鑑定

おばあちゃんは何やらぶつぶつ言いながら考えごとをしているようだが、何かを思いついたのだろう。


「お前さん、私と手を繋ぎながら石板に触れてみなさい」 

 

 内心「え~……」とも思うが、そんなこと言えば俺の耳はよつばに引きちぎられるだろう。

 さっさと鑑定してもらえるならそれでよし。

 俺はおばあちゃんと手を繋ぎ石板に手をのせる。

 介護しているような気持ちになる。

 あたたかいおばあちゃんのお手手。

 このボケ始めたおばあちゃんは、ちゃんとお家に帰れるだろうか。

 鑑定が終わったら最寄りの交番に連れて行ってあげよう。

 俺は女性に優しいのだ。


 そして、石板は青白く輝きはじめた!!!




【名】花岡 陽介 (人族)

【ランク】 E

【ジョブ】 ==

【ステータス】体力 42 魔力 × 知力 59 力 36 俊敏 27  

【スキル】 算術 指導

【属性】 ==

【特殊】 




 え?


【無双】とか【全属性適性】とか【勇者】【賢者】とかは?  


 伝説級のスキルはどれ?


 …………。


 これ違うわ。


 俺じゃない。


 おばあちゃんのことじゃないのかこれ。



「これは私じゃないですよ、おばあちゃんも陽介って名前なんですね?素敵な名前ですね」


「……わしはヨランダじゃ。これはお前じゃ」



 普通過ぎてどうしようもない。

 どう反応したらいいの? 詰んでない?

 俺何のためにこの世界に来たの?


「えっと…… 説明させていただきます。ジョブはなし、ステータスは一般的な成人男性並みですが、知力が高いですね。スキルは【算術】に加えて【指導】。【指導】は教えるスキルです」


 スフレちゃんが説明を始める。


「は、はい」


「属性は、ありませんね…。特別な能力もありません……」


「属性がない、とは? よつばのようにこれから伸びたりしないんですか?」


「よつばさんは属性があるんですよ、表記が違いますよね。よつばさんは ∞。陽介さんはありません」


「そんなのずるい!!書き足してください!! 」


「そ、そんな事できませんよ! それからもう1つ、お伝えしないといけないことが……」


 これ以上何を言うつもりだ!?


 ステータスは並、スキルも対したものがない、属性もない。

 スキルに【指導】があるが、これは俺の経験だろう。

 俺の勤めている会社は教育サービス業だ。

 仕事で教育については学んでいるし実践もしている。学生時代には塾講師のアルバイトもしていたしな。

 会社でのよつばのトレーナーは俺だ。


 それ以外なんの能力もない俺にこれ以上何を言うつもりだ。


 まさか……童貞ってことがバレてる?

 【特殊】に【童貞】の表記はなかったはずだが。


 公衆の面前で童貞をバラされたらもうこの街にはいられない。


 あの小屋に戻ろう。

 再スタートだ。


 スフレちゃんは言いづらいのか、なかなか言葉を続けない。

 まごまごしているうちにおばあちゃんが口をはさんだ。


「お前にはな、魔力もない。この世界に生きるものは全て体内に魔力を持っておる。石板は魔力に反応、感知してその者の能力を示す魔道具じゃ。魔力のないお前には反応しなかったということじゃ。だからわしがわざわざ仲介した、ということじゃ」


「魔力がないってどうしたらいいんですか!? 」


「知らん。現にどうしてか生きているんじゃから大丈夫じゃろ。ただお前には魔力を扱うことはできないだけじゃ」


「それは……これから私は生活していけるのでしょうか……」


「魔力も能力もないだけじゃ。算術と指導もあるじゃろ。どっかで働き口探せばよかろう」


 魔力も能力もない……


 嘘でしょ?


 いやいやいやいや


 嘘でしょ??


 伝説の勇者的なポジションになると期待しすぎていたせいで落胆がハンパなすぎて股間がもげそうだ。

 まだ使ったこともないのに。

 散々上げて上げて上げて落とされた気分だ。


 若かりし頃の……合コンを思い出す。


 合コンで隣に座ったかわいらしい女の子がさ? 

「番号教えてくださいよ~♡」なんてさ? 私ワンチャン行けますよ? って顔して言うからさ?

 そりゃ教えるよね。エロそうな顔してるし? こっちは童貞だし?

 乳揉みたいし?


 いざ連絡し、遊び&ワンチャンの約束しようとしてもいっつも仕事。

 土日だろうが平日だろうが「その日忙しくて、すいません」だ。


 これはまずい、どういうことだ。


 この子は過労死してしまう! と心配して労働基準監督署に通報してやろうかと思ったよ?


