「初めての戦闘」

 クローディアがどんな魔術が使えるのかを確認する。

 けっこう魔術の種類はあるようで、使えるものは 


 風魔術(初級) 

風起こしウインド】周囲に風を起こす

風の刃ウインドスラッシュ】風&斬・魔術 風の刃を放つ 

風の衝撃ウインドボール】風&打撃・魔術 風を圧縮した球体を放つ 

風壁ウインドウォール】 風の障壁

風陣エアリアルレンジ】周囲に風属性魔術効果を引き上げる範囲を展開する 


風魔術(中級)

飛翔フライ】数センチだけ、短い間浮ける。


水魔術(初級)

水源アクア】魔力を水に変える。飲める。

水の刃アクアスラッシュ】水&斬魔術 水の刃を放つ

水壁アクアウォール】水の障壁


 初級魔術が8つに、中級が1つ。

 武器は木製の杖、杖の先には小さな宝石がついている。

 宝石は魔石らしい。魔術発動の補助効果があるらしいが安物のようだ。もっといい杖を持っていたようだが、「盗まれたゾ!! アーハッハッハッハ!!」らしい。アホだな。

 それから短いナイフを一本腰に差している。


 経験はあるのか聞いたら「ないゾ!!!! アハハハハハ!!!」といった笑い声と、よつばの冷たい視線をもらった。

 ぞくぞくしちゃう。

 俺は戦闘経験があるのか、という意味で聞いたのだがどうやら違う経験だと思ったようだ。ロリコンな上アホな子が好きでもない限りクローディアに欲情はしないだろう。


 ちなみに戦闘の経験はあるらしい。

 

 基本的にはどの魔術が魔物に効くのかわからないが、【風の刃ウインドスラッシュ】あたりがメイン攻撃になるんじゃないかと思う。

 状況に応じて使い分けてもらおう。


 俺達は明日に向けての作戦会議をし、いとしのママに報告をし、眠りについた。






この時俺達は。


いや、俺は。


この世界で生きるという事、戦闘行為の難しさを舐めていた。



==========



 翌日。


 教会で朝食を取った俺達はさっそく南の森に向う。

 俺によつば、そしてクローディア。

 念入りに荷物のチェックをするが、そもそも荷物をあまり持っていないので忘れようもない。


 ココは置いてきた。 はっきりいってこの戦いにはついてこれない。


 と思ったのだがついてきた。

 空気の読めない犬畜生だ。


 何を言ってもかわいく首をかしげるだけで話が通じない。

 餃子のほうが話が通じる。


 かと言って言葉を理解していないわけではなく、呼べば来るしご飯・散歩といった単語は理解しているし、喜怒哀楽も表現する。

 言葉はある程度分かっているくせに、自分の都合の良い単語だけに反応しているようにも思える。


 ココは小さいし、魔物も狙わないか?

 俺のすぐ隣をトコトコついてきている。

 

 結局俺によつば、クローディアにココ、3人と一匹で森へ向かうことになった。



===



 森までは特に魔物に会うこともなく快適に歩いてこれた。


 遠くに芋虫がでかくなったような生き物を見かけたがそれだけだ。

 街道を歩いているせいだろうか、魔物は少ない。

 

「さて、これから森に入る。慎重に行こう。とにかく先に魔物を見つけ、先制攻撃で終わらせよう」


「はい!」


「わらわに任せるとよいゾ!!」


 二人とも返事がいい。

 ココは木におしっこだ。

 縄張りを主張している。


 とにかく最初の1体。なるべく森の入り口付近で接敵せってきしたいがいるだろうか。

 俺達は慎重しんちょうに森の奥に進んでいく。

 森の中にも獣道けものみちはあり、なんとなく歩ける。


 警戒心を全開にしながら歩くため疲労も感じるがしばらく歩くと・・・・・・いた。


 少し森が開けた岩陰に、コーンウルフが寝そべっているのが見える。

 見つかるよりも先に見つけることができた。

 運がいいな。


「よつば、クローディア。 前」


 小声で二人に合図を出す。

 二人とも確認したようでよつばは弓に矢をつがえる。


「よつばは弓、クローディアは魔術で先制しよう」


 二人は無言で頷くとよつばは弓を引き絞りクローディアは詠唱を始める


「風よ風よ、わらわの魔力を刃に変えよ、【風の刃ウインドスラッシュ】!! 」


 クローディアのかざした杖の先から風の刃が放たれコーンウルフへ一直前に襲い掛かる。

 周りの枝を切り裂きながらコーンウルフの脇腹に着弾し血しぶきが舞う。


「ガァ!! 」


 コーンウルフは悲鳴をあげたものの、風の刃は切断には至らなかった。 

 深そうに見える傷跡からは真っ赤な血が噴き出している。


「よつば!」


「ハイ!!」


 気合いと共に放たれたよつばの矢はコーンウルフの背中に刺さる。


「二人とも追撃! 前に出る!」


 よつば達を背後に隠すように槍を構え前に出る。

 威嚇いかくするように牙を剥き出しにしたコーンウルフの眼光がんこうは鋭く、恐怖に足がすくむ。


 行くべきか!? 待つ!? チャンスなのか?

