終末の訪れる週末を見届ける女

千切れた白い雲が所々に浮かんでいる。

空は青い。

日差しはあたたかく、風は涼しい。


不用品回収をうたうスピーカーを積んだ車の音。

学校帰りの子供の声がそれに混ざる。

歩道を歩く犬が、後ろを歩く飼い主を振り返る。


いい日和だ。


約束の時を思うたび、こんな日であれば良いと思っていた。

願ったりかなったりだ。


「あかねおねいさん!」

舌足らずな呼びかけに、きょとんとした表情を作る。

「あら、モカちゃん、こんにちは」


にっこり笑って、お辞儀代わりに少し首を傾げる。

歩み寄る母娘は大小の買い物袋を手にさげていた。

母親は食材や日用品らしきもの。

娘は小さなお菓子がふたつ。


「こんにちは。今日はいいお天気ですね」

母親の挨拶に、そうですねえ、と返す。

「明日から三連休、ずっと晴れるみたいですよ」

そうなんですねえ、と返した声は上の空だったらしい。

母親が何かどこか少しひっかかったような表情をわずかばかり浮かべた。


取り繕わなくては、と一瞬思い、しかし、もはや今更と思いなおす。

母親の方も取り立てて問いただすほどの違和でもないと判断したようだ。


「良い週末を」

ぺこりと頭を下げ、大きく手を振り、去っていく。


握った手の中で小さな板が震えた。

うつむいて、ひとつ、ふたつ、操作をする。

携帯端末の画面から目を離し、青空を見上げた 最終確認も完了。

すべての仕事が終わった。あとは待つだけ。


近づいてきていた学校帰りの子供の声が目の前を過ぎて遠ざかっていく。

不用品回収は、とっくに聞こえなくなっていた。

ゆるやかに形を変える雲を見つめ続けて、どのくらい経っただろう。

不意にサイレンが鳴り響く。緊急警報だ。


そうして終末が訪れる。

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