戦場で途方に暮れる男

「十秒間お前達の神に祈ることを許す」


隣の男が言い終わると同時に祈りの言葉の合唱が始まった。

破滅と呪いが、恨みの言葉が、並ぶのだとばかり思っていた。

こいつらは逃げる気が無いらしい。もっとも、逃げられるわけがないのだが。


囲むのは複数の銃。逃げても逃げなくても行先は同じだ。死。という、自由。

祈りたいだけ祈ればいい。お前達の理想の楽園。夢見た場所の三秒前。

何が見える?俺には絶望以外に何が見えるのか解らない。


気が狂いそうだ。いや、それとももう狂ってるのかもしれない。

血と硝煙のにおいが、砂嵐に飲み込まれる。

あぁ早くこんな世界を終わらせて、甘くやわらかな世界へ。

それは夢のようなことだ。違う、まさに夢想だ。

叶うことのない夢を見ているばかりで現実は何ひとつ変わらない。

変えるだけの力を。この手は持ち得ない。


小さな合図。引き金を引くと半自動の小型機関銃が鉄の雨を吐き出す。

大音響。悲鳴と銃声。遠くで聞こえる大規模な爆発。

歓声を上げる仲間に交じって俺だけ唾を吐く。

俺だけが銃声を閃光を華やかと思えないでいる。

遠くで大きな建物の崩れる音。すべては砂嵐に飲み込まれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る