 こいつはもう動きは鈍いよな!?


 睨み合いが続く。


「いくゾ陽介!! 【風の刃ウインドスラッシュ】!!」 


 こちらを睨みつけるコーンウルフだがクローディアの魔術が見えているのか、横に跳躍ちょうやくしかわす。


 魔術のタイミングに槍を合わせ、一突き入れたかったのだがタイミングが遅れた。以前にらみ合ったままだ。


 牙を剥いたコーンウルフの形相ぎょうそう威圧いあつされ思うように体が動かない。


「先輩! いきます!【光の矢ライトアロー】!! 」


 よつばは詠唱を終えると、手から光の矢を放つ!

 【光の矢ライトアロー】はコーンウルフの前足を吹き飛ばす!


 もたもたしてる場合じゃない!!

 俺は気合を入れた掛け声と共に一歩踏み込むとすかさず槍に力を込め突き出す。


 槍は胸部きょうぶへ突き刺さり、コーンウルフの体から力が抜けるのを手のひらに感じる。

 ・・・・・・いやな感触だ。


「よし! 一体目! 」


 俺は嫌な感触を振り払うように声をかけるとさっそく角の回収に入る。

 回収用の短剣を取り出すとよつばと一緒に解体する。


 たった一戦で疲労感ひろうかんがすごい。

 それは全員同じようで額に汗をかいている。

 何にせよ初勝利だ。


 【解体】スキル持ちのよつばが解体をするとすごくスムーズに解体される。


 手に入れた角をクローディアの水魔術で洗いリュックに入れる。

 現状確認をする。


「よつば、クローディア、体調、魔力はどうだ? まだいけそう? 」


「はい! まだいけます! 」


「わらわはまだまだいけるゾ。あと1万体は余裕じゃ」


 少し休んだ俺たちは次の魔物を探しに森の探索たんさくを進める。

 通りやすい場所を選んで歩き進んでいるため真っ直ぐは歩いていない。

 迷わないように気を付けないとな。


 しばらく歩くと



「ガルルルルルゥ」



 目の前に低くうなコーンウルフがいる


「よつば! クローディア! 右手前方にコーンウルフ!」


 とっさに槍を構えるもコーンウルフのほうが速い。

 飛び掛かってきたコーンウルフの牙をなんとか槍の持ち手で押さえるが角が頬をかすめ皮膚がえぐられ、その勢いのまま押し倒されてしまった。



「先輩!!!」

「くそが!!」



 押し倒されながらも腹に蹴りをいれるが離れる気配がない。

 目の前に生臭いコーンウルフの牙が迫る。

 爪が俺の脇腹に食い込む。

 クローディアの詠唱が聞こえる。


「【風の衝撃ウインドボール】!! 」


 クローディアの魔術で俺の目前にいたコーンウルフが弾き飛ばされる。

 致命傷ちめいしょうではないようだが効いているようだ。



「ナイスクローディア!!」


 間を置かずよつばの矢が放たれてコーンウルフの脇腹に突き刺さる。


 抉られた頬、爪が食い込んだ脇腹に激痛を感じるが気にしてる場合じゃない。

 俺は体制を整えるとコーンウルフと対峙たいじる。



「ガアア!!」



 コーンウルフの突進と俺の槍が交差し、槍がコーンウルフを掠めコーンウルフの牙は運良く俺に届かなかった。

 コーンウルフはクローディアの魔術で骨でも折ったのか、形勢不利けいせいふりとみて森の中へ消えていく。


「ハァ、ハァ、ハァ」

「先輩!!」



 泣きそうな顔でよつばが駆け寄ってくる。

 顔面蒼白がんめんそうはくだ。



「大丈夫、生きてるから」


「あたしはよつば!よつばの名において願う!あたしの魔力を使い傷を癒して!【治療ヒール】」



 よつばは俺の体に触れると治療魔術を唱える。

 なにかぬるい風のようなものが俺にまとわりついてくるのがわかる。

 これが治療魔術か?うーん?

