魔神オセ

教会についた俺達がよつばとクローディアを探していると、二人は教会の裏手にある芝生でゴロゴロしていた。


 文字通りゴロゴロだ。

 あっちにゴロゴロこっちにゴロゴロ。

 何が楽しいのかキャッキャしながら二人で草まみれになって転がっている。

 ちょうどクローディアが寝転んでいる辺に今朝ココがうんこしてた事は言わないでおこう。


「ただいま」


「あ! お帰りなさい先輩! 」


「なんじゃ! のぞきか! そんなにわらわの痴態ちたいを見たいのか! 」


 二人とも恥ずかしい事をしていた自覚はあるようだが反応は対照的だ。

 よつばは少し恥ずかしそうに、クローディアは逆ギレかましてきている。

 まったく生意気ながきんちょクラブだ。

 クローディアがうんこ踏んでることを願おう。


「冒険者ギルドに行って、ジョブに就いてきたよ」


 俺は二人に冒険者カードを見せ、『指導者』のジョブに就いたこと、冒険者カードが更新されていなかったのは、俺に魔力がないせいであった事を伝える。

 よつばは俺が『指導者』というジョブに就いた事に喜んでおり、「さすが先輩! バッチリじゃないですか!」と、とても嬉しそうで、戦闘職じゃなかった事について安堵あんどしているようだった。


「それにしても陽介ボーイ。魔力がないというのはほんとに不便じゃのう」


「不便すぎてケツから血がでそうだ」


「陽介は不便だとケツから血を出すのか? それも不便じゃな」


 そんな話はどうでもいい。


「ステータスの補正が入るし、よつばもジョブに就いておこうか」


「そうですね! けどあまりにも大それたものは嫌だなぁ」


 そうか? なるべく強いジョブのほうがこれからも安心だろうに。

 よつばはあまり自分自身がジョブに就く事にあまり興味はなさそうだ。


「ナルシッソス」


「はい? 」


 ココを撫でまわしていたナルシッソスは、唐突とうとつに呼ばれたことに驚いている。


「これから魔神・オセについて話そうと思う。それを聞いてどうするのか考えて欲しい」


「わかりました、魔神様の話を聞かせてください」


 お前が撫でまわしているココも魔神を支配してるんだけどな。


「さて、じゃあオセの言葉は俺が言うよ、オセを含めて話をしようか」


 全員なんとなく座る。

 今日は天気も良くて気持ちがいい。

 ピクニックデートに持ってこいの日だな。

 行ったことないけど。


 俺はよつばがパンチラしたらちゃんとゲットできるようによつばの正面に座る。

 俺は隙がないのだ。


「さっそくだけど、オセ! 今回の魔神召喚だが、本来はどうなるんだ?」


「魔力が有る普通の生物であれば吾輩がその体を支配し、この世に魔神が降臨することになっていたな」


「降臨するとどうなるんだ? この世界の支配とかしちゃうの?」


「ふん。 そんなものに興味はない。 そもそもあの魔力玉の量では対した期間現界することはできなかったであろう」


 そうなのか。あの魔力玉っていうのだって百年以上魔力を籠め続けたって言ってたのにな。

 それほど魔神っていうのはすごい存在なんだろうか。


「魔神はオセの他にもココに入ったプルルン? ってのがいるみたいだけど、他にもいるの? 」


「72柱いる。プルルンではない。プルソンだ」


「なんでその中でオセが来たの? 」


「魔神界はな、既に魔神・王達による統治が完全なる形で完成している。ゆえに、吾輩は暇だったのだ」


 え……? こいつ暇だから来たの!?

