コモンドール王国へ

 短剣の訓練は今までとは一味違う。


 刃物を持っている、生物を傷つけ命を奪う可能性がある、という感覚が槍と比べて段違いだ。

 日本にいる時に持った覚えのある刃物なんて包丁くらいのものだし、その包丁だって野菜やお肉を切るため。それでも持っている時はなんとなく怖い。


 短剣を振り回す訓練をしていると言い知れぬ恐怖感に襲われる。

 なんか怖いのだ。

 イケイケのギャル。

 これもなんか怖い。

 俺は小心者なのだ。


 よつばも弓とは違うようで、なんとなく動きが固い。


 それでも真剣に訓練に取り組んでいる。

 命に係わる事だしな。

 達人級の短剣使いになり、服だけを切り裂く技を身に着けたい。

 服だけを切り裂き「またつまらぬ物を切ってしまった…… 」と言いたい。

 趣味と実益を兼ねるとはこの事だ。

 俺も真剣だ。


 午後の訓練が終わり、俺は夕食までの時間で『身体変化』の訓練を、よつばとクローディアは魔術の訓練を始めた。


 「先輩! 先輩は身を守るもの、盾とか『身体変化』できるようにしておくのがいいと思います! 」


「そうじゃな、チェリー陽介はすぐ噛まれるからの! 噛まれっぱなしじゃ! 噛まれそうな瞬間に盾にでもしたらいいゾ!! アーハッハッハッハ!! 」


 俺の短剣の腕前を一番最初にクローディアのビキニと短パンで試してやろう。


 まぁしかし、盾を作る練習はするべきだな、と思いやってみたがこれがまた疲れる。


 スモールシールド、とでもいうのだろうか、直径30センチ程の盾を作り出すだけでもかなり疲れる。


 オセいわ


 〈短剣とは違い面積、質量があるせいだな〉


 らしい。

 変化させる大きさによって体力を使っているようで、薄く小さな盾であればそんなに疲れないのだが、厚さがないと貫かれそうだ。

 『身体変化』させた部分が貫かれたら……どうなるんだ!?


〈腕を変化させた部分であれば、腕が貫かれるのと一緒だ。 盾を作るのであればしっかり強度を高めるイメージをすることだな〉


 恐ろしい。


 早く体力をつけて大きめな盾も作れるようにしたいものだ。


 あっという間に夕食の時間になるので準備を手伝う。

 この世界にきてから一日が過ぎるのがとても速い。

 

 やらなければならない事が多いせいだろう。

 あと二日後にはコモンドールの王都に向けて出発だ。

 明日からは旅の準備もしなければならない。

 忙しいな。


 訓練の疲れもあり夕食を取るとすぐに寝入ってしまった。

 


======



 翌日


 明日は出発の日だ。

 今日は午後の訓練を早めに切り上げて街にくりだすことにした。

 明日からの準備をしないとね。


 さすがに十日以上もこの街に住んでいると慣れてくる。

 まずは保存食を念のために全員一日分、回復薬は使ってなかったが、念のためもう1個づつ、痛み止め、解熱作用のあるポーションを1つ買った。


 ナルシッソスが全員分の薄い毛布を準備してくれた。

 折りたたむと新聞くらいになるすごい薄い毛布だ。これがまた薄いくせに暖かい。

 他にも俺とよつばの短剣、そして俺には鉄製であろう槍、よつばには弓を用意してくれた。 

 魔の咆哮から持ってきたらしい。

 対して高いものではないとの事なので、ありがたく使わせてもらう。

 ずっとママに借りっぱなしってわけにもいかなかったから助かる。

 

