悪人って程じゃないクズの子供に因果が応報する話
私は生まれつき能力が高かった。
身体能力は概ね平均以上、頭の回転も鈍くなく、対人関係も苦では無い。
平均的な家庭に生まれつき、居住地の教育施設も特別に荒れていることもなかったおかげで、環境に阻まれて能力を活かせないということもなく、順風満帆な人生を歩んできた。
私は自らが驕っているという自覚がある。
ストレスが好きな人間はいないだろうが、私はそれを回避したい気持ちが強かった。
能力以上に挑戦する気概を持たなかった。
自らの叶う範囲で、狭い王国の中で、偉そうにしているのが楽だった。
素晴らしい家柄に生まれていたほうが良かったのかもしれない。と、思う日もある。
或いは、もっと明確に進学校や名門校を選び誰もが憧れる企業や士業に就きエリートコースを歩んでいれば。
趣味に打ち込んで広い世界の敵わない技術に打ちのめされていれば。
世の中には自分よりもすごい人間がたくさんいることを知っている。
しかし、自分よりも劣る人間のほうが圧倒的に多かった。
何となく、うっすらと、いや、恐らくはっきりと、私は自分よりも劣る人間を見下していた。
見下すことが楽しかった。
能力の低いうえに運の悪い人間は割合に多く存在する。
私はそれらを踏みつけてきた。
劣るのだから仕方がないのだと、当然だと、自覚的に、ごく稀には悪意すら持って踏みつけてきた。
彼らに彼女らに、私は恨まれているだろうと思う。
生まれ育った町の道端で見知らぬ誰かに睨み付けられたことがある。
同年代くらいであったので学生時代に踏みつけた誰かだったのかもしれない。
もうよく覚えていない子供の頃に知って何故だか心に残っている、因果応報、という言葉を時々、ずっと思い出してきた人生だった。
努力はそれなりに報われてきた。
悪事を働いてバレてしまえば罰を受けた。
とはいえ、報われない努力もあり、バレない悪事もあった。
しかし、それらもきっとどこかでバランスが取れているのだろうと漠然と信じていた。今でも信じている。
だが、しかし。いつまで経っても因果が報いてくれない。
私は劣る人間たちを見下し踏みつけたまま、私よりも優れた人たちは私にあまり興味が無いようで踏みつけられたことがない。
私に踏みつけられた人は運が悪く、私は運が良いのでそうならないのだろう。
しかし、それでは私の因果はどこへ行ってしまったのか。
目を見張る美人ではないが人並み以上には小綺麗にしている妻が涙で化粧を汚している。
机の上に広げられた何冊もの連絡帳。携帯電話。壊れたおもちゃ。
破れたノート。学校からのお知らせ。市からの案内。
私は妻子を愛している。自分の持ち物を誇るような見栄もあるかもしれないが、それを置いていても、それぞれ一個の人間として確かに気に入っている。
その、気に入っている子供は、どうやら私よりも妻よりも遥かに劣っていて運が悪かった。
ただ生きているだけで困難に直面している。
私や妻のような何かから踏みつけられている。
本人のあずかり知らぬところから飛んできた、見知らぬ因果が我が子に降りかかっている。
私は、いつも思い出す言葉とは別の言葉をようやく思い出していた。
親の因果が子に報い。
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