「何者でもないんです」

「何者でもないんです、気づいたら森の小屋にいまして・・・」


 よつばは今日起こった事を全てシスターに説明した。


 気づいたら森の小屋にいたこと。

 そこには先輩もいたこと。

 アンドラとラッシュにこの街まで案内してもらったこと。

 冒険者登録をしたらこんなスキルがあったこと。

 お金も泊るところもなく困っていること。


 俺が童貞であるってこと以外は全て話した。

 シスターは一通り話を聞くと


「それはそれは大変でしたね。申し遅れました、私はこの教会のシスター【マーゴット・メイヴィス】です。皆さまからは【ママ】と呼ばれておりますのでそう呼んでください。しばらくはここを宿にするといいでしょう」


 それはすごくすごく助かる。

 この世界の宿泊の金額はわからないが、お金はぜんぜん持ってない。


 ママ、なんて優しいんだ。

 もしかして俺とのワンチャン狙ってる?

 優しくリードしてくれるかな?

 身体は念入りに洗っておこう。


 それにしても寝るところがあるのは嬉しい。

 最悪段ボールを集めて橋の下にハウスを作る予定でいた。

 この世界に段ボールはないと思うが。


 それにしても今日会ったばかりの俺達なんてそんな簡単に信用していいのか?

 ママ、危機管理能力皆無なんじゃない?


「すいません、ママさん。とてもありがたい申し出なのですが、そんなに簡単に私達を信用していいのですか?」


「うふふ。聖神様の寵愛ちょうあいを受けている方ですから。先ほどのお話全てをそのまま信じる、というわけではないですが悪い人ではないのでしょう。お困りのようですし」


 そういうものなの? よくわからないが助かった。

 しかし、もう少し人を疑ったほうがいい。

 俺はタンスを開けてパンツをかぶったりするかもしれないのに。


「それにしましても・・・ その【聖神の寵愛ちょうあい】というのは普通ではありません」


「と言いますと?」


「【聖神】と言ってもお一人ではありません。私も【恩恵】を受けておりますが、私は【聖神・ミネルウァの恩恵】をいただいてます。 よつばさんは、私のいただいているミネルウァ様はもちろん、他の聖神様の寵愛も含めて受けているのでしょう」


 よつばは自分の話をされているのにあまりよくわかっていないようだ。

 つまりあれか、よつばは【聖神】というくくりの神、全てからの寵愛を受けているってことか。

 他に何人の聖神がいるのかは知らないが複数の神からの寵愛とかすごそうだな。

 いろんな神様から愛をもらっているとかまるで聖神のアイドルだな。


「他にはどのような神様がいるのでしょうか? 」


「聖神と呼ばれる神々ならば、ケレス神様やバルドル様もおります。聖神以外には火神、水神、風神、地神、そして魔神です」


 属性ごとに神様がいるってことか。

 聖属性に関してはよつば無敵じゃないか? なんつう能力だよ。

 このチートビッチが。


「具体的にはどのようないいことがあるのでしょうか」


「光・聖属性の魔法がより強く効果が発現します。しっかり訓練することでより上位の魔法も操れるようになるでしょう。 他にも言語理解や魔力操作・状態異常耐性・強運等、様々な恩恵があります。

 陽介さんとよつばさんは気づいたらこの世界にいた、と言うことですが、であれば言語が通じないと思います。なのに言葉が通じているのはおそらく【聖神の寵愛ちょうあい】の能力の一つでしょう」



