「オイ! そこの童貞!!」

「え!?」


 扉を蹴り開ける音よりもでかく高い声が耳を貫く


 俺は「童貞!!」の単語に過剰かじょうに反応してしまい振りむいてしまった。


 そこには真っ赤な色の髪を短いツインテールにした勝気そうな少女が腰に手を当ててふんぞり返っていた。

 ギルド内の反応を楽しんでいるのだろう。口元がにやついている。


 この少女は魔術を使うのだろうか。

 右手には木製の杖を持ち腰くらいまでの短いローブを羽織っているが、中身はビキニに短パンだ。

 どういう組み合わせだよ・・・・・・

 この世界の女子は基本露出が高めだがこれはアウトだろ。


 こんなアホもヘソも丸出しの子には関わっちゃいけない、俺の中でアラームが鳴り響く。


「童貞先輩、ご指名ですよ? 」


「やめなさい!! 目を合わせちゃだめ!! 」


 アホ丸出し子はターゲットを俺と定めたらしい。

 俺のほうに一直線に向かってくる。

 途中には椅子もあったのだがそんなものは目に入っていないようだ。

 歩く途中でゴツゴツすねに椅子が当たっているもんだから少し赤くなっている。

 ちょっと「イテッ!」って顔してんじゃねーか・・・・・・

 アホ丸出し子は俺に ビシィィィィ!! と効果音が出そうな勢いで指を刺すと


「そこの童貞坊や! わらわの下僕げぼくとなる許可を与えようゾ!! 」


「・・・・・・・・・」


 何を言い出すんだこいつは。

 ナンパか? この世界のナンパか? 随分ずいぶんと攻撃的なナンパだ。

 俺は目線をそらした。

 アホ丸出し子にかまっている暇はない。

 これから夕食の準備をしなくっちゃ。

 ママが半裸で待ってくれているはずだ。


「わらわの名は【クローディア・ボトルフィット!】荒ぶる暴風を手なずける大魔術師であるゾ!! アハハハハハハハー!!!! 」


「・・・・・・・・・・・・」


「見慣れぬ恰好をしておるが駆け出しの童貞冒険者だろう? 武器はどうした? 坊やも魔術師であるか? 」


「・・・・・・」


 こっちは無言でいるのに、ものすごく嬉しそうに腕を組みながらうなずいている。


「わらわの美貌びぼうに声も出せぬか。童貞には刺激が強すぎてしまったな。アハハハハハー!!!! 」


 ふんぞり返って笑っている隙に俺はよつばの手を取ると出口に向かって駆け出した。

 アホ丸出し子のアホ笑いはまだ続いており俺がいないことに気付いていないようだ。


 今日はもうお家に帰ろう。

 そして金輪際こんりんざい二度とギルドには近づかないでおこう。

 登録料はおしいが俺の冒険者生活はここで終わりだ。

 

「よつば・・・・・・ 俺冒険者やめようと思う・・・・・・」


 よつばは無言で俺の肩に手を置いた。

 その手の心地よい重みから俺をいたわる気持ちが伝わってくる。

 よつばは少しだけ微笑み、やさしい眼差しを向けてくる。


「先輩・・・・・・」


「よつば・・・・・・」


 視線が絡み合い無言の時間が流れる。

 言葉はないがよつばのいたわりの気持ちと愛情が伝わってくる。

 優しい世界。

 よつばは俺の手を取ると


「ダメです!! 働いてください!! あんなチビッ子クラブにちょっと童貞扱いされたくらいでへこんでる場合じゃないですよ!! 」


「チビッ子クラブ!? 」


「ほら!! ギルドいきますよ!! さっきのお掃除依頼受けますよ!! 」


「ひ、一人で行って来て!? 待ってるから!! ずっと待ってるから!! 」


「もう!! しょうがないなぁ!! だから童貞なんですよ!! ちょっと待っててください!! 」


 一言余計じゃない!?


