零 色はない

もう何年たっただろうか

 青い空、白い雲。それらはきれいに分かれていて、各々は透き通っていた。その空を、今や都会の風物詩となったカラスが、悠々と飛んでいる。でも、俺の心は、まだ後悔の念で濁っている。それぞれの色を持つ、空と雲。その悠久さに思わず目を細める。いつも、誰かに呼ばれている気がする。なぜかは、分からない。でも、それぐらいは俺も割り切っている。人には一つや二つ、人生をかけても知ることのないことはあってもいいと思う。


 俺は、前を見る。目の前には、大きな木がある。御神木といったものだろうか。ここは、神社の境内。俺は都会の喧騒から離れたいと思うたびにここに来る。不意に右を見る。無論、だれもいない。ただ、どこか物寂しい、秋の風が吹いているだけ。その冷ややかさは泥にまみれた心の隙間をひゅうひゅうと吹き抜けていき、時の流れを、夢の荒れ野を頭の中によぎらせていった。


 悔しい、とも思えないで、モノクロの過去を振り返ろうともしない。いつかは変わらないといけないと考えてはいるものの、やはり後回しにしてしまう。臆病な自分にも背を向ける。  

 俺は、背負っていたリュックサックを下ろし、チャックを開けた。

 そして、一枚の封筒を取り出した。

 端に、もう読めなくなった文字がたたずんでいた。少し汚れている”メモリー”を開いた。


 なつかしさが俺を溶かしていく。

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