 なるほど、そういうことか。

 俺もそれは最初に疑問に思った。

 明らかに違う人種であるアンドラと言葉が通じたことに違和感はあった。

 違和感はあったのだがアンドレのへそ丸出しの恰好、巨乳に目を奪われてしまいそんなことはどうでもよくなった。


 言葉や種族なんておっぱいの前にはささいなことだ。


 言語理解の恩恵は一緒にいる俺にも恩恵はあるようだ。

 パーティ単位とかで発動しているのだろうか。

 もしもそうだとすると俺はよつばに捨てられたら言葉すら通じずこの世界で童貞のままのたれ死にだ。

 よつば様の機嫌は損ねないようにしよう。


「もうすぐ外に出ている子達やシスター達が戻ってきますので紹介しますね。働かざるもの食うべからず、です。食事の準備を手伝ってくださいね」


 俺達はママに言われた通り厨房で食事の準備を手伝った。

 どんな食材を使うのかとビビッていたが、少し見た目は違うが野菜、肉、といった一般的なものを使用したシチューのようなものを作る手伝いをした。

 本日の夕食はシチューのようなものだ。

 加えてよつばの乳くらいのパンがたくさんある。


 よつばの乳は推定 Cカップ。

 トップとアンダーの差は13センチといったところか。 標高4~5センチといったことろだろう。

 小ぶりなパンだ。


 俺はバストに詳しい。

 自宅のPCのブックマークはエロとエロと乳とエロだ。

 将来は乳の専門医になり、マンモグラフィーを触診ですることが夢だった。


 料理が完成した頃、人が食堂に集まっている気配と声が聞こえてくる。

 外に出ていた人達が戻ってきたんだろう。


「それではそろそろ皆さん、お食事にしましょうか」


 ママに言われ俺達も念願の食事となった。





 食堂には6歳くらいの子から15歳くらいまでの子達が6名ほど、シスターであろう方はママ以外に一人いた。

 そのシスターは【コーデリア】さん。

 コーデリアおばさんと呼んでください、と自己紹介された。

 とっても品の良い少しふくよかなおばさんだ。

 ぜんぜんイケる。


 どうやらこの教会は数は少ないが孤児院もかねているようで、ある程度の年齢になったら教会のお手伝いをし、15~17歳くらいで卒業。外に働きに出るらしい。


 子供たちやシスターに紹介され一緒に食事を取る。

 味は薄味だがなんせひさびさの食事だ。

 なんでもうまい。

 よつばなんて半泣きで食べている。


 食事を取りながらこの世界の事、俺達の今後についてママ達と相談した。

 その中でママから、


「陽介さんはどんなことができますか? 」


 と聞かれた。


 俺にできることか、何できるかな?


 う~ん。


 う~ん。


 う~ん???


 俺・・・・・・・・・  


 この世界で出来ることってなんだ!?


 魔物と戦う力はない。魔力もない。そもそも戦ったことすらない。

 農業も作物を育てた経験はないし、料理もなんとなくだ。


 これまでの人生経験を振り返ってみたが、異世界に飛ばされた今、使えそうな能力がまったくないことに気付いた。


 なんとかできて算術、そしてその指導だろう。


 算術を教えてお金を取る、ことはできそうだがそもそも算術を教わりたい層がお金を持っているとは思えない。

 生徒の集め方もわからない、お金を持ってるどっかの貴族の子供に教える、ことも無理だろう。


 危険が危ないが、やっぱり冒険者なのか。


「【算術】それから【指導】はできると思うのですが、それ以外はまったくですね」


 とても申し訳ない気持ちになってしまう。


「あたしも出来る! と胸を張って言えることは【算術】くらいです。スキルには【解体】と【弓術】、それと【聖神の寵愛】がありますが、【解体】は出来ると思いますが、弓は人や動物を撃ったことはありません。【聖神の寵愛】はよくわからないですし・・・」


「なるほど」



 ママとコーデリアおばさんは顔を見合わせ何か考えているようだ。

 俺達の現状、というか俺の使えなさに絶望しているんじゃないか?

 このままじゃ今夜、夜這いに来てくれないんじゃないかと不安になる。


 しばらくして考えがまとまったのか


「それではお二人に私が武器の扱い方を教えます。なので陽介さんは算術を子供たちに教えてください。よつばさんは教会のお手伝いをお願いします」


 武器の扱い方を教えてくれる!?

 ママが!?


「あの、ママが俺達に武器の使い方を教えてくれるんですか?」


 ママはこともなさげに


「はい。私はこう見えて冒険者生活しておりました。剣、槍、弓、短刀を使えます。それから魔術も使えますよ」


 それにしてもこのおっとり系シスターのママが剣と槍を振り回すのは想像できないが、弓はわかる。

 よつばよりもバストがささやかなママだから、弓も引きやすいのだろう。


 どうやらママは各属性の初級魔術に加えて聖魔術を中級まで使えるシスターらしい。

 さらには【ミネルウァの恩恵】持ちだ。

 恩恵持ちは【結界術】というものも使えるらしい。


「それはとても助かります!ぜひ私に槍を!できれば魔術もお願いします! 」


 魔力はないけど・・・・・ いいじゃん? 

