「ドキドキするんですけど……」

「ドキドキするんですけど……」


 石板は少しひんやりしておりざらついている。


 ………………


 …………


 ……



 ん?


 なんだ? ずいぶん時間がかかるな。こんなにかかるものなのか?

 俺の潜在能力が高すぎるせいかもしれない。判定に時間がかかっているのだろう。

 受付嬢を見ると、困った顔で石板をみている。


「これ…… いつまで触ってれば? 」


「いえ…… 普通ならすぐに反応するはずなのですが。なぜでしょう? 」


「壊れてます? 」


「そんなはずは……」


 受付嬢は石板に自分の手をかざす。石板は青白く光ったかと思うと受付嬢の持っていたカードに名前らしき文字が刻まれるのが見える。


「ちゃんと反応しますね……」


 なんで俺は反応しないの? アンドレもラッシュも、受付嬢もわけがわからない、って顔をしている。

 あ、ラッシュさんいたのね。でかいくせに存在が空気すぎる。


「先にそちらの方から鑑定しましょうか」


 受付嬢はよつばに手を向ける。

 まぁそのほうが良さそうだ。

 多分俺はとんでもない能力者なんだろう。

 あんなちんけな石板ごときでは測れない能力者だ。

 伝説のスーパーヤサイ人みたいなところあるしな、俺。


 成長すれば腕を伸ばしたり火を噴いたり、地球上の元気を集めて玉にすることだってできるだろう。


「とりあえず、俺は測れないみたいだからよつばからやってみようか」


「はい、なんかドキドキしますね! 」


 よつばは俺が測れなかったことなんかどうでもいいようだ。

 嬉しそうに石板に手を置く。


 こいつも反応しないんじゃないか? 異世界人?? の俺らには反応しないとかじゃないだろうな。

 そう思ったのだが石板は青白く光るとカードに文字が刻まれだした。



【名】  小春 よつば (人族)

【ランク】 E

【ジョブ】 ==

【ステータス】 体力 30 魔力 70 力 20 知力 44 俊敏 20  

【スキル】 弓術(初級) 算術 解体   

【属性】 ∞

【特殊】 聖神の寵愛ちょうあい     



「「「「え!?」」」」



 その場にいた全員がよつばのカードを見て驚愕の声を上げる。

 ど、どの辺が驚愕ポイントなんだ!?

 聖神の寵愛ちょうあいってやつか? なんかすごそう!!


「よ……よつば、お前なんなん!? 」


 周りにいる全員の視線がよつばに集まる。

 よつばは「 え!? もう出たの? 早くない!? 」とか言いそうな顔をしている。

 その発言は時と場合を考えてね。 


 それにしたってどう考えても普通じゃないよな!?



【名】  小春 よつば (人族)

【ランク】 E

【ジョブ】 ==

【ステータス】 体力 30 魔力 70 力 20 知力 44 俊敏 20  

【スキル】 弓術(初級) 算術 解体   

【属性】 ∞

【特殊】 聖神の寵愛ちょうあい

 


 ランクは今日登録だからな、Eってことか。

 ジョブはなんにも就いていないから表示されないと予想できる。

 ステータスは基準がわからない。置いておこう。

 スキルに弓術ってあるのはこいつが中学から弓道部だったからか?

 【弓術(初級)】か。なんか使えそうだな。

 いいな…… こういう戦闘スキル。すごいかっこいい。


 俺も弓道部にさえ入ってれば。


 弓を引いてる女の子を後ろから眺めてワキチラできたのに。

 ワキペロもしてみたい。

 俺の中のやってみたいことランキング三位だ。


 【算術】もわかる。日本の義務教育終えてるもんな。  

 解体はなんだ? 物騒だな…… 見かけによらず猟奇的なのねよつば。

 

 まぁいい!! そんなことはどうでもいい!!

 ここまではいい。

 問題はこの後だ。


 【属性】が【∞】ってなんだ? 

 極めつけは【特殊 聖神の寵愛ちょうあい】だ。


「すいません…… どういう状況ですか? 」


 よつばは不安そうに俺達に問いかける。

 こいつはゲームとかしないのか? なんかよくわからんがすごそうな【聖神の寵愛ちょうあい】だぞ?     

 なんかすごい! わからないけどすごい! 抱いて! くらい思うだろうに。


 受付嬢は動揺しながらも説明を始める


「え……とですね、一つづつ説明致します。

 よつばさんはジョブはまだ表示されていません。なんのジョブにもついていないってことです。

 ステータスは魔力がとても高いです。数値だけ見ればCランク以上です。

 弓術はそのまま弓のたしなみがあるようですね。解体は生物の解体・剥ぎ取りのスキルです」


「弓は使ったことがあります。解体は実家が牧場でお肉用の牛とか育ててましたし、お手伝いもしていました」


こいつ実家で肉牛やってたのか。なるほど。そんな事言ってたなそういえば。


「属性ですがちょっとわかりません。おそらくよつばさんはまだ属性が固まっていない、ということだと思いますが……。普通は成長するにつれてある程度自分に馴染む属性が定まってくるのですが、よつばさんはなぜか定まっていないのではないでしょうか」

 

「それは悪い事なのですか? 」


「いえ、そういうわけではありません。これから馴染む属性が定まってくるのではないでしょうか。逆にいえば、好きな属性を伸ばせると思うのですが…… そしてもう一つ、突出しているのが……」


 受付嬢は深呼吸をすると


「特殊能力【聖神の寵愛ちょうあい】です。これについては私もよくわかりません。というよりも、見たことがないのです。超上級、もしくは最上級のレア能力といっても良いと思います」



 超上級、もしくは最上級レア!?