 よつばはぷりぷり怒りながら来た道を戻っていく。


 君子危くんしあやうきに近寄らず。

 危ないとわかっている場所には近づいちゃだめだ。

 俺は賢いのだ。


 俺はのんびりと待つことにした。

 妄想の中でママを凌辱りょうじょくしながら待つ。

 しばらく待っていたもののなかなかよつばが帰ってこない。

 もう3回戦までママと濃厚なひと時を過ごたところだ。


 どうしよう・・・・・・


 ギルドに行ってみるか? アホ丸出し子いたらやだな・・・・・・


 とりあえずメールしてみるか、と思ったものの携帯電話を持っていない。

 なんて不便な世界だ。


 そんなことを考えていたらよつばが戻ってきた。


「せんぱーい!! 遅くなってすいません!! 」


「ぜんぜーん! 今来たところ~」


 よつばは俺の返しをスルーすると


「お掃除の依頼! 受けることができましたー! 色々説明を聞いたりジョブについて聞いていたら時間かかっちゃいました! 」


 あ! なるほど、ジョブか! すっかり忘れてた。


「ジョブの話も聞きたいんだけど、アホ丸出し子いた? 」


「いましたけど、どっかのパーティに声を掛けられたと思ったら断ってました。その後すぐ出て行っちゃいました」


 そっか、もういないのか。


「ジョブってなんだった? 」


「えっと、ジョブなんですが・・・・・・



 よつばの話をまとめると、この世界には【ジョブ】というものがある。

 【ジョブ】というものはその人の適正によって左右される。就けるもの・就けないものがある。

 【ジョブ】に就く必要は必ずしもないが、就くことができるなら就いていたほうがステータス補正・固定スキルの修得ができるようになるから損はない、との事だ。

 基本職 上級職 ユニーク職 と大きく三つに分けることができ、戦闘向けの職 非戦闘向けの職とに分かれる。


 基本職には 

 物理型 戦士 闘士 スカウト 弓術士 等 

 魔法型 魔術師 治療術師 召喚師 呪術師 付与術師 等

 非戦闘向けだと 商人 詩人 鍛冶師 調剤師 等

  

 よつばは覚えきれていないようだがかなりあるようだ。


 上級職やユニーク職はなりたくてなれるものではなく、とても珍しいらしい。


 スキルについて。


 基本職、例えば 【戦士】。

 【筋力上昇】(筋力を上げる)【堅守】(身体の頑丈さを上げる)等、自己能力を上げる事を中心としたスキルを修得することができる。

 どれだけ能力が上がるのかは不明だが無いよりは良さそうだ。  


 【弓術士】

【命中】(命中力を上げる)、そして魔術を使える者は矢に魔力を込めて放つことができる【魔力矢】や、矢を手元に戻すことができる【矢戻し】等があるみたいだ。


 かなり様々な【ジョブ】があるので自分の適性に合うものに就くのが一般的。

 ジョブの適性検査・ジョブ付与も冒険者ギルドでできるらしい。


 もちろん【ジョブ】に就くのもお金がかかる。

 適性の検査に1,000G 就くために 1,000G もかかる。


 けっこう高い・・・・・・

 ぼったくりだな。


 それを聞いてギルドに行くのはやめた。

 行っても無駄だしな。お金ないし。


「あたしは魔力が高いみたいですし、魔術師ですかね!? ドッカンドッカンですかね!? 」


「いいんじゃない? 俺にはドッカンしないでね?」


「いやらしい顔してたらドカンッですよ」


「毎日火だるまじゃねーか・・・・」


 よつばは楽しそうに俺の顔に火の玉でも投げるようなそぶりを繰り返している。

 それにしても・・・・・・


 うやらましいいいいい!!!


 魔力いいな!! ほんと欲しい!! 魔力うううう!!!

 ぐぬぬぬぬ・・・・・・

 考えても仕方ない・・・・・・けど考えちゃう!!

 うらやましいい!!