 三人の顔を見ると皆驚いているようだ。

 そりゃそうだよな。暇だから来ました、って。


 ナルシッソスはなんとか声を絞り出した。


「ひ……暇だからオセ様が来て下さったのは驚きましたが……それではプルソン様はなぜ? 」


 そうだそうだ、最初に召喚の呼びかけに応えたのはプルソンだったな。


「それは吾輩にもわからん。 プルソンは王の中でも何を考えているのかまったくわからん。王達もプルソンと会話をするのは諦めたぐらいだ。よって、プルソンが住みついた場所をプルソンの統治する場と決めた」


「プルソンはアホそうじゃの」


 クローディア!! なんて怖いもの知らずだ。

 そのアホのうんこ、おそらく踏んでるぞお前。


 その後も俺達はオセから話を聞いた。

 要点をまとめると。


 魔神というのはこの世界ではない世界に住んでいる。

 魔神界、とでも呼んだらいいのか、とにかくこの世界にはいないらしい。


 オセはその魔神界では俺の世界で言う、ひょうに近い形を取っているようだ。

 全て武具を扱うことのできる獰猛な武人、それがオセである。

 その反面、博識な所もあり教養をも司る魔神である。

 

 一方プルソンは。

 魔神の世界の炎を統べる王である。姿は俺の世界でいう獅子ししの顔にわしのような翼、ドラゴンのような尾を持つ、といった形を取っているようだ。

 正直想像がつかない。ただ、ココに翼が生えたのはそのプルソンの翼だろう。


 話は通じないが、このプルソン。 過去・現在・未来を見通す力を持つ。

 また、音楽をこよなく愛しており、登場に合わせてトランペットのような爆音を鳴り響かせる。

 そういえば、こいつの召喚の時にめちゃめちゃうるさかったのはそのためか。


 プルソンの考えはオセも分からない。

 そもそも話が通じないのに、さらにココに入っているせいでなお会話にならない。

 ただ一つわかるのは、ココに支配されており、やはり魔力がないのでほぼ何もできないようだ。

 おそらく、翼を出すこと、トランペットの爆音、気配遮断けはいしゃだん、くらいだとオセは言う。

 

 オセにしろプルソンにしろ、結局は魔力を司る魔神である。

 魔力がない事にはほぼ何もできないらしい。


 それを聞いたナルシッソスの落胆振りはすごい。

 この世の終わりのような顔をしており、今にも屋上から飛び降りそうだ。

 

「オセ、お前を召喚した魔の咆哮なんだけど、いったい何に襲われたと思う? 教養をも司る魔神様なら検討がつくんじゃない? 」


「ふむ。 魔・属性の中級魔術すら足止めにしかならなかった、のだな? 」


「はい! 中級魔術はほとんど通用せず、上級魔術を使える者と剣や槍、武器を持って戦うものだけがなんとか応戦できましたが敵の数が多く次第に戦線は崩れ逃げ出すことに……」


 ナルシッソスは何かヒントを得れるのかと必死の形相で答える。


「なるほど。魔術に対する高い耐性を持っているようだな。どのような姿、形であった? 」


「見た目は全て真っ黒なやつらでした。 人型の大きさのものもいれば、ゴブリン程度の大きさからオーガ程の大きさ、獣のようなやつもいましたが、どのタイプのやつも魔術の効き目が薄かったです」


「思い当たる節としては、それらはおそらく死霊しりょう系の召喚魔術であろう。高位の召喚魔術師が生物に死霊を召喚しその力を与えたな。効果は魔術に対する耐性が飛躍的ひやくてきに向上する事、恐怖や痛みといった感情から解き放たれる事だ」


 戦闘狂になっちゃうのか。

 いったい何者がわざわざ魔の咆哮を襲ったのだろう? 個人なのか集団なのか、もしくは別の組織なのか。

 そんな事をするメリットはなんだ? 

 恨みとか?

 生贄いけにえにされた俺が言うのもなんだが、あまり悪そうな連中には見えなかった。 

 

「オセ様・・・・・・私はどうしたら・・・・」


「知らぬ。そもそもなんの為にお前らを狙ったのか、狙いがわからねばどうしようもない。心当たりはないのか?」


 ナルシッソスだけでは分からないだろう。いったん魔の咆哮に戻ったらどうだ? 俺達と一緒にいるメリットもない。

 悩んでいるナルシッソスだったが、その判断は早かった。


「今いただいた情報を長へ伝えます。私は引き続き皆さんに付いていこうと思います。何かやつらにかかわる情報があるかもしれません」


 ナルシッソスの方向性は決まったらしい。しばらくは俺達と一緒だ。

 許可した覚えはないんだが。

 

 それから俺はオセに気になっている事を聞いた。

 『身体変化』についてだ。

 この能力、俺はもう武器を買わなくていいんじゃないか?