 体に取り込むようにぬるい風を受け入れると頬の傷も脇腹の爪痕つめあともきれいに治療される。



「すごいな治療魔術は」

「せんぱぁいっ!!」



 抱きついて!! こない。

 泣きながら抱きついてきておっぱいワンチャンもめる場面やろここは。

 瞳に涙がめいいっぱい溜まっており零れ落ちる寸前だ。

 飛びついてこいやぁ!


「よつば?」


 わかってるよ、ほら。といった感じで両手を広げてやる。

 今の俺はイケてるメンズ、そう、イケメンだ。

 どさくさに紛れて乳を揉みたいイケメンだ。


 よつばは俺の体に手を添えたまま泣き笑いの笑顔を見せる。


 あれ・・・・? こいつ・・・・ちょっとかわいいな。

 おねいさん属性じゃないくせになかなかキュンキュンさせるじゃねーか・・・



「わらわの判断よかっただろう?よかっただろう? 【風の刃ウインドスラッシュ】だと陽介も一緒に切り刻むことになりそうだと判断して【風の衝撃ウインドボール】にしたんじゃゾ?」



クローディアは褒めて欲しいらしい。



「な?な? 本当は陽介ごと切り刻んてやってもよかったのだが。 よつばが泣くしな? わらわ天才じゃろ? な? 天才か? 」



 一応俺の事を考えてくれていたのか。

 仕方ないから誉めてやると


「街に戻ったら全住民に『クローディアは天才だ! クローディア様のおかげで命を救われた!!』とふれまわる許可を与えるゾ!!」


 なんか許可を貰えた。

 いらん許可だ。


 それにしても先制攻撃ができないとこうまでも違うか。 

 今回はコーンウルフが退いてくれたからよかったものの、このまま続けていたらひどいことになっていたように思う。


 ママが言っていたな。

 とにかく不意をついて先制攻撃、敵の攻撃が届かない位置をキープして攻め続けろ、と。


 先に敵を発見できる能力を持っている人材が欲しい。

 索敵さくてきっていうのかな。そんなスキルもきっとあるだろう。

 ココはできないのか? 犬なんだし鼻で見つけろよな。

 ココはすました顔で俺たちを見ながら縄張り主張行為をしている。

 もうおしっこ出てないけどな。エアーおしっこだ。


 午前中に街を出てきたがすでに日は登りきっている。

 午後1時くらいだろうか。

 慎重しんちょうに森を歩いているので思ったより時間が経っている。


「どうする?」


「そろそろ戻りながらでいいと思います」


「そうじゃな。帰りがけにいたら討伐すればいいんではないか?」


 その意見に賛成だ。 

 思った以上に金にはならなかったがしょうがない。

 金より命だ。


 警戒けいかいしつつ来た道を戻ることにする。



「えっと、あっちから来たよな?」


 俺は左手を指す


「え?あっちですよ? 」


 よつばは右手を指した。


「んん? こっちからじゃゾ?」 


 クローディアは自分の後ろ方向を指す。

 沈黙ちんもくの時間が流れる・・・・・・。



「迷った!? 」


「え!? え!? あたしのほうで会ってますよ!」


「アハハハ!!! わからんゾ!! 」


 まじかよ!! やばくないかこれ!?

 死の予感がビンビンにするんですけど!!


 結局しょうがないのでよつばを信じ、道を決める。

 不安なのか、誰も口をきかない。

  

 方向、合ってるよな・・・




 しばらく歩くと見おぼえがある、一体目のコーンウルフを討伐した場所に出た。


「ほらぁ!! あたしすごい!! 」


 これも【聖神の寵愛ちょうあい】効果か? 

 よく道わかったな。


 それはいいんだが・・・・


「いますね。オオカミちゃん・・・・」


 俺たちが討伐した1体目をむさぼるコーンウルフがいる。

 回り道したいところだが、また道がわからなくなることも避けたい。

 やるしか・・・・ないか。


「よつば。クローディア、準備」


 よつばは矢を引き絞りクローディアは詠唱を始める。


「着弾と同時に前にでる。 放て! 」



 よつばの矢とクローディアの【風の刃ウインドスラッシュ】がコーンウルフ目掛けて放たれ着弾。コーンウルフの脇腹が裂かれ矢が刺さりダメージを与える。

 俺はよつば達を隠すように前にでる。



「2撃目準備!」


「アオオオオオオーーーン!!」


 雄たけび!?

 背筋に悪寒が走る。

 まずい予感しかしない。

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