「適正の検査にすらお金がかかるのならギルドに行ってもしょうがない。街中を探索しながら教会へ帰ろうか」


「そうですね! はやく帰ってママのお手伝いをしましょ」


 俺達は教会までの帰りながら目についた看板のお店を見学していく。


 見るもの全てが目新しくて年甲斐もなく胸が高鳴りっぱなしだ。

 いろんなお店があったが、杖の看板の店は「魔法屋」だった。

 魔法は誰から教わるか、もしくは魔法屋で買って指導を受けて覚えるらしい。

 けっこう値段が高い。

 初級火魔術【ファイアボール】で3,000Gだ。

 治療魔術は初級の【ヒール】で10,000Gもする。

 貴重なのだろう。 


 他にも薬屋、帽子屋、洋服屋や雑貨屋もあった。

 俺達が教会につく頃にはすっかり日も落ちかけていた。

 教会に着くと俺の信者たち、子供達3人がお出迎えしてくれた。


「先生! 今日の夕食は白スープとパンだよ!」

「先生!! どこ行ってきたの!」

「先生!!! デート!?」


 適当に相手をしながらママの手伝いに向かう。

 今日の食事は白いスープによつばサイズのパンと野菜サラダだ。

 子供たちにこのパンはよつばサイズであることを教えておいた。

 大切な事だからな。


 夕食のよつばパンを食べながらママにジョブについて聞いてみた。


 ママは【ミネルウァの恩恵】を受けて【プリースト】となったらしい。

 【プリースト】の補正は、光・治療魔術の効果上昇・範囲上昇・消費魔力軽減・修得能力上昇、加えて結界魔術と魔力感知が使えるらしい。


 正直魔力についてよくわかってないし、ふ~ん。だが。

 いいことなんだろう。

 ママが足を組みなおす度にスリットからの生足が熱い。

 これもいいことだ。


 それよりも子供達とたわむれていたよつばからの視線が突き刺さる。

 子供達はパンを胸に当ててよつばをからかっている。

 ミーリアだけはよつばをフォローしようとしているがかける言葉がなさそうだ。


 何はともあれお金だ。お金がないとなにもできない。

 あれ、そういえば依頼はどうなってるんだ?


「よつば、そういえば掃除の依頼はどうなってるの? 」


「先輩? 私今、怒ってますよ? よつばパンって、なんですか? 」


「よつばの乳サイズのパン、ってことだよ。言わせんなよ恥ずかしい」


「見たことないくせに! もっとありますし!! 」


 気のせいか怒りに震えるよつばの背後から魔力のようなものが湧き出しているように感じる。


「よつばさんの魔力が上昇しているんですが・・・・・ 」


 ママは冷や汗をかきながらそんなことを言う。


 あ、やっぱり!? 恐ろしい子・・・・・・


「ごめんなさい、ほんとごめんなさい。子供達とコミュニケーションがとりたくて。よつばにも子供達と触れ合って欲しくてネタにしちゃったんだ。ごめんね? 」


「う・・・・・・ うーん。そういうことなら・・・・・・」


 ちょろい。 

 乳くらい揉んでもごまかせそうだな。

 今度試してみよう。


「依頼はですね、明日のお昼過ぎに依頼者の家に行って掃除です!! 場所も聞いてますからお昼食べたらいきますよ!! 」


「はい、ついて行きます!! 」


 確か依頼内容はメメットさんの家の掃除、報酬は200Gだったか。安いけどコツコツ稼ごう。

 それにしてもこんなにチマチマ稼いでる場合じゃないな。

 なんかいい手はないものか・・・・・・

 何か商売を始める? また薬草取ってきて売る? よつばに治療魔術を覚えてもらって治療でお金を取るとか?

 何がいいんだろうな、いい案思いつかないな。

 悩んでいると


「ワン!! 」


 犬のような鳴き声が食堂に響いた。


 あれ? 教会に犬いたっけ? そもそもこの世界で犬らしいもの見てないな。ペットという概念はあるのか?

 食堂にいた全員の注目が声の主に集まる。

 そこには一匹の・・・・・・



 犬がいた。



 小型犬。色は茶色。たしか茶色はレッドっていうんだっけか。

 毛が少しもっこもこしててとってもラブリーキュート。

 小さなお耳はペタンと横に垂れており愛くるしさが全開だ。

 完全にトイプードルやん。


「うわあ! トイプーちゃんだ!! 」 


 よつばは嬉しそうに犬に駆け寄るが、犬は警戒しているようだ。

 よつばをみておびえて低く唸る。


「ママ、犬飼ってたんですか? 」


 俺は素朴な疑問をママにぶつけた。


「いえ、犬は飼ってませんよ、というか初めてみる種類の犬ですね」


 ママは興味深そうに犬を眺めている。

 この世界にはトイプードルはいないのか。

 愛玩用あいがんように品種改良されてる犬種だろうし、いないもの納得か。

 よつばは怯えられているのがショックだったのか少し落ち込んでいるようだ。

 犬は俺と目が合うとなぜか寄ってきて小さく鳴いている。


「とりあえず、ご飯あげてもいいですか? 」


「は、はい。それはいいのですが。この犬、ちょっと不思議ですね」


 俺はパンを細かくほぐし、白スープに入れたものを犬の前に差し出してやる。

 よっぽど腹をすかしていたのか、むしゃぶるように食いついている。

 とんでもなくかわいい。

 どっから来たんだこいつは。


「不思議なんですか? とんでもなくかわいいだけに見えますが」


「この犬なんですが、魔力がすごく小さい・・・・・・うーん、無いような気がしますね」


 え!? 俺と同じ!?

