第11話 思わぬ救援
「騙されるなよプレイヤー。その女はプレイヤーであってプレイヤーじゃない!」
岩間の入り口からキィキィ声が叫んだ。邦人が目を開けると、いつに間にか一糸纏わぬ姿でしゃがみ込んだジェーンが上半身を捻って振り返っている。その視線の先に、昼間邦人が鞭打ったキツネがいた。
「コンパニオン!生きてた!? 」
「危ないジェーン!」
そちらに手を伸ばし、何かしようとしたジェーンの腕を掴み、邦人は引き寄せる。彼女は邦人に抱き寄せられると苦しそうな表情になった。スマホが入った左胸から身体をズラそうとしている。
とっさにたわ言で注意を引いて、キツネへの攻撃を阻止しただけの筈が。スマホの思わぬ効果に邦人は驚いた。
「離してジョン。…お願い。」
「彼女を放さないでプレイヤー!スマホを彼女に直接翳すんだ。」
ジェーンがコンパニオンと呼んだキツネは、そう言って邦人達の脇に駆け寄って来た。邦人は左腕でジェーンを抱きながら、右手で内ポケットからスマホを取り出しジェーンの豊かな胸に直接圧しあてる。
「あぁ苦しい。…ジョン貴方は酷い人です。」
「ルール違反だマーガレーデ。プレイヤーに猛獣を差し向けコンパニオン排除を試み、ルール認識前に“ゲスト”を提案。スマホも預かろうとした。」
キツネがキィキィ声でそう言うと、ジェーン…マーガレーデは弱々しく頷いた。邦人はマーガレーデを寝床に横たえ様子を見る。スマホは胸上に圧し当てたままでだ。
「このまま放置すると彼女はどうなるんだ?」
「滅びる。だけど彼女は色々な“鍵”を持ってるんだ。今彼女を滅ぼすと、それは世界のどこかにランダムで放棄されてしまう。」
「鍵?」
「レジャーに入れたり…そう言う鍵さ。」
そういうとキツネは彼女の脱ぎ捨てた衣服に鼻を突っ込んで、嗅ぎ回っている。彼女のスマホは慎重に避けているようだ。
「無いな。彼女はルール違反をするに当たり、力の有るアイテムを代理に立てている筈なんだ。身近に…プレイヤー、彼女の身体を探ってみてくれないか?僕には出来ないんだ。」
邦人が調べると、マーガレーデの手と足指に二つの指輪が見つかった。キツネはもう一つ有るという。邦人が探ると、もう一つは彼女の体内から出て来た。凄い場所に隠している。
「よし。ムッソー、フォウセット、6マギーズ、素晴らしい宝物だ。」
「これらは?」
「後で説明する。所有権を君に移すから、正式なプレイヤー・ネームを教えてくれ。どうせマーガレーデには解っているから、隠しても無意味だよ。」
「……ダーティーだ。」
真面目な顔付きでキツネは頷く。宙の一点を睨んでブツブツ…キィキィしてから言った。