終 世界は優しく開いている
前編 サイカイの喫茶店
僕は写真をリュックにしまい、おもむろに立ち上がった。そして、喫茶店に立ち寄った。
そこには、各々の夢をかなえた仲間たちがすでに席についていた。
今日は数年前、僕が「ジシン」の在りかを発見した日だ。でも、僕は今でもその場所に走り続けている。ゴールは見えているのに、果てしない大海原が僕の航海を邪魔する。それでも止まらずに進み続けている「ジシン」がある限り、いつかたどり着くことができると、僕は思う。
周りには、ややこしい大人の事情も、ばからしい嘘も、人を感動させるストーリーもある。お金や地位を気にしなければならない、世知辛い世の中にもわずかな光があって、人々はそれを憧れにして華々しいゴールを目指し、走る。
今日も写真を撮ろうと思ってカメラをリュックの中に忍ばせておいた。昔からずっと使い続けている、もうくたくたになったリュックには、汗も涙も、血も嘘も、僕の生きてきた日々のエッセンスが詰まっている。そう思うと、このリュックは内外的に僕の負債となっていると思った。
このようなことを話すと、東京から一時的に帰ってきたアララギジン―――仁がこう答えた。
「それも含めてお前の人生なんやろ?やったら、もったいないと思わへんか?それを通して、お前はもっと強く、大人になった。明らかに小学生には重すぎるものを、いくつも背負って今日まで生きてきた。もし、その日々が嫌だ、うつだ、億劫だって言うなら、俺は悔しい。どんな形であれ、俺らは無事に今も生きている。あんな事件があったのにも関わらず。昔、お前言ってたよな。『俺たち、最強のチームですよ』って。最強のチームなら、作り上げる思い出も最高のものであるはずや。そうじゃないなら、俺は自分に責任を感じるし、もう一度あの日に戻って、あの男を説得して爆破事件が起こらないように仕向けたいと思っている。これは、同じ被害者の俺やから言えることやし、それでも、お前に何かわかるかよって思っとるやろう。なに、俺とお前の仲や。そんなん顔見たらすぐわかる。俺は、親友のお前に、俺たちと過ごした日々を、そう思ってほしくない。それだけや」
僕は、青を求めて、赤から逃げる日々を送っていた。時折、黒を見ることもあったし、それぞれを嫌いになった時期もあった。でも、それらも含めた人生だからこそ、僕は常に新しくなっていくのだ。僕は彩られていくのだ。
結局、僕はカメラをその日出さなかった。
大事な思い出も、苦しい思い出も、今この一瞬も、人生という長い長い航海の一ページとして、僕のリュックに詰め込んで理想郷へ駆け出すと誓い、僕は喫茶店を出た。
水平線の彼方に見えない、まだ誰も見たことのない宝島を目指して。
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