 ってことはこいつは日本からきたのか?それともさらに別世界?

 この世界の生物は全て多かれ少なかれ魔力を必ず持っているという話だ。

 俺はその魔力がないためギルドで登録すら苦労した。

 この犬も魔力がないってことはこの世界産ではないってことだろう。

 どうやってここにきた?


「魔力のない犬ですか。私も魔力がないようなんですが、なんか関係ありますか? 」


「陽介さんもやっぱり魔力がなかったのですね。 すごく少ないだけだと思ってましたが、まさかないとは・・・どうやって生きてるんでしょうね・・・」


「生きてますね・・・・・・俺」


「魔力がないだけの普通の人、ってことでしょうね。よつばさんには魔力があるのに陽介さんにはない、どうしてでしょうね」

 

 わからん。聖神の寵愛のせいか?

 ご飯を食べ終わった犬は俺の足元から離れようとしない。

 なんで俺なんだ? 

 とりあえず俺に犬を飼う余裕なんてない。

 教会で飼ってもらうことになりそうだが・・・・・・

 いいのか?

 こういう時は考えるのを丸投げするのに限る。


「ママ、この犬どうしましょう・・・」


「野良犬を見つける度に全てを受け入れることはできません。かといって陽介さんにとてもなついているようですし、陽介さんが面倒をみるなら自由にしたらいいと思います」


「なるほど、わかりました。 捨ててきます」


「ちょっと先輩!! といぷーちゃん捨てるつもりですか!? こんなにかわいいのに!? 」


「犬飼う余裕なんてうちにはありません!! よつばちゃんを食べさせるだけで精一杯なんです! 」


「私のご飯あげますから! といぷーちゃん捨てたら魔物に食べれちゃいますよ!? 」


「この世は弱肉強食なのです。 自然は厳しいのです」


「おに!! スケベ!! 」


 よつばは牙を剥き出しにして威嚇いかくするように俺を見ている。

 教会の子供達も犬を捨てることに反対のようだ。

 犬をかばうように俺の前に立ちふさがる。


「教会で面倒みてもらおう? ママにちゃんと言えるか?」


「いえます!! 」


 ママをチラっと見ると困ったような顔をしているが犬のかわいさに心が揺れているようだ。

 もう一押し。


「よし、よつば。んじゃ名前を考えようか」


「【マカロン】とか【シフォン】とかどうですか? かあいいですよー 」


 スイーツ脳だなこいつ。即答で菓子の名前が出てきたぞ。そんな甘ったるい名前じゃだめだ。

 この犬はこれから魔力もなく、過酷かこくなこの世界を生き抜いていかねばならぬのだ。

 う~ん。


「よし。 名前は【いぬドッグ】だ。 」


「「「はぁ!?」」」


 食堂にいる人達が一斉に声を上げる。


「先輩ヒドイ! それ『いぬいぬ』ってことじゃないですか! 却下です却下!! 人権侵害!! 」


「陽介さん、さすがにそれはかわいそうじゃないですか?」


「じゃあなんだったらいいんですか!? キングコブラだったらいいんですか!?」


「それもやだ! 先輩センスない!! 」


 名前決め会議は紛糾ふんきゅうした。


 俺からはかっこいい名前ということで【サタン】【バハムート】【ケルベロス】を出したが通らず。

 よつばは【マカロン】【おもち】【あんこ】を出したが俺が通さず。

 ママは【ビクトリー】【セイント】【イージス】なんて名前案が出たがなんとも微妙なセンスだ。

 子供達も色々と案を出したが結局は【ココ】に落ち着いた。


 とりあえず俺の作戦通り。

 名前をみんなで考えることによりなし崩し的に教会で飼う雰囲気になっている。


「よし、今日からお前は【ココ】だ!! 」


「ワン!!」


 ココは尻尾をぶんぶん振り回しとても嬉しそうだ。

 【犬ドック】という名前が付かなかったことに歓喜しているようにも見える。


 みんなで食事の片づけをして風呂の時間だ。

 といっても水浴びをするか身体をタオルで拭くくらいだがそれでもかなりすっきりする。


 寝る前に明日の予定を確認。


 午前中は算術指導。午後はママからの訓練予定だったが掃除の依頼を受ける。

 それが終わったらまたギルドで依頼を探して戻ろう。


 ママとの性生活を妄想しながらベッドに潜り込んできたココと一緒に眠りについた。

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