異世界生活

ジョブ

「あの~、もう帰ったほうがいいんじゃないの?」


 俺は冒険者ギルドで注文したコーヒーを飲みながら目の前にいる男に問いかける。

 コーヒー、うんまい。

 俺はコーヒーが飲み物で一番好きだ。

 そう、この世界にもコーヒーがあったのだ。

 まぁコーヒーって言うのは木の実から作られるからな、作り方も案外単純なのだ。

 あぁ、コーヒーは


「そうはいかないのさ! 僕は陽介氏が聖地奪還せいちだっかんに協力してくれるまで付いていかせていただくよっ!」


 長い金髪をわさっ!と後ろに掻き揚げながら魔の咆哮ほうこうの団員・ナルシッソスは応える。

 魔の咆哮の長、ペレが俺たちに付けた護衛?従者?連絡員?なんて言ったらいいのか、勧誘員だ。

 俺のことを魔の咆哮なんていういかにも怪しいカルト団体に勧誘してくるのだ。

 入信したら宝くじが当たり彼女ができる!!

 そして童貞も卒業できました!! となるのであればすぐにでもハンコを押すのだが。


 とにかく、俺を聖地奪還に協力させたいらしい。ナルシッソスは魔神信仰団体では珍しく剣を扱う剣士で、いかにも剣士風の格好をしている。軽装鎧、といったらいいのか、胸部、肩を守る鎧に、ガントレット、そして腰の周辺にも鎧を身に着けており剣を2本吊るしている。


 正直かっこいい。整っている顔立ちに金髪の剣士。

 ペレが俺たちの年代に合わせて人選をしたのか、俺と同い年の27歳らしい。

 童貞ではなさそうだ。


 よつばとクローディアはよっぽど魔力を使いすぎたのか、まだ教会で休んでいる。冒険者ギルドには俺とココで、そしてナルシッソスが付いてきている。




 魔神召喚の後。

 あれから俺たちはどうしても街まで送りたいという魔の咆哮の長・ペレの言葉に甘え、トラ―ゴンウルフと呼ばれる馬サイズの犬に乗せてもらいエアロの街まですんなり戻ることができた。


 結局この魔人召喚事件の顛末てんまつをまとめると、


 平和に暮らしていた怪しい魔神信仰団体・魔の咆哮。

 最近その聖地が何者かに襲われ陥落かんらくした。

 いったい何に襲われたのか。それがわからない。


 魔の咆哮もそのナニカに応戦したのだが、上級魔術ですら通じず足止め程度にしかならなかったようだ。

 ほぼ魔術師で構成される団体にはきつい。

 魔神召喚ができるのは長のみ。何とか長を含めた20名余りが聖地を逃れることができた。

 魔神召喚には百年以上、代々魔力を込め続けた特別な魔石や素材が必要で、そう簡単に召喚できるものではなく困った時の最終手段だったらしい。

 

 まぁ、ここまで聞くと魔神召喚しようとしたのも仕方ないか、とも思うのだが、だったらお前たちの団体員から生贄を出せと。他所からさらってくるなんて極悪非道だな。と言ったのだが、魔力を込めた者は生贄や貢物にはできないようで、今いる残存メンバーでは誰も該当しなかったらしい。


 困ってしまった魔の咆哮。裏のルートから生贄と貢物を調達することにした。

 そこで派遣されてきたのがアンドラだ。


 アンドラの提案で冒険者ギルドにコーンウルフの角、素材買取依頼を出す。

 アンドラは冒険者ギルドで情報を集めながら、魔人の生贄にふさわしい身寄りのない、かつアンドラでも勝てそうでチョロい冒険者を探す。

 俺たちは冒険者ギルドでアンドラの提案にのっかり、コーンウルフの素材回収をしようとまんまと森に行くことにした。

 ここまで来たら簡単だ。俺たちのことをつけて、ピンチを救い警戒心もなくなったところで小屋まで案内する。そして睡眠薬入りの水を飲ませて眠らせ、教団に引き渡した、という事らしい。


 アンドラ極悪人だな!!

 悪魔のようなやつだ!!


 ただ一点、生贄にされたとしても死ぬことはないらしい。魔神が召喚されている間意識がなく何もできないだけで、デメリットは数年は寝込むこと、それから記憶の喪失がある、という事だが十分とんでもない事だ。

 教団はもちろん生贄となった者のその後を手厚く保護する予定でいたようだがそんなものは信用できない。


 召喚を行った場所はあの小屋からさほど離れた場所ではないようで、わりとあっさり街まで戻ることができた。


 そして一晩が経ち、今にいたる。


「ナルシッソスさんさ、あんな目に合わされた俺たちが協力すると思う?」


「協力してもらえるように頑張るさ!!まずは信頼を得るため、君たちに協力させて欲しい!!そして話を聞いて欲しい!!」


 力強く身振り手振りをつけながら言葉に力をこめるナルシッソス。


 なんか熱いわ。そしてうざい。

 名前も長くて呼びづらいわ。


 俺たちはペレから生贄にしてしまった迷惑料として、10,000G貰っている。遠慮なくもらった。協力した場合にはこれの百倍をくれるというのだが、余計な事に巻き込まれたくない。

 

 10,000Gで十分だ。


 そして今日、わざわざ冒険者ギルドにきたのは手ごろな依頼を探すこともそうだが、メインは他でもない『ジョブ』に就くため、である。まずは鑑定してもらおうと思っているのだ!