 まだ短剣にしか変化させていないが、慣れればかなり大きな変化もできるようだ。槍が作れるようになればもう武器は買う必要はないだろう。


 と思ったんだが。


「『身体変化』だがな。武器は武器で持っておいたほうが良いぞ」


「なんで? お金かかるじゃん」


「『身体変化』に魔力は使っていない。だが、お前の生命力を使っている」


「は!? 生命力!? どういうこと!?」


 なんだそりゃ!? そんなデメリットあんの!?

 使えねー能力だな!!


 オセの話をまとめるとこうだ。


 身体変化は俺の生命力、体力を使って変化をさせているらしい。

 短剣程度の大きさであればたいした体力は使用しないものの、大きなもの、槍や盾、その強度や大きさ、イメージが強ければ強い程強力なものが出来上がる反面、体力も使うとの事だ。

 武器を持っていることでイメージの補正ができる事、その武器に身体変化をはわせる事で使用する体力も減少させることができ、武器の強化もできるらしい。

 だったら武器を持っていたほうが断然いい。

 調子に乗って身体変化使いまくってぽっくりいきました。じゃ辛すぎる。


 童貞のまま死にたくない!!


 長々と話ているうちにお昼の時間になった。

 よつばのジョブ鑑定に行かないとな。


 俺達はキール亭で昼食を取り冒険者ギルドへ向かうことにした。

 お金に余裕があるってのはいい事だ。



========


 

 キール亭で昼食を取った俺達はさっそく冒険者ギルドに向かった。


「よつばはどんなジョブがあるんじゃろうなぁ! 扱える魔術は少ないものの、なかなかの威力じゃ。 魔術師がいいゾ! 」


「うーん。できるだけ平和なのがいいなぁ……」


「平和なジョブってなんじゃ? 」


「なんか……『パン職人』とか……」


「パ!! パン!? どうした? 腹が減ったか? さっきお代わりもしてたじゃろうに」


 よつばはパン職人になりたいようだ。

 何を考えているのかさっぱりわからん。

 食い意地だけでジョブ選んでるんじゃないだろうな?


 冒険者ギルドに着いた俺達はさっそくスフレさんに声をかける。


「すいません、今度はよつばのジョブ鑑定お願いします」


「はい、かしこまりました。それではまず鑑定に1,000Gです」


 俺は1,000Gを渡すとさっそく奥の部屋へ案内された。

 今回は全員一緒だ。 

 クローディアはアホの子だか仲間だし、ナルシッソスも別にいいだろう。ちょっとかわいそうだしな。よつばも気にしていない。


「わあ! おっきな石ですね!! 」


 よつばはさっそく部屋の中央にある石に気づいて驚きの声を上げる。


「こんなおっきいのよく入りましたね……」


 そんな言われ方しちゃうとむずむずしちゃう。

 男の子だもん。


「触っても……いいですか?」


 いいぜ? 優しくな?

 俺はベルトを外すと


「待たせたのう。今度はお前さんか」


 おばあちゃんが部屋に入ってくる。

 よつばはペタペタと石に触ってそのすべすべの感触を楽しんでいた。


「あ! おばあちゃんこんにちは、よろしくお願いします!」


 さっきまで卑猥ひわいな言葉のオンパレードだったよつばだがとても礼儀正しい。

 挨拶は大事だ。


「うむ。ジョブについてはその男から聞いておるな? 」


「はい! 」


「ではさっそく鑑定に入るとしよう。その石に両手を触れるといい」


 よつばはツルツルすべすべな石にペッタンと手を触れる。 

 ツルペタだ。


 おばあちゃんもスフレさんも、俺達もよつばからどんなジョブが出てくるのか楽しみでしょうがない。

 なんせ前例がない聖神の寵愛ちょうあいの持ち主だ。

 さぞすごいジョブが出てくるのだろう。

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