「先輩! 鉄製がいいんじゃないですか? 重いのは気合いでなんとかしてください! 」
「皮製でいいじゃろ? 重くて槍が上がらなくなったら陽介ボーイ邪魔なだけだゾ? 」
ひどいこというなクローディア。
まぁその通りだな。
革製にしておくかな。
「あー、にいちゃんに丁度いいのあったな。ちょっと待ってな」
そういって定員のおっちゃんが後ろに引っ込んでから持ってきたガントレットは革製に一部鉄が混じったガントレットだった。
「これどうだ? 4,000Gでいいぞ」
ちょっと高い気もするがまぁ望み通りのものがあったので良しとするか。
俺は金を払うとさっそく装備する。
細かなサイズ調整をしてもらって俺の腕に合せる。
大きな調整はなくすんなりと俺の腕にフィットした。
ちょっと重くなったが気になる程でもない。
これに『身体変化』をはわせる練習をしておこう。
後衛のよつばとクローディアの装備もなんか欲しいな。
色々と探したものの、身体に装備するものはどれも高いのでいったん見送り。
お金を貯めてまた来ることにした。
「先輩! いいもの見つかりましたね! 」
「まぁ、そうだな。 ありがとう」
「いいって事ですよ! 」
へへへーっと笑うよつば。
お前達のも欲しかったんだけどな。
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