 魔の咆哮に借りを作るようだがこっちはい生贄にされたんだから気にしないでおこう。

 俺達が王都に行くのは魔の咆哮としても願ったり叶ったりだろう。


 俺達の現在の手持ちはこうだ。


 花岡陽介『指導者』


 装備 鉄製の槍 短剣 スーツ 革製のブーツ 

 リュック(グレー) 財布 水筒 保存食 回復薬 2個 痛み・解熱薬 1個

 カンテラ 薄い毛布 替えの下着類 


 小春よつば『ジョブなし』 

 装備 木製の弓 短剣 スーツ 革製のブーツ

 リュック(赤) 財布 水筒 保存食 回復薬 2個 カンテラ 薄い毛布 替えの下着類


 クローディア・ボトルフィット『魔術師』

 装備 木製の杖 短剣 ビキニ 短パン ブーツ 短いマント

 肩掛け革袋 財布 水筒 保存食 回復薬 2個 カンテラ 薄い毛布 細々とした雑貨


 ナルシッソス『戦士』

 装備 軽装鎧(各部位) 長剣 ショートソード

 

 荷物は色々持っているらしい。

 けっこう大きな肩掛けの革袋には色々詰まってそうだ。

  

 それから今あるお金が12,000Gだ。

 ちょこちょこ使うことがあったし、ジョブ鑑定にもお金使ったしな。

 念のため、2,000Gづつよつばとクローディアに渡しておく。 

 お小遣いだ。

 パンツでも買えばいい。


 武器だけだが、装備品が更新されたのは素直に嬉しい。

 準備を終えて俺達は教会に戻った。



======

 



 瞬く間に出発の日を迎えた。


 ママはとても寂しそうにしていなかったし、昨夜は夜這いもなかった。


 どういう事や!!

 

 ぜんぜん普通に送り出してくれた。

 いつも通りだ。

 ちょっとコンビニでおにぎりでも買ってくるのだと思ってるんじゃないだろうな?

 

 まぁ、元冒険者だしね、これくらいの別れは普通か。

 ママから教わりたいことはたくさんあるし、また来ることも伝えている。



 王都への足は馬車だ。

 三日もかかるしな。


 馬車は値段によって食事付・無しが選べて、俺たちは食事付の馬車を選んだ。


 保存の効く食料を別に持つのも荷物になる事、お金も余裕があった。


 念のために保存食の買い込みもしておいたがせいぜい一日分だし、保存も効く為今後使うこともあるだろう。


 馬車にはちゃんと屋根、ほろっていうのか? が付いており雨が降っても大丈夫そうだ。

 俺達4人(俺、よつば、クローディア、ナルシッソス)+1匹(ココ)以外にも商人風の男が一人、冒険者であろう剣士風の男が一人、そして御者席に一人。

 合計七人乗っている馬車を馬が一頭で引いている。


「先輩! この馬すごいですね! 一頭で七人乗りの馬車牽けるんですね!? すごい! 」


「そうだな、馬車は始めてだから良くわからないけどすごいな! 」


 すごいすごーい! なんかもうすごい以外の単語が出てこない小学生みたくなっている。

 すごーい!


「おじょうちゃん馬車は初めてかい? うちの馬は十人は余裕でいけるんだ。 優秀な馬だよ 」


 そうなのか。まぁそもそもこの世界の馬だ、俺達の世界の馬とは違うんだろうな。なんかデカい気もする。


 この世界に来て初めての街、エアロの街。


 馬車が門を抜け外に出る。


 振り返り見える街並みはなんとなく感慨深い。

 まぁ、またすぐ戻ってくるよな。


 俺たちを乗せた馬車はエアロの街を後にした。




 三日後。


 街道を走る馬車は順調に進んでいる。

 予定では今日王国へ着く予定だ。


 道中ちょっとした魔物は出たものの業者がささっと処理をしていた。

 この世界の業者は戦えるらしい。


 一緒に乗り合わせた商人は王国で修行を、剣士風の男は王国の冒険者ギルドで仕事をするらしい。

 この三日ですっかり打ち解けた。

 

 主によつばが大人気だ。


 剣士の野郎は俺らのパーティに入ってあわよくばよつばとワンチャン、くらいに思っていただろう。

 だがそれは許さん。

 俺は野郎には厳しいのだ。

 


 昼頃だろうか。

 

 街道の先に大きな城壁が見えてきた。

 エアロの街なんて比じゃない。

 かなり大きな城塞都市だ。

 中心には大きな城が見える。


 これがコモンドール王国か。

 


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