 よつばも目をキラキラさせながらシスターを見つめている。


「私にもお願いします!全部教わりたいです!」 


 よくばりなやつだなよつば。

 ママは微笑ましいものをみるようによつばを見ると


「はい。それでは決まりですね。陽介さんは午前中に子供たちに【算術】を、よつばさんはお手伝いをお願いします。お昼からは私からお二人に訓練しますね」


 話がまとまり俺達は食事の後片付けをした。

 蛇口をひねれば水が出る、ことはない。


 現代とは違い水は井戸から汲んできて大きな瓶にためている。

 そこからわざわざ救ってきて洗い物をする。

 ママは水魔術初級が使えるため、水を作ることができるのだがそれはしないようだ。

 あえて井戸から汲んできて使っている。


 それから客室と呼べばいいのか、簡素な部屋をそれぞれ与えられた。

 ベットにテーブル、そして机。

 どれも木製のシンプルな物だ。


 俺はスーツの上着を椅子にかけるとそのままベッドに倒れこんだ。


「あ・・・・ 夜這いに備えて身体清めておかないと・・・・」


 そのまま意識を手放してしまった。


___________



「おきろ~!!! 」



 一瞬にして意識が覚醒するどでかい声で俺は目を覚ました。

 服装を確認すると乱れた様子はない。

 どうやら昨夜夜這いはされておらず、清い身体のままだ。残念。


 俺を起こしたのは今年6歳になる教会の最年少、【アレク】だ。

 アレクは丸坊主な男の子で半袖、短パンの似合うヤンチャ坊主だ。


「おきたなアニキ!! 次はねーちゃん起こしてくるぞ!! 」


「待て小僧!!」


 それは俺がいこう。

 先輩としての義務だ。

 よつばは昨日スーツだ。

 寝るときに上着は脱いだだろう。

 そしてスカートも脱いでいるはずだ。

 シワになるしな。


 つまり今、よつばはシャツにパンツ姿だ。

 わかるな?


 俺はわかる。


 起こすために部屋に入ったらたまたまパンツが見えて生足がペロペロできる状況だっただけだ。


 悪いのは俺じゃない。

 この世界だ。


「アレク少年。よつばおねーちゃんは俺が起こしてこよう」


「わかった! んじゃ食堂に来てね!」


 アレクはそういうと元気に食堂に向かって走っていく。

 朝から元気いっぱいだ。

 俺の股間と一緒だ。


 俺はよつばの部屋の扉の前で声を掛ける。

 小声でそっと。


「よつばさ~ん、朝ですよ~」


0.1デシベルくらいの声で声をかける。


 

・・・・・・・



 反応はない。


 仕方ないなぁ、ほんとしょうがないやつだ。

 朝が弱いのかよつばは。

 あ~もう。仕方ないなぁ。


 そっと扉を開けると


「あ、先輩おはようございます! ノックくらいしてくださいよ~ 」


「あらあら、起きてたのね・・・」


「私朝早いですよ! 目覚ましなくても起きちゃいますからね! 」


 もうよつばはスーツを着込んでいつもの恰好だ。

 まぁこれしか服もってないしな。

 このままじゃ洗濯もできない。それにしてもこの服装、世界で浮いてるわ。

 はやくお金が欲しい・・・・


 よつばと一緒に食堂で朝食をとる。

 食堂にはすでに子供達とママ、コーデリアおばさんもいた。


「おはようございます。今日からよろしくお願いします」 


 最初が肝心だ。

 俺はみんなに挨拶をするとさっそく今日の予定を確認した。


 俺は朝食後、午前中は【算術】の指導、午後はママからの訓練を受ける。

 よつばは俺が算術指導をしている間にママのお手伝いをし、午後は一緒に訓練を受ける。


 算術指導はこのまま食堂を片付けてここでやるようだ。

 食べ終わった人から片付けを初めている。



 ・・・・・・・・・



「さぁて! それではみんながどこまでできるか確認しようか!!」


 集まったのは3人。

 今朝俺を起こしに来た6歳のアレク、10歳のミーリア、12歳のミケルだ。


 ミーリアはショートカットの女の子だ。暗めの茶髪に同じ色の瞳、賢そうな顔をしている。

 ミケルは黒髪短髪の男の子だ。アホそうな顔をしているが、やる気はあるようだ。


 この教会には子供が6人いるのだが、残りの3人は数字の理解、足す事、引くことはわかるからいいらしい。

 仕事もあるようですでに仕事に出ている。


「よし! 改めて自己紹介しよう。私は花岡陽介、今日から君たちの先生だ! 

 算術はやくに立つ!! 買い物はもちろん単純な計算ができるだけで君達の世界は絶対にかわる! 

 今から学ぶことは世界を生きる基礎だ。むしろ覚えてないと死ぬ!」


 俺は指導モードだ。

 元気よくスタートの合図をするのはとっても大切だ。気持ちを切り替える。

 指導の仕方っていうのはいろいろとあるが、俺はテンション高めで盛り上げる、どっちかというと熱血系なのよね。

 わかっていることをいかにかみ砕いて簡単に、単純にて教えることができるか。

 分からない、ということは相手の頭の中にイメージができていないからだ。

 自分の知っている知識、イメージを相手にわかるように伝える。

 なるべく簡単な言葉でだ。


 指導者と受講生には知識の差があることを忘れてはならない。

 これがポイントだ。

 これができない指導者は多い。


「まずは数の数え方!! みんなはどこまでできるかな?」


 子供達に確認をすると、1~10までの数字はわかる、足し算はなんとなく、のようだ。

 これは腕がなる。


 俺は子供たちに算術の指導を始めるとよつばはニヤニヤしながら俺達の様子をみていた。

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