 よつばはそんなスペシャル技能持ちなの!? 俺は!?



「普通は【寵愛ちょうあい】ではなく、【恩恵おんけい】とか、【加護かご】なのです。どうやらその上のようですが……」


 受付嬢はカウンター内にいる同僚にも視線を向けるが同僚も応えられないようだ。 

 なんとなくギルド内の空気が変わったように感じる。


 なんかこれ伝説の勇者キタコレ!! ってなってない!? 大丈夫!? 

 まだよまだ!! 本番はこれからよ? 

 まだ早いまだ早い、いくの早すぎるから。


 それに、こいつは電車に乗る度にICカードの残高なくて改札ビービー鳴らしまくる凶悪犯よ? 人の流れをせき止める重罪人だわ。 

 牛丼は特盛だしパンツは黒が多い。


 まぁそれはいい。


 これからが本番だ。

 こんなちんけなよくわからん性の神様の寵愛ちょうあいを受けてるようなビッチで驚いてもらっては困る。


「よつばさんには一度教会に行かれることをお勧めします。この街にもありますので後で立ち寄ってみてはいかがでしょうか」


 よつばは俺をチラっと見てくるので頷いてやる。


「わかりました。教会に行ってみようと思います」 


 特に当てもないし、教会ってとこにも後で行ってみよう。

 生でシスターを見れる良い機会だ。


「それよりおねいさん、俺の検査……鑑定はどうしたらいいですか? 鑑定できないとカードも作れないですよね? 」


そんな話をすると


「鑑定ができないなんてことは初めての経験でして、マスターに確認して参りますのでしばらくお待ち下さい」


「やっぱり!? ですよね!! 」



 俺が言い終わる前に受付嬢は奥に引っ込む。 



 ついに俺の時代がきたか。

 よつばはメインデッシュを盛り上げるための前菜、いわば前戯ぜんぎだ。 

 よつばの前戯は完璧といっていいぐらいに盛り上がっている。

 さすがは性神の寵愛ちょうあいを受けているビッチだ。

 俺もその期待に応えねばなるまい。

 一人で先にいくことはしないから安心しているがいい。

 いくときは一緒だぜ?


 よつばはアンドラから色々と質問攻めにされているようだ。

 珍しい能力に高い魔力。

 これからの成長が期待できる貴重な人材だろう。

 ギルドにいる冒険者もよつばに興味ありげな視線を向けている。



 だがそれも俺の鑑定までだ。



 奥からいかにも魔術を使いそうな老婆が出てきた。老婆の年齢なんてまったく予想がつかない。

 おじいちゃん、おばあちゃんは正直違いがわからん。

 おじいちゃんはおじいちゃんだし、おばあちゃんはおばあちゃんだ。

 七十歳と言われれば七十歳に見えるし、八十と言われれば八十に見える。


 おばあちゃんよつばを見て少し目を丸くしたが納得したような顔をしている。

 こいつは合格だ、とでも言いそうだ。


 俺を見ると


「これは………… どういうことじゃ? なぜ生きていられる? 」


 ボケか?


 この老人はボケが始まっている。

 失礼な老婆だ。

 伝説の勇者を目の前にして何を言い出すんだ。


「いやいやいやいや!! 生きてますよ!? 何を言い出すんですか! 」


「ふむ。生きておるよだな。それなのに石板が反応しないのか。一つ試してみるか、

スフレェ!!! こっちに来なさい!!! 」



 おばあちゃんが叫ぶとすぐ隣にいた受付嬢が「はいはいここにいますよ」と反応した。

 隣にいるじゃねーか。やっぱりボケてないか?


 スフレと呼ばれた受付嬢は、案内をしてくれていた受付嬢だった。

 スフレちゃんって言うのか……

 いい名前だ。結婚したい。


「こいつに【魔力譲渡マナアシスト】してやれ」


「わかりました」


 スフレちゃんは俺の手を取ると両手で握りしめ何やら詠唱を始めると


「【魔力譲渡マナアシスト】」


 スフレちゃんの手からなんとなーくもやっとした感触が伝わるような気がするがなんだこれ。


 スフレちゃんは俺の手を握ったままこちらを見つめ、首をかしげる。

 そのしぐさはとても可愛らしくオッキしそうだ。


 いや、オッキした。

 男の子だからね。


 女性の手を握ったのなんていつぶりだろう。

 びっくりするくらい記憶にない。

 強く握り返していると首筋に刺すような無言の圧力を感じるが気にしない。どうせよつばだ。

 今日、俺はこれから童貞を捨てるのだ。

 

 スフレちゃんは困った表情で


「すいません、私から何か感じませんか? 」


「感じます。お付き合いを前提に結婚してください。」


 間違えた。結婚を前提にお付き合いか。

 まぁどっちでも結果は一緒だ。

 結局は子作りをしたい、ってことだ。

 もう俺はこの手を一生


「ブチブチブチッ!!」 


 え!? 俺の耳ちぎられた!?

 耳に激痛が走る


 どうやらよつばが俺の耳を引きちぎらんと力任せに引っ張ったらしい。


「何言ってんですか先輩! そんなことしてるならもう教会行きましょうよ! 」


「ごめんごめんごめんごめん! 鑑定したい!! 鑑定したいから!! 俺伝説の勇者か大賢者だから!!」


 俺のセリフにギルド内が少しざわつく。

 よつばが超級レア能力持ちだ。

 その連れの俺にも期待が膨らんでいるのがわかる。


「ちょっと! おばあちゃん!! 早くこの人のこと鑑定してやってください!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る