 そしたらさ?


 一緒に合コンいったあっちゃんが


「あの子意外と巨乳だったわ」 


 って。


 なるほど。 


 うん。


 なるほど。


 巨乳だったのか。


 そこは大切だけど今はそこじゃない。


 そういえば。俺と連絡先を交換することを口実に全員で連絡先交換したわ。

 つまりあのビッチの狙いはあっちゃんだったってことだ。


 俺じゃない、残酷な現実を突きつけられた思い出。



 つまり……あれか?

 今回も俺じゃない、ってことか!?

 よつばか!? よつばが選ばれし者か!?

 よつばはとても心配そうな顔で俺をみている。


「あの……先輩……」


「ぜんぜん!? ぜんぜん大丈夫だし!? いやいやほんとにほんとに! 伝説の勇者とかないから!! 」


「でも……先輩……」


「伝説の勇者とか実際犯罪者だから! 知ってるかよつば? 」


「え? え?」


 勇者の知識のないよつばに教えてやろう。


「勇者っていうのはな? 土足で他人の家に無断で上がり込みタンスを開け、パンツをかぶりツボを割り、鍵のかかっている宝箱すらこじ開けて目ぼしい財産を全て持ち去る。とっても危険でアウトでローな、ロリコンのことだ。よつばは俺が変態で嬉しいと? 」


「そ、そんなことありません! 先輩が勇者じゃなくてよかったです! 」


 なんだろう。 ほんとなんだろう。 

 なぜかこういう時に強がってしまう。

 本当はすごく残念すぎて死にたい気分なのにそれを察して欲しくない。

 後輩であるよつばにはなおさらだ。

 強くてかっこいいステキな先輩でなければならない。


 と思ってしまう。


 俺があまりにも凡才、しかも魔力すらないことに興味を失ったのか、ギルド内はすでに俺に興味を失っているようだ。


 おばあちゃんは俺の強がりに気付いているだろう。

 まぁ気づくよな。

 きっと周りも気づいているはずだ。


 あまりにも哀れすぎて何も言わないでいてくれているのがわかる。


 スフレちゃんあたりは俺が童貞だってことにすら気づいているだろう。


 死にたい。


「まぁ気を落とさんでもええ。魔力はなくともできることはある。不便もあるじゃろうが剣も振れるし弓も引ける。冒険者になれないことはないぞ」


「そうですよね、これから鍛えていきますよ」



 そんなこんなで俺達の冒険者登録は終わった。

 ジョブに就くことも冒険者ギルドでできるようだが今日はもう疲れた。

 これ以上ここにいたくない。

 よつばに声をかけたそうな冒険者がいたが、もれなく魔力すらない無能力者がセットでついてくるのにおじけづいたのか、結局声はかけてこなかった。


 よつばは選ばれし者である超級レア能力持ちで、俺は一般人だ。 

 そりゃそうだよな。

 実際、俺日本で何してた?


 普通高校に入学し普通に卒業。

 大学も普通に入学、普通に卒業。

 普通に大学も卒業して普通に会社に就職だ。


 普通じゃなかったのは童貞が卒業できていないことぐらいだし、卒業の見込みもない。

 卒業まで何年かかるのだろう。


 それなのに実は隠された力がありました、なんていうのは都合の良い話だ。

 そんな話なんてまぁそりゃないよな。


 よつばなぜか聖神とかいう神様からの寵愛があるようだが【聖神の寵愛】だなんてなんかビッチだ。


 聖神ってそもそもなんだ? ゼウス的な神か?

 そんなじじいの愛なんぞいらん。


 アンドラはいつの間にか自分の依頼の完了をしてきたのだろう。

 ラッシュさんと依頼報酬を山分けにしているようだ。


「それじゃ! おふたりさん。これから教会に行くっていうんなら私がしてあげれることはないかな。よつばがいれば教会は歓迎してくれると思うよ。教会はこのギルドを出たら左にまっすぐ。小高いところにあるし、目立つからすぐわかるよ」