 ジョブ。そう。ジョブ。


 俺は秘めたる能力はなかった。そんな能力はぜんぶよつばに持っていかれた。全属性適性の可能性とか聖神の寵愛とかな。あれはおそらくよつばと一緒に鑑定してもらったからだ。


 おいしいところを持っていかれた感がすごい。


 今日は俺一人だ。正確にはナルシッソスもココもいるが、こいつらは鑑定しない。


 ちなみにココは翼はしまわせて歩かせている。目立つからな。翼をしまわせるのはほんと苦労したが、餌で釣りながらなんとかしまわせた。

 今後、ご飯が食べたくなったら翼を出して主張しそうでちょっと怖い。


〈随分とジョブに期待しているようだな〉


 お、オセ、そりゃ期待するだろ! 特別な能力がなかったからな。せめて特殊なジョブ、かっこいいジョブにつきたい。


〈期待はずれにならなきゃいいがな〉


 今の俺は身体変化が使えるし。なんかすごいことになりそうじゃない?


〈期待しているところ悪いが、吾輩を支配していることによるステータス変化やジョブへの影響はないぞ〉


 え!?ないの!?


〈うむ。ない〉


 ま……まぁいいか……


 俺は冷めかけた残りのコーヒーをいっきに飲むとギルドの受付嬢を吟味ぎんみする。


 スフレさんはだめだ。人妻属性自体はよだれが出るのだが、それは2次元での話しだ。

 リアルで人妻に手を出してはならない。そんなことをしてしまっては謝罪会見が必要になる。


 おねいさん系の子がいないか見ているがなかなかいない。ある程度の年齢で定年とかにしてるんじゃないだろうな?


 仕方がないので20代前半だろう、黒髪でショートの受付嬢に声をかけよう。


「あ! 陽介さんじゃないですか、今日はどうしたんですか?」


 人妻スフレさんに声をかけられた。

 ここから無視するわけにもいかずスフレさんとジョブの話をする事にした。


「実はお金が貯まったのでジョブの鑑定をしてもらおうと思ってきたのですが」


「お一人ですか? 」


「はい。よつばはぐうたらなんで、まだ寝てます」


 今日の主役は俺だ、よつばじゃない。


「わかりました、それではさっそく奥へどうぞ。それから1,000Gとなります」


 俺は1,000Gを渡すと人妻スフレさんに連れられてココと一緒にギルドの奥の部屋へ入る。

 部屋の中は特に変わった事がない部屋だが、部屋の中央に俺ぐらいの大きさのある円錐の石がおいてある。


 でかいな。運ぶのに苦労しただろう。


 スフレさんは俺に待っているように言うと部屋を出ていく。

 それにしても大きな石だ。

 表面はきれいに磨かれており、触るとツルツルしそうだ。

 ちょっと触ってみようかな?


 オセ! これ知ってる?


〈うむ。人間が使うジョブ鑑定用の魔道具まどうぐだな。ステータスのように身体の能力を測るのではなく、触れたものの潜在能力せんざいのうりょくを測ることのできる道具だ〉


 潜在能力を測る、か。これは期待できる。


「待たせたのう」


 部屋にギルドマスター・ヨランダおばあちゃんが入ってきた。


「おばあちゃん! なんか久しぶりですね」


「そうだの。達者でいるようでなによりじゃな」


 ヨランダは挨拶もそこそこに鑑定についての説明を始める


「この魔道具でおぬしの潜在能力を探る。ジョブというものは別に就く必要はない。

 ただその者の能力を引き出すことができるので就くものが多いだけじゃ。ジョブに就いた場合にはその恩恵はなかなかに大きい。

 潜在意識にあるおぬしの可能性を表面に押し上げる効果があり、今までできなかったこともできるようになるのじゃ。

 ジョブは何種類か出るじゃろう。その中から選ぶと良い」


 それはすごい。

 俺の潜在能力はなんなんだろうな。

 何種類も出てきて選ぶのに困りまそうだ。

 戦闘行為ははっきりいって向いてないと思うが、案外無双かもしれない。

 過度かどな期待はしないつもりでいたが、心の奥底で期待してしまう。


「準備はいいか?」


「はい、お願いします」


「この石に両手で触れなさい」


 俺は言われたとおり両手で石に触れる。

 すこしひんやりとしていてすべすべだ。

 手のひらがピタリとくっつき吸い込まれるようだ。

 むちむちの太ももはこんな感触なのだろうか。


 おばあちゃんは詠唱をすると石に魔術をかける


「触れたる者の可能性を示せ!! 鑑定!!」


 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・



 何も起こらない。


「やはりな。おぬしに魔力がないのが原因じゃろう。お前の手にわしの手を合わせるぞ」


「やっぱりですか。もう一度お願いします」


 俺の手におばあちゃんの手が重なる。

 あたたかいおばあちゃんのお手手。

 なつかしい。


 おばあちゃんは再度詠唱を始める


「触れたる者の可能性を示せ!! 鑑定!!」


 身体の中身が石に吸い込まれるような感触を感じたかと思うと、石の表面になにやら文字が浮かび上がる!!


なんて書いてあるんだ!?


〈これは・・・・〉


お!? オセ読めるの!? なんて書いてあるの!!


〈適正はどうやら一つ、のようだ〉


たった一つ!?少ないな!?

で!?なんなの!? 勇者!? 賢者!? 英雄!? 


〈・・・・・〉


「おばあちゃん!! これなんて書いてあるのですか!?」

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