勇者になれない平凡DKが頭の悪い勇者をサポート
根元の黒が目立つプリン頭が、しょんぼりとうなだれている。
「ごめんなぁ佐田ごめんなぁ~」
「いいよ、いいよ、大丈夫、このくらいすぐ補充できるって」
貯めていた魔法を使い切ってしまった大型剣と盾と短刀を無限鞄に放りこみながら僕は頑張ってにこやかなか顔を作った。
全然大丈夫じゃないし補充するのは時間がかかるし大変だ。
でも、それをいうと目の前のプリン頭がますますしょんぼりしてしまうので、表には出せない。
異世界召喚されて一カ月。たった一カ月だけれど色んなことがありすぎた。
僕はもはやベテラン冒険者といっていい。
プリン頭の小森もベテラン勇者といっていい。
勇者なのに魔法ができない事を除けば。
過去に何度か召喚されてきた勇者は大体なんでも万遍なくできるものらしい。
でも小森は魔法ができない。
魔力はたくさんある。全属性の魔法を使える素質もある。
でも小森は魔法ができない。
使えるか使えないかで言うと使えるが、できないのだ。
この世界の魔法はファンタジーというよりは科学寄りだ。
科学とはいっても、まったく難しいものじゃない。
小学校高学年レベルの理科と算数ができれば何とかなる。
水が蒸発して気体になると体積が増えるとか、六分の二と三分の一が同じだとか、そういうレベルだ。
でも、小森は勉強ができない。
特に算数がダメだ。数学じゃなくて算数ができない。
六分の二と三分の一のどちらが大きいかが分からない。
魔法の仕組みを知って以来、僕は小森に最低限の理科と算数を説明し続けてきた。
でも、それもそろそろ諦めはじめていた。
これまで小森の親兄弟と小学校と中学校の先生たちが諦めてきた歴史がある。
今さら僕が付け焼刃で何とかできるものじゃない。
一か月前、僕と小森は同じ高校に通っていた。
勉強が得意でない僕は第一希望に届かず、専攻科と設備を備えている第二希望で頑張ろうとしていた。
小森は答案用紙に名前を書けば入学できるというバカ高に放り込まれた。
経緯は違うがクラスは同じ。
それぞれの性質から接触は多くなかったものの、同じ教室にいる者同士、関わる機会が無いわけじゃない。
体育祭に向けての準備をクラス全員でしていた時(そういえば今ごろは体育祭が終わっている頃だろうか。はやく役目を終えて元の世界に戻りたい。)手際の悪い僕を小森が庇ってくれた。
この世界に召喚される前、元の世界での僕と小森の接触はその時の一回だけだ。
僕は陰キャ寄りだ。異世界召喚にわくわくしなかったわけじゃないが、普通に不安だし怖い。
一人じゃないのは良かったし、相手が小森だったのは尚更良かった。
勇者が自分じゃないのは正直ちょっと嫉妬するけど、もめ事が怒るたびに持ち前のポジティブとコミュ力で乗りきっていく小森を見ていると、自分の役割はここで正しいんだなって気持ちになる。
そういえば、でかい街の偉そうな貴族に、二人でようやく一人前と馬鹿にされたことがある。
あながち間違っていないのかもしれない。きっと僕一人でも小森一人でもやっていけなかっただろう。
「いちいち気にするなよ。あの時、言ったのはお前だろ」
小森に笑いかける。
あの時言われた言葉を今度は僕が―――……
「人には向き不向きがまるんなからっ……」
噛んだ。かなり重要なとこだったのに。
ドラマやアニメなら得体のしれない風が吹いて髪を揺らし葉っぱや花びらを巻き上げ、それに合わせて感動的な音楽が流れるところなのに。
重要なとこで噛むかよって小森が笑ってくれでもしたらまだギャグオチ的な感じで形になりそうなものを、未だに落ち込む小森は、うん、って元気のない返事をしただけだった。
やっぱり僕は勇者にはなれない。
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