「もっと色々聞きたいことはあるけど、ここまで連れてきてくれてありがとう」


「また会うこともあるでしょ、またね! 」


 俺達はおばあちゃんやスフレちゃんにこれからよろしくお願いします、と挨拶を済まるとギルドを出て教会を目指す。


 正直不安しかない。 


 なんとなく考えていた伝説の勇者的なポジションはある! と思っていたのだ。ところが結局何もなかった。魔力すらない。

 持ち物は140Gだけだ。

 短剣は次の人の為に小屋に置いてきたし、木のショボい槍は街に入る前に捨てた。

 恥ずかしいからね。


「はぁ~ 」


 金もないしお腹も減った。

 これから先どうなるのかもわからないし帰れるかどうかもわからない、それどころか今は帰る場所すらない。

 同じ不安をよつばも感じているだろう。

 俺はそんな不安を拭うように街の景色に目を移した。


 道中にあるものはどれもすごく目新しい。

 ヨーロッパ旅行にいったらこんな景色なのだろうか。

 新しいものを見つける度によつばに報告しながら進んだ。


 不思議な看板や巨乳娘の発見。

 野良猫に野良犬に野良パンツの発見。

 街中を流れる水路に井戸、ノーブラ女子の発見。


 様々なものを発見する度によつばの不安メーターは下がり、代わりに怒りメーターが上がっていくのがわかる。

 顔に出やすい女だ。


 とりあえず不安は解消されたようなのでいいだろう。



 教会はアンドラ言った通り、ギルドからそんなに離れておらず、少しだけ小高くなった丘の上にあった。


 まさに教会、だ。

 教会といえば十字架だが、建物の中央上部に掲げられているものは特にない。

 円錐の高い屋根が威厳、神聖な雰囲気を醸し出している。


 建物の周りには作物が育てられており、井戸、納屋、そして牛だろうか? 牛にそっくりな動物も飼育されていた。

 教会は自足自給か?

 そんなイメージはあるな。


「それにしても、でかい建物だな」


「そうですねー! なんかとっても新鮮ですね! 日本にはこんな建物ないですし! 」


「おっきいのは好き?」


「あまり大きいと入りずらいですよね、ほどほどくらいの大きさのほうが安心します」



 ちんこの話だよね?


 違う、建物の話だ。



 別にちんこの話をしているわけじゃないのだがどう考えてもちんこ風だ。

 さすが性神の寵愛を受けているだけある。


「それではよつばさん、中へどうぞ」


「え?私が先に入るんですか? 」


「お前聖神の愛人だろ」


「なんでですか!! この」


 童貞! と叫ぶ前に口をふさぎ謝った。

 このくだりはもういい、心の傷も増えるばかりだ。

 今その単語を聞いてしまったら俺の心はポキリと折れ、脱糞するだろう。


 脱糞した俺は教会に無断で上がり込みタンスを開け、パンツをかぶりツボを割って、鍵のかかっている宝箱すらこじ開けて目ぼしい財産を全て持ち去る。とっても危険でアウトローなロリコンになりそうだ。


 よつばは俺を勇者にしたいのか?


 よつばは少し怒っているようだが素直に教会へ向かう。

 教会の中は大勢の人が集まれるように横長の椅子が何列もあった。

 結婚式でよく見るタイプの椅子だ。


「あの~、すいませ~ん」


 よつばが声を掛けるとしばらくして足音が近づいてくる。


 現れたのは ディス イズ シスター 。これは、シスターです。と紹介したくなるようなシスターだ。

 黒いベールを後ろに流し、修道服を着ている。

 修道服はサイドに深くはないが、スリットが入っていて激しく動けばパンツが見えそうだ。

 年齢はアラサー、三十代中盤といったところか。

 黒いロングヘア―はささやかな双丘あたりまで伸びている。

 とても温和そうな少したれ目のかわいらしい感じだ。

 年上が好きな俺には大好物だ。

 このくらいの年齢が一番エッチだ。


「あらあら、どうしましたか? 」


「初めまして、私は小春よつばって言います。こっちは花岡陽介です。冒険者のアンドラさんに紹介されてここに来たんですが」


 そういってよつばは身分証を兼ねている自分の冒険者カードをシスターに見せる。


 ちなみにカードは運転免許証くらいのカードサイズだ。

 カードは少しくらい穴を開けても平気なようで、冒険者ギルドでもらった皮紐を通し首から下げている。

 普段は服の中にカードを入れており、胸元から取り出す度についつい目がいってしまう。


 しょうがないよね。

 男の子だもん。

 後輩のだろうが好みのタイプじゃなかろうが胸チラしてれば見るしスカートがめくれれば見る。

 見たらちゃんと心の中でお礼をする。

 だってマナーだろ?

 俺は礼儀正しいのだ。


 カードを見たシスターは驚きの声を上げた


「【聖神の寵愛ちょうあい】!? あなたは何者ですか!? 」

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