「君の彼氏はどっち? 」
宿は一階に食堂兼酒場があり、2階からが宿泊者の部屋となっている作りであった。
夕食前の時間ということもあり、食堂にもちらほらと客の姿が見える。
受付には気のよさそうなおばさんがいた。
「すいません、門の兵士さんに紹介されてきました。しばらく宿泊したいと考えているのですが、おいくらですか? 」
「はいよぅ! 息子の紹介だねぇ! 一人朝食付きで 200G! 飯はうまい、宿は清潔、言うことなしだよ! 決まりだねぇ! 」
決まったの!? 強引さがすごいな。
まぁいいんだけどさ。
「犬もいるんですが」
だめならココだけ外に置いておこう。
魔神入りだし大丈夫だろう。
「あらかわいい! その子犬なのかい? そんな犬見たことないねぇ。かわいいからサービスだ! 」
よかった、気のいいおばちゃんだ。
兵士さんの面影もあるな。
名前は忘れたけど。
どれくらい王都に滞在するかわからないな、とりあえず五日分を先払いしておくか。
「じゃあ4人で五日分、4,000Gでいいですか? 」
「計算はやいねぇ! まいどあり! 3階の1号室から4号室どうぞ! 」
そういうとおばちゃんは部屋の鍵を4つ用意してくれた。
みんなに鍵を配る。
俺が1、よつばが2、クローディアが3、ナルシッソスが4だ。
ココは俺についてくるだろうから1だ。
「とりあえず部屋を確認したら1階で食事にしよう」
俺達はそれぞれの部屋に入ることにした。
部屋は教会の部屋よりも少し広く、といっても5畳くらいだろうか。
ベッドに机と椅子しかないが、ベッドはふかふかでシーツは真っ白。とても清潔そうだ。窓も大きく街並みを見ることができる。
3階まで階段で登ってくるのはだるいが、この景色の為なら我慢できるな。
今日はもう夕食を食べたら寝るぐらいしかないだろう。
上着だけ椅子にかけるとリュックを持ってさっそく食堂へ向かった。
すでに食堂にはクローディアがおり、エールを飲んでいた。
「おそい! いつまで待たせるのじゃ! 」
こいつはほんとに酒好きだな。
与えたお小遣いはすべて酒に消えそうだ。
てか、たぶんもうそろそろないな。
「クローディア、部屋に行った?」
「いっとらんゾ! 宿の部屋なんぞどこもいっしょじゃ! アーッハハハハハ!! 」
そうか、ガキんちょクラブのクローディアだが俺よりは旅慣れしてるもんな。だいたいそんなものなのだろう。いちいちでかい声で笑わないでくれ。
「これだから童貞は困るのじゃ」
「クローディアだけ飯抜きな」
「くぅ~ん」
クローディアは瞳をうるうるさせて小首をかしげる。犬の真似か? ココっぽいな。
「なにそれ? 新技? 」
「そうじゃゾ! ココはなんでも許されるからのう! わらわも許されるのじゃ! 」
クソ。ちょっとかわいい。
そうこうしているうちによつばもナルシッソスも来た。
俺達が集まった事を察したのか、感じの良い定員さんが注文を取りに来る。
俺達は思い思いの注文をしたが、クローディアがご飯を頼まずに酒だけを頼んだから、おすすめ定食を追加する。
ちゃんとご飯も食べなさい。
成長しないぞ。
運ばれてきた料理を食べながら今後についてのミーティングだ。
肉料理が中心だが魚料理もある。
エアロの街ではキール亭でも魚料理は見なかったな。
さすが王都。
「さて、またお金が貰えたし余裕ができた。冒険者ギルドに戻れば追加で依頼書分の5,000Gもさらに貰えるしね。これからどうしたい? 」
「エールを飲みたいゾ! 」
「王都見学してお土産買いましょう! 何か美味しいものありそうですよ! 」
「依頼を受けて時間を潰しましょう」
それぞれの意見が出る。
まぁクローディアの意見は置いておいて、買い物…… 装備を整えてから冒険者ギルドで依頼を受けるか。
まぁそんなものだろう。
「じゃあ明日は装備見てから冒険者ギルドに行こう。ちょうどいい依頼があればいいけどな」
「陽介氏、冒険者ギルド隣ですよ? 先にギルド行ったほうが早くないですか? 」
あ、そうか。
「じゃあ先にギルドから行こう、その後防具屋かな、案内してくれ」
「陽介ボーイ、エールが先じゃゾ? なんせすぐ注文できるんじゃからな」
俺は聞かなかった事にして食事を続けた。
それにしても馬車代はけっこうかかったが、宿代を払ってもまだ9,000Gある。
明日5,000G貰えるし、合わせて14,000G。
改めて考えると……
そこまで金ないな。
やっぱり依頼を受けないといけないだろう。
「おや? あんた達兵舎にいたね? 」
悩んでいるとジョッキを持った冒険者風のおにーさんに声をかけられた。
ナルシッソスに似たような恰好をしているが、腰から下げているのは剣じゃない。
二振りの小ぶりの斧だ。
二刀流で持つのだろうか?
腕の筋肉がすごい。
こんな人いたような気もする。
「先輩! いましたよ! そこテーブルの方と一緒ですね? 」
よつばが俺の後ろのテーブルを指さす。
そこには斧男の仲間であろう、剣士風の男とクレリック風の女性がいる。
「そうそう! 覚えててくれたんだね! 君の彼氏はどっち? 」
女慣れした雰囲気でよつばに馴れ馴れしく話しかけチャラい斧男。
俺とナルシッソスを順番に見ると
「そっちの剣士さんかな? かっこいいじゃん 」
このクソガキ!
俺の事をザコの童貞だとでも思ってやがるな!?
当たってるわ。
鋭いなこいつ。
〈ほう? 怒らないのか? 〉
なんかひさびさに出てきたなオセ。
俺はこの程度の事で怒る程子供ではないのだ。
こんなの怒る場面でもないだろ。
「違います! なんですか? ナンパですか? 忙しいんで他を当たってください、タイプじゃありませんので」
なんか怒ってるなよつば。
いいぞいいぞ、もっとやれ。
「「コラ!! ヘイス!! ごめんなさい!! 」」
後ろのテーブルから慌てて仲間であろう二人が謝りに入る。
すごい謝り慣れてるな。
チャラ斧男は『ヘイス』っていうのか、いたずらが見つかった子供のような顔をしている。
「すいません。私は『イザベル』 こっちの剣士は『フール』 そしてその男は『ヘイス』って言います。悪気があるわけじゃないんです、王都に来たのが初めてで浮かれてるだけなんですよ」
イザベルはママのような恰好をしている。
黒い修道服を着ており明らかに『加護』持ちだ。
どの属性だろうな?
肩までの長い金髪を一つにまとめて下げている。
ヘイスと同じくらいの歳だろう。
美人だ。
「ほんとにすいません。こいつバカなだけで、悪いヤツじゃないんですよ」
剣士風の男、フールも仲裁に入る。
こいつは剣士だな。男だし興味もない。
一つ気になるのは腰から剣の他にも短い杖も下げている。
魔術も使うんだな。
「大丈夫ですよ、俺達も今日が王都初めてでして。これから一緒に仕事する事になりそうですし、仲良くしましょう」
俺達は自己紹介をして一緒に飲む事にした。
話してみたら三人とも気のいいやつらで、それなりに楽しく飲む事ができた。
『加護』持ちは予想通りイザベルちゃんだった。
属性は聖。バルドル神の加護らしい。
聖属性の加護持ちが多いのか?
よつばの『聖神の寵愛』についてはやっぱり驚かれた。
イザベルちゃんはよつばに興味深々だ。
クローディアと三人で女子会みたいな雰囲気を出している。
このまま部屋に戻っても飲み始めたりしないだろうな?
明日も忙しいぞ?
俺も入れてくれ。
飲みすぎない程度にお開きにし、それぞれの部屋へ戻ることにした。
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翌朝。
やわらかな鐘の音で目が覚める。
どうやら時間を知らせる鐘のようだ。
昨夜の酒は残っておらず、すっきり目が覚める。
窓から見える王都の景色。
既に街を歩く人の姿が見える。
朝から大変だな。
さっそく部屋を出ると、丁度よつばも部屋を出てくるところだった。
「あ! 先輩おはようございます! 」
「おはよう、朝から元気だな」
「『挨拶は大切だ、何も出来なくてもとりあえず挨拶だけはしておけ、そのほうが可愛がられるから』って私に指導したの先輩ですよ! 」
そんな事いった覚えはあるな。
かっこいいな俺。
先輩っぽい。
挨拶だけが全てじゃないが、しておいて損はないしな。
可愛がられるかどうかは別にして。
丁度いいからクローディアやナルシッソスにも声を掛けて朝食を取ることにした。
朝食を終えた俺達はさっそく隣の冒険者ギルドに向かった。
朝から依頼が貼り付けてある『依頼ボード』にはそれなりに人がいる。
手頃な依頼なーいかな。
報酬が高くて簡単で危なくなくて、それでいてステキなおねーさんとご一緒できる依頼がいいな。
「先輩、真面目に探してくださいね? 」
探してるわ!!
心を読まないでくれませんか?
そんなに不真面目な顔してたか俺……
ふざけてませんよ。
「わらわに似合った、ド派手で名声が国中に
こいつのほうがふざけてる!!
「よつば、クローディアに注意して! 」
「クローディアちゃんはクローディアちゃんなりに真剣です」
なんだよ!
まぁいい、さっさと探そう。
さすがは王都の冒険者ギルドだ。
依頼の数が多いし、冒険者ランクが高いものが多い。
掃除とかもいいけど、簡単な討伐がいいな。
もう少し戦闘経験積んでおかないとこれから先厳しいだろう。
そういえば初心者向けの訓練もあるって言ってたな。
そっちの話も聞いてみるか。
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