ありえない事態
俺は槍を構えるとコーンウルフに踊りかかる。
速く終わらせないとまずい!! これで決める!!
突き出した槍は見事に胴体を貫いたがまだ倒せない。
もがくコーンウルフから槍が抜けてしまう。
なんて生命力だ
よつばの矢がコーンウルフの頭部に命中し、二度目の槍を突き入れるとコーンウルフは活動を停止した。
「よつば!! 後ろじゃ!!! コーンウルフ2体!! 」
よつばの後ろを振り向くと駆け寄ってくるコーンウルフが2体も見える。
コーンウルフは基本単独行動じゃねーのかよ!!
まずい! 2体とも狙いはよつばだ。
矢を放ったばかりのよつばは体制を整えられていない。
俺はよつばの前に出て立ち塞がる。
コーンウルフ達は既に目前まで迫っており、走る勢いそのままに俺に飛びついてくる。
1体は間に槍を挟むことで噛まれるのをなんとか回避できたものの、もう1体が右腕に食らいつく。
焼けるような感触と痛み、腕を
「【
クローディアの魔術は俺に
あれだけじゃ倒せない!
「【
よつばが俺の横から、俺に噛みついているコーンウルフの頭にゼロ距離で魔術を放つ!
噛みついていたコーンウルフの頭を吹き飛ばし一撃で絶命させる。
魔術の威力が高かったような気がするが、今はそれどころじゃない。
噛まれた右腕の感覚が薄い。
「先輩! 治療します!」
「先にもう1体だ!」
「【
クローディアの風の
「ナイスだクローディアァ!!」
「この風の障壁は前方だけじゃ! 回り込まれるゾ!!」
コーンウルフは聞こえたのか、仲間の
右腕の感覚が無くなっていく。
俺は左手一本で槍を構える。
正直、対応できる気がしない。
回り込んできたコーンウルフの前に立ち構える。
「ワン!!!! 」
ココが俺の前に出て今まで聞いたことのないような最大限のボリュームで吠える
「ココ!余計な事するな!」
コーンウルフはカンにさわったのか
「キャンッ!!」
くそ!! 追撃をさせまいと槍を突き出すがあっさりとかわされる。
「【
「【
二人から魔術が放たれ、風の刃が背中を切り裂き光の矢は胸部に突き刺さる。
二人とも魔力は大丈夫か!?
特にクローディアの魔術使用回数が多い。
魔術が使えなくなったクローディアなんてロリコン受けする単なるキッズだ。
腕力も胸もないため食うところなんてないだろうが、興奮したコーンウルフはそれでも喰らうだろう。
それにしてもまずい。
体温が下がっているのを感じる。
血を流し過ぎてるのか?
「大丈夫!? 助っ人に入るよ!! 」
動きやすい恰好をした赤毛の女、アンドラが両手に短刀を持ちコーンウルフに接近する。
「ハアアッ!!」
掛け声と共に
「助かりました!!アンドラさん!! 」
「先輩!! 腕!! 」
よつばに治療魔術をかけてもらい腕の感覚が戻ってくる。
けっこう派手に噛みつかれたが皮膚も元通りで腕も指も動かすことができた。
このまま動かなくなってしまうのではないかと内心心配していたので
「はぁ、はぁ、 先輩、よかった」
魔力を使いすぎているのか、よつばの息が荒い。
「大丈夫か? 魔力使いすぎか?」
「治療魔術は魔力消費が激しいって聞くよ。怪我が大きければ大きいほど。よつばちゃん無理してない?」
「だ、大丈夫です。はぁ、はぁ、次はココちゃんの治療します。それが終わったら少し休みたいかな」
ココ!! すっかり忘れてた。
ココはよつばに治療魔術をかけてもらっているが効果が出ていない。
少し警戒しているようだ。
魔力不足か?
「ココ! 大丈夫だ、よつばは怖くない怖くないよー。ココを治そうとしてくれてるんだよー」
俺の声掛けが効いたのかココが元気になってきた。
「なんか先輩に声かけてもらったら治療魔術が効いてココちゃん元気になりましたね。ずるいです!!」
そうか? 気持ちの問題だろ。
俺たちはコーンウルフを解体するとさっそく休憩することにした。
周りを警戒できるように少し開けた場所を探したいところだ。
「アンドラさん、本当にありがとうございました。 アンドラさんもコーンウルフ狙いでしたか?」
「そうそう! 一緒に来たメンバーとはぐれちゃってさ、はぐれたら小屋で待ち合わせにしてたからそこにいるかな」
「じゃあそこに行きませんか?俺達も休憩したくて。 ここから近いですか?」
「わりと近いよ、着いてきてー それから、また敬語になってるよ!」
そうだった、助けられた恩人にため口って言うのもなんかな。
まぁ今度からは気をつけよう。
「そこの女!! わらわの名は【クローディア・ボトルフィット!】荒ぶる
あぁ!? クローディアの紹介忘れてた!!
自分から自己紹介始めたよこの子!
またコーンウルフ来たら怖いからでかい声やめて!!
「げ、元気な子だね!? 私はアンドラだよ、よろしくね!!」
「よろしくしてやろう! 良いタイミングで
ふんぞり返りながら偉そうに言い放っているが、アンドラは気を悪くした様子はない。
できた女や。
自己紹介を終えるとさっそく小屋に向けて歩きだした。
アンドラは【
索敵レベルは低いため範囲はそれほど大きくないものの前後左右20~30メートルの気配がわかるらしい。
安全に小屋につけそうだ。
しばらく歩くと見おぼえのある小屋についた。
扉にコーンウルフの角の跡がある。
よつばが騒ぐからコーンウルフが突っ込んできた跡だ。
なつかしい場所だ。
さっそく俺たちは中に入るがまだ誰も来ていないようだ。
「どうやらアンドラのお仲間はまだ来てないね」
「そうね。気配も感じないし、心配だけどまずは休もうか」
俺たちはリュックから食料を取り出す。
冒険者が良く使っているという干し肉、乾燥チーズ、保存が効くという固いパンだ。アンドラも自分で同じような食糧を出している。
「飲み物、用意するよ。私も【
「悪いねアンドラ、ありがとう」
アンドラが用意してくれている間に各自装備品のチェックや少し体操をして緊張しきった体をほぐす。
「二人とも、魔力はどう?」
「食べたら回復早まりそうですね! はやく食べましょう!」
「食事と休憩は魔力の回復に役立つゾ。食べるゾ!」
アンドラが準備してくれた水、なにかが加えてあるな、少し酸味があっておいしい。レモン水みたいなもんか。
「なんかちょっとおいしい水だね」
「だろ? リモンって果実を絞ったのさ。これ好きなんだよねー」
俺たちは反省会をしながら食事を続けた。
それにしても眠い。
本当に、本当に疲れた。
初めての戦闘は牽制くらいしかできてない。
俺はこの世界で生きていくことができるのだろうか?
周りを見るとどうやらよつばもクローディアも眠そうだ。
ココは既に日向ぼっこしながら横になっている。
小屋の中の気温がちょうどいい。
「あー、なんか俺ちょっと眠いわ」
「先輩もですか? あたしも魔力の使いすぎかな・・・・」
「わらわもなんだか眠いのぉ・・・・」
「えー!? 仕方ないなぁ、私もここで待ち合わせだし、少し寝ててもいいよ」
アンドラの提案に俺たちは甘えることにした。
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目が覚めると身体が動かない!?
「え!? え!? ファ!? 」
どういうことだ!?
「よつば!? クローディア!? アンドラ!? 」
え!? 俺は!? 何してたっけ!?
ここどこだ!?
思い出せ、思い出すんだ俺。
今日は何してた!? そうだ、森だ、よつば達と森に行ったんだ、
森の小屋にいたはずだ、なのにここはどこだ?
後ろ手に縛られて固く冷たい床に転がされてる。
日の光はない。魔術の灯りなのか、天井に明かりが灯っている。
どこかの・・・・地下? 窓がある様子はないが、それにしては広い。
学校の体育館ぐらいの広さがある地下室だ。
洞窟か?
「誰かーー!! 誰かいませんかー!! 」
意味がわからない。
いったい何があったんだ?
「うるさい! 黙ってろ!」
俺の声を聞きつけたのか、部屋の奥から黒紫のローブ姿でフードを被った者達が見えるだけで5名、近寄ってくる。
俺に声をかけたのは先頭の男か。
ここは下手にいこう・・・。
「あのー・・・・・・ ここはどこでしょうか? 私と一緒にいた連中知りませんか?」
「・・・・・・・」
「あのー・・・・・・?」
「・・・・・・」
ダメだ、まったく反応してくれない。
性別もわからない奴らは会話をしているようだが小さくて聞こえない。
あれ、待てよ?
もしかして俺の言葉通じてない?
よつばがいないからか?
よつばどこ行った?
「・・・・・・ キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」
「・・・・・・ 黙ってろ」
言葉通じるじゃねーか。
そりゃそうか、さっきも黙ってろって言われたな。
手も足も縛られており何もできそうにない。
こんな状況になるだなんて人生であるなんて思ってなかった。
平和な日本では考えられないことだ。
さらに黒紫ローブのやつらが増える。
ざっと見えるだけで20人ぐらいはいるな。
ローブのせいで判別ができないが、一人明らかに目立つやつがおり、ローブの上からじゃらじゃらとした宝石の首飾りをしている。
ローブの下につけろよな・・・・
それにしてもこいつら何をするつもりだ?
やつらは俺を囲み始める。
動けない俺になにするつもりだ!?
っく!! 殺せ!! って言いたくなるような事する気か!?
俺男だぞ!? わかってる!? ホモ!?
ケツ狙われてる!?
もうよつば達にはしたの!?
どんなことしたの!?
エロドージンみたいな!?
その動画ください!!
「ちょっと!! すいません!! せめて説明とかないの!? ずっと騒ぎ続けるぞ!!! うああ!!! 」
「うるさい!!!」
「せめて説明してくれませんか!?」
首飾りローブの野郎はめんどくさそうにしているが、俺が大きく深呼吸しさらに騒ぎ出そうとすると
「お前は
心底面倒くさそうに答える。
「・・・・生贄? 貢物? なに? 悪魔召喚でもするの?」
「話が早い。 準備はできている。 悪魔なんぞ下等なものではないがな」
あ、悪魔召喚!?
この世界は悪魔までいるのか!?
神がいるようだし、悪魔もいるか!?
そういうもの!?
けど悪魔じゃない?
何を召喚するつもりだ!?
「待って待って! 待ってください!! 他の連中は!? せめてそれだけ! 」
めんどくさそうに首かざりローブ野郎は奥を指す。
そこには倒れているよつばとクローディアの姿があった。
アンドラの姿はない。
特に縛られてもおらず、ただ寝ているようだが・・・・
「死んでないですよね!?」
「
どうなるの!?
やっぱりエロドージンみたいな!?
「話は終わりだ。 各自持ち場につけ!! やるぞ!! 」
ローブのやつらは俺を中心に距離を取り囲む。
何を言っているかはわからいが、なにやら魔術らしき詠唱をしているようだ。
気づかなかったが俺の転がってる地面にはでかい魔法陣のようなものが書いてある。
ローブのやつらの詠唱に反応したのか、魔法陣が血のような真っ赤な色で浮かび上がる。
体中から嫌な汗が噴き出す。
まずい!! 何がまずいかわかりゃしないがまずいっ!!
「やめて!? やめませんか!? そんなことしても誰も喜ばないよ!?」
詠唱は続く
「何が欲しい!? 金か!? 身体か!? 待って!! お尻以外なら何でもしますから!!」
詠唱は続く
「ゴラァ!! クソガキども!!! ケツアナに槍ぶっさして口から引き抜いてやんぞゴラァ!!」
詠唱は続く
「ごめんね? 今までの全部嘘です。ほんとすいません」
詠唱は続く
これはだめだ、手首を引きちぎってでも逃げるしかない!
かなりきつく縛られているせいで手も足もまったく動く気配がない。
クソがっ!!
詠唱は終わりに近づいているのか、魔法陣から俺でも感じるくらいの
だめだ! 何もできない!!
「よつば!! クローディア!! 起きて!! 先輩がピンチ!!先輩がピンチだから!!!
アンドラァ!!! どこいるの!? ママぁ!!!! 」
最後の詠唱なのか、ローブのやつらの声がいっそうでかくなる。
「「「
魔神召喚!?
バカでかい音が空間内に響き渡る。
ピアノ!? ファンファーレ!?
魔法陣周辺から悪魔の行進曲とでも言うのだろうか?
不気味な音色が響き渡り黄金色の光が立ち上がる!!
「来る!! 来るぞ!! 」
どす黒い影が俺に迫る。
来る!!!
「ワン!! 」
犬!? ココだ!!
ココは俺を守るように黒い何かに向かって
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