ジョブとこれから

「これはな」


「これは!? 」


 おばあちゃんは俺の事をジッと熱のこもった目で見つめてくる。

 何かを言いたそうにモジモジと躊躇ためらうその姿はまるで少女のようだ。

 

 なに!? なんなの!? 俺に惚れちゃった!?

 ごめんなさい! 年上大好きだけどごめんなさい!

 今求めてるのそんなことじゃないから!!

 はよ!!


「なんなんですか!! おばあちゃん!! 」


「あ~、あれじゃな。おぬし、戦闘職を希望だったのぉ? 」


「うんうん!! 勇者とか賢者とかさ!! なんかかっこいいの!! 」


 なんなんだよ!!


 なんか俺のIQどんどん下がってないか!?

 自分がバカになっていくようだ。


 オセ!! これ読んで!! 


〈いいのか? 老婆が言いたそうだぞ?〉


 いいんだよ! ドキドキさせないで! これ以上ドキドキしたらIQ5くらいになっちゃうよ!!

 オセが応えるより早くおばあちゃんは応える。


「これはな、『指導者』と読む」


「『指導者』!? それはどんなかっこいい戦闘職なんですか! 」


 おばあちゃんとスフレさんは言いにくそうに顔を見合わせている。

 いったいなんなんだ? 『指導者』ってちょっとかっこいい雰囲気あるじゃん!?


「これはな、非戦闘職でわりと適性を持つものがおる、基本職じゃ。 

 そもそも……一つしか適性が出ないのが異常じゃ。普通は複数あってな、そこから選ぶ。 

 指導者は不人気職じゃな」


「…………」


 基本職で不人気職かよ………

 なんでだ? もう心が折れそうだ。


「……なぜ不人気なのですか? 指導者……具体的には何が得意なジョブなんでしょうか? 」


「指導者はな、指導することを得意としておる。 教えることが得意なジョブじゃ。国にでも仕えて子供に算術でも教えたらいい」


 まじか…… ほんとにそのまま指導をするジョブなのか。

 もう教会でおとなしく子供たちの教師でもやって余生を過ごすしかないのか俺は。


 教会でママと一緒に子供達のめんどうを見ながら余生を過ごす。

 ママは教会の仕事を、俺は教会に子供達を集めて算術やママから教わった槍を教えたりする。

 一緒に生活しているうちに子供ももっと増えるだろう。

 もちろん俺とママの子供がたくさんだ。


 名前は何にしようか?

 

〈現実を見ろ〉 


 オセが俺の妄想を否定してくる。

 俺が現実逃避をしているとスフレちゃんは見かねたのか優しく声を掛けてくれた。


「指導者は教育を行う機関ではそれなりに人気ですよ!! 戦闘職ではないものの、その指導は出来るのですから……。あ、あと指導者のジョブにつくと知力補正付きますし、他に就けるものもないのですからとりあえず就いておきましょうよ、ね? 」


 それ励ましてんの!?

 なんかちょっぴり傷付くんですけど!


「そうですね……。他にないですから『指導者』でお願いします」


「そうじゃな。 別に指導者だから冒険者ができないわけでもないしな。ジョブに縛られることはない。気持ち程度に考えておけばいいのじゃ」


 そういうとおばあちゃんはまた詠唱を始めた。

 俺の適性を鑑定した詠唱とは違うようだ。

 おばあちゃんは詠唱が終わると


「この者の『指導者』としての能力を呼び覚ませ! 付与エンチャント!!」


 身体の奥からなんとなく力を感じるような気がするがどうだろう?

 何かが変わった様子は……感じられないな。


〈ちゃんと『指導者』としてのジョブが付与されているぞ。安心しろ〉


 そう? ならいいんだけど。

 あ、冒険者カード見たらいいのか。

 どれどれ。


 【名】 花岡 陽介 (人族)

 【ランク】 E

 【ジョブ】 ==

 【ステータス】 体力 42 魔力 × 知力 59 力 36 俊敏 27  

 【スキル】 算術 指導

 【属性】 ==

 【特殊】


 変わってないじゃねーか!

 これ最初に貰ったままの冒険者カードだわ!


 「おばあちゃん!? ジョブ就いてないけど!? 」


 俺はおばあちゃんに冒険者カードを突きつける。

 おばあちゃんはそんなわけないじゃろ、とかなんとかブツブツいいながらも俺の冒険者カードを見る。


「おや? 変わっとらんな」


「ほらほら!! どういう事!? ぼったくり!? 」


「失礼なやつじゃ、これはあれだな、お前の魔力がないせいじゃな」


「またそれ!? 魔力がないって不便すぎる! 」


 おばあちゃんは俺の手を取ると魔力を俺に渡してくれているのをなんとなく感じる。

 するとカードの内容が書き換わり始め、現れたステータスは。


 【名】 花岡 陽介 (人族)

 【ランク】 E

 【ジョブ】 指導者

 【ステータス】 体力 46 魔力 × 知力 69 力 38 俊敏 29  

 【スキル】 算術 指導 槍術(初級) アテンション

 【属性】 ==

 【特殊】【ジョブ効果 知力上昇 伝達力向上 理解促進 】

     ????


 お!? ちゃんと上がってる!! ステータスが上がってるよ!!

 何これ!! 俺つえーじゃん!!


〈強くはないがな〉


 オセうるさい!

 今までやってきたことは無駄じゃなかった、ママとの訓練がしっかり身になっている。


 それだけじゃない。

 スキルに『アテンション』? なんだこれは?

 ジョブ効果は戦闘には使えそうもないが、指導するには役に立つだろう。

 最後の『????』はなんだ? 身体変化の事か?


〈恐らくそうだな。吾輩の能力については鑑定なんぞできん〉


 なるほど、そう考えると結構成長してるじゃないか俺!!


「おばあちゃんありがとう! ジョブ就いてましたね!! それから『アテンション』ってなんですか? わかりますか? 」


「それはな、指導者のスキルで周囲の注目を集めることができるスキルじゃ。 子供達がうるさい時とかに役にたつじゃろうて」


 注目を集めるだけかよ……

 まぁいい。どっかで役に立つだろう。


「そのスキルに魔力は必要ない。槍術と一緒じゃな。注目を集める! と気合いでも入れて声を上げれば『アテンション』は自然と発動するじゃろう」


 そんなもんか。

 練習しておこう。


「ありがとうございました。不人気な基本職だったのは納得いきませんが、自分の成長がわかったのでそれ以上の収穫でした。今度はよつばを連れてきますね」


「聖神の寵愛ちょうあいの娘じゃな。あの娘の鑑定は楽しみじゃな」


 俺はでかい石のあった鑑定の部屋を出るとナルシッソスのテーブルに腰を掛けた。

 ナルシッソスは俺が魔力がないの知らないしな。

 魔力がないザコだとバレたらどうなるのだろう。

 諦めてくれるか? 

 さてさて……どうしたものか。


「陽介氏、ジョブはどうでした?」


「あ、あぁ、ジョブね。あ~」


 ナルシッソスは目をキラキラさせながら俺の返答を待っている。

 こいつに尻尾が生えていたらちぎれんばかりにぶん回しているだろう。


「指導者、ってジョブについたよ」


「え?………指導者ですか? 戦闘向きではないですね……」


 ナルシッソスが落胆しているのはその肩の落とし方からわかる。

 さっきまでぶん回していた尻尾はどっかにいった。


「実はさ。これ見て欲しいんだけど」


 俺は自分の冒険者カードをナルシッソスに渡す。


「陽介氏。冒険者カードはそう簡単に人に見せるものではないですよ? 見ていいというのなら見させていただきますが……」


「大丈夫だ。見てくれ」


 ナルシッソスは俺の冒険者カードを成績表を貰う小学生のようにワクワクしながら見始めた。

 すぐに異変に気づいたのか


「ま……魔力が……ない!? 」


「そう。俺は魔力がないんだ。だから魔神・オセは俺のことを支配できなかったらしい」


「そんな事があるだなんて……」


 ナルシッソスはかなり驚いているようで、俺の事を童貞でも見るかのような目で見てくる。

 童貞なんだけどさ。


「とりあえず教会に戻ってこれからの話をしないか? 」


「は、はい。 魔神様のお話も聞かせてください」


 俺達は冒険者ギルドを出ると教会に向かって歩き始めた。

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