王都

 王都へ入るための門は混みあっていた。

 馬車や徒歩、トラ―ゴンウルフに乗っている者までいる。

 けっこうな人数がいるな……

 

 それに人種も様々だ。

 獣人って言ったらいいのか、狼男やリザードマン、猫耳娘に犬耳娘、ボインボインにペッタン娘、多種多様だが、獣人の女の子の発育ははんぱない。


 ぜひ写真を撮りたい。

 ギリギリの接写を。

 ローアングルで。

 無修正でだ。 


 スマートフォンがないのが悔やまれる。


 門が何個あるのかは分からないがこれはだいぶ待ちそうだ。

 御者さんに聞いてみるか。


「けっこう並んでますね、いつもこうなんですか? 」


「んん? いつもはこんなに並ばないんだけどなぁ。 何かあったのかねぇ? 」


 うーん。

 国内の魔術師団体への襲撃の影響か?

 

「あ、先輩! 行列を狙った売り子さんいますよ! 買いましょう!! 」


 まだ商品も見てないのに!? 

 売り子さんを見ただけで即決とかどういう神経してんだ?

 売り子さんからしたら最高のカモだな。


 しばらくすると可愛らしい売り子さんが俺達に声を掛けてきた。


「どもどもー 行列をお待ちの間に王都特製ドリンクはいかがですかー? 甘くておいしい、疲労も吹っ飛びよー 」


 何やら緑色の液体の入った瓶を見せてくる。

 色がとってもまずそうだ。


「今なら! 一杯20Gだよー! 」


「買います!! 」


 よつばは即決だ。

 決断力がハンパないなこいつ。

 緑色だぞ?


「わらわも貰うゾ! 」


「ありがとうございますー! 」


 二人ともさっそく怪しげな飲み物を飲み始める。

 

「どう? おいしいの? 」


「そうですね! これは…… 濡れた犬のような香りで、草原を走る少女の足の裏のような深みのある味わいで…… 」


 何言ってんだこいつは。

 飲み物に悪いものでも入ってたんじゃないのか?

 解毒の薬飲ませとくか?

 

「何言ってんのお前」


「ワ、ワインはこんな感じで表現するんですよ!! 猫のおしっことか言うんですよ! ワインっておかしい! 」


 おかしいってわかってるなら言うなよ。

 

「アルコールだったの? 」


「なんかワインっぽい感じですね 」


 クローディアはじゃんじゃんお代りしてる。

 お小遣い使い切るなよ。

 

 飲み切った瓶は売り子さんが回収してくれる。

 瓶って高そうだしな。


 門では兵士と思われる人達が一人ひとり身分証や積み荷をチェックしているようだ。

 かなりめんどくさいな。

 だいぶ進んだがまだ待ちそうだ。

 

 なんとなく周りを見渡していると、門の外で何やら書類を書いている兵士が目についた。

 何書いてるんだ?

 ちょっと覗いてみよう。

 どれどれ……


 兵士は俺が近づいているのには気づいたようだが気にしていない。

 チラっと覗き見ると「王都・商業街・橋の修理願い」という文字が見える。

 どうやら橋の修理をするための書類を書いているらしい。


 ただなぁ……


「ん? なんだ? 」

 

 書類を書いていた兵士は俺が覗いているのに気づいたようだ。 

 変な物でも見るような目つきで俺のことを見ている。

 

「あ、それ書き方変えたほうがいいですよ? 」


 40歳くらいだろうか?

 中年の兵士は俺に言われた一言に興味を持ったのか、人の良さそうな笑顔で聞き返してくる。


「そうか? どう変えたらいいと思うんだ? 」


 そうだな。


 今書いてある書類を要約するとこうだ。


『商業街にある南西の橋が落ちて住民が困っております


 住民からの要望が多く、早急に直すことを希望します』


 これだけだ。

 まぁ、これはこれでいいんだが、橋を直す優先順位は高くないだろう。

 メリットもデメリットもわからない。

 この橋の状況を兵士に聞き、ちょっと書き加える。


「こんな感じで…… どうでしょう? 」


 俺は書き直した書類を兵士に渡す。


『商業街のさらなる発展の為に橋の修理を願います


 商業街でも交通量の多く、利便性の高い北西の橋が落ち使用できなくなっております


 この橋が使用できない事で商業街から王都への通行の便が悪く、商業活動への影響は決して小さなものではありません 

 商業活動が阻害そがいされ税収の低下も懸念けねんされます

 

 また住民からの要望も多く、急ぎ対応する案件だと考えます 


 橋の修理費用は〇〇〇Gかかりますが、かかる費用に見合った以上の効果はあると考えます

 

 つきましては早急に対応をお願いしたく思います 』


「どうですか? 〇の部分にはかかる費用の金額を入れてください」


「ほう なんかかっこよくなったな! 」


 わはははは! と笑う兵士。

 つられて俺も笑ってしまう。

 感じのいいおっちゃんだ。


「陽介氏、そんな事できるんですね 」


 ナルシッソスが長い金髪をかき上げながら報告書に目を落とす。

 

「お前は陽介って言うのか? 珍しい名だな。 王都へ何しにきたんだ? 」


「王国から冒険者ギルドに出ていた依頼で、『加護』持ちを募っておりましたので来ました」


 感じのいいおっちゃん兵士はすぐにピン!と来たようだ。


「そうか、来てくれたのか。もう少しで中に入れるだろう。あそこの兵士に冒険者カードを見せて理由を言えばすぐに入れるはずだ。 冒険者ギルドの隣にある宿はいいぞ。俺の実家だ」


「もしかしておっちゃんの名前言ったらサービスしてくれます? 」


「わはははは! どうだろうな? 朝飯くらいはくれるかもしれんな」


 おっちゃんはウィペットと名乗った。

 呼びずらいな。

 せっかくだからおっちゃんが教えてくれた宿にいくか。


 しばらく待っていると俺達の馬車の番が来た。


 門番の兵士に王都へ来た目的・身分を確認されるがそこまで厳しいものでもない。

 俺達は冒険者カード見せて、王都に来た目的を話すとすんなり通ることができた。


 片道2車線はある広い門を潜り王都へ入る。

 俺達の入ってきた門はどうやら南門らしい。


 まっすぐと中央に向かって伸びる道はさらに進むと城壁にぶつかるようだ。

 その中心にヨーロッパ風の城が見える。


 エアロの街と比べて活気がすごい。

 人の数が段違いに多い。

 この城塞都市にいったいどれだけの人口がいるのだろうか。


 所々に見上げるような塔が建っており周囲を監視できるようになっている。


 馬車は道なりに走り、少し大きめの広場で停車した。


「さて、お客さん達、ここまでだ。乗車ありがとうよ。また機会があれば利用してくれな」


 全員広場で降ろされると、同乗していた商人、剣士は軽く挨拶をするとさっさと自分達の目的地へと向かっていった。

 クールなものだ。


 見るもの全てが目新しい。

 エアロの街を始めて見た時以上の感動だ。

 

 ナルシッソスは王都に来たことがあるようだが、他のメンバーは初めてだったので王都についての説明を御者から受ける。


 コモンドール王都


 見上げる程の堅牢な壁が、都市に住む住人の命と財産を守っている。 

 この壁は王都に住む人々のプライドらしい。

 他国からの侵略や魔物の侵入を拒む絶対なる壁。


 壁は一つだけじゃない。


 都市全体を囲う壁、さらに城を囲う城壁、2重構造となっている。

 それ以外にも居住区ごとに簡単な壁はあるようだ。

 中心から 城 貴族居住区 騎士居住区 外側に一般居住区や商業区という構造だ。

 中央に寄れば寄る程建物は高くなっていく。


 この王都の騎士・兵士達は礼節を重視する。

 国民からの信頼も厚いようで、王国はかなりの善政をしているらしい。

 この国の子供の就きたい仕事、ナンバー1は騎士らしい。


 冒険者ギルドはこの広場からさほど遠くない場所にあるようで、俺達はさっそく向かうことにした。




 王都の冒険者ギルドはかなり大きい。

 3階建ての建物全てが冒険者ギルドのようで、1階には受付・食堂、2階には貸倉庫・素材買取、3階には色々あるらしい。ギルド長の部屋とかだろうな。


 ギルドの中は賑わっていた。 

 人種も職業も様々な人達がいる。

 なんとなく気圧されてしまう。


 ナルシッソスはともかく、俺もよつばも冒険者風な恰好とは言えない。

 なんせスーツだしな。 

 クローディアに至っては痴女。

 そして犬連れ。

 いったいこいつらは何しに来てんだ? ってなもんだ。


「わらわの名は【クローディア・ボトルフィット!】荒ぶる暴風を手なずける大魔術師であるゾ!! アハハハハハハハー!!!! 」


 「え!? 」


 やりやがった!!


 「クローディア!! お願いだからやめて!! 」

 

 クローディアを必死で止めるがこれぐらいのアホはけっこういるのだろうか、一瞬注目を浴びたもののすぐに関心は失われたようだ。

 さすがは王都の冒険者ギルド。

 こんな事では動じない。

 もっと凶悪なアホがいるのだろう。


 恥ずかしいからさっさと受付に話を聞きに行こう。


 少し並んでいたももの、すぐに俺達の番がきた。

 受付は美人なおねいさんだ。

 彼氏持ちか?

 彼氏持ちなら並び直したい。


「すいません。エアロの街の冒険者ギルドで『加護』持ちを募集している依頼を受けたのですが」


 俺はエアロの冒険者ギルドでもらっていた依頼書を見せる。


「あぁ、この依頼ですね、急募でしたので助かります。 どなたが『加護』持ちなのでしょうか? 」


 よつばに目で合図を送る


「あ、はい。 私なんですが」


 よつばは冒険者カードを受付嬢に見せる。

 カードを見た受付嬢の顔が一瞬にして驚きの表情に変わる。


 まぁそうだよな。『聖神の寵愛ちょうあい』だもんな。

 初見の人はだいたいこんな反応だな。


「し、失礼しました。ギルドで働いて5年になりますが、初めて拝見はいけんしたものでして。それにしても『寵愛』とはまた……すごいですね……」


 受付嬢は小声になって話す。

 俺達のプライバシーを気にしてくれているのだろう。

 教育が行き届いてるなぁ。


 エアロの冒険者ギルドの受付嬢、スフレさんは 「え!!」 なんてでかい声出して驚いていた。そのまま普通に説明を始めたしな。プライバシーなんてあったもんじゃない。

 

 受付嬢はさらに気づいたのか


「属性も!? 」


 周囲の視線が集まっているのがわかる。


 だめじゃん!


「し、失礼しました。 『加護』持ちについて、確認させていただきました。このまま城へ向かってください。そこの門兵へ依頼で来た事を伝えれば案内してくれます。 そこで依頼書にサインをもらってください。完了報酬は5,000Gです」


 高い! 話を聞くだけでも5,000Gも貰えるのか!


「ええ! そんなに貰っていいんですか!? なんか悪いですね」


「よつばよ! 細かい事を気にするでないゾ! 」

 

 お前はもっと細かい事気にしたほうがいい。

 その格好も所かまわず名乗る事も改めるべきだ。


 とりあえずどこに行けばいいのかわかった俺達は、ギルドで食事をする事にした。

 ギルドでの食事は軽食と飲み物しかない。

 エアロの街でもそうだった。

 

 とりあえずパン生地の上に色々な具材が乗っているもの、これピザだな。

 ピザを数枚と適当に飲み物を注文し席に着いた。

 

「さて、食べたらさっさと話を聞いてお金貰おうか」


「そうじゃな! 今夜は飲もうではないか! 」


 クローディアは飲みたいらしい。

 ナルシッソスは思うところがあるようだ。


「僕はどんな話か気になって仕方がないよ。僕達を襲ったやつらの手掛かりが一つでもあれば嬉しい」


 そうだよな。

 故郷? かどうかは分からないが自分の住んでいた所が襲われたんだ。

 仲間も大勢やられてしまっただろう。

 何か情報があればいいな。

 食べたらさっそく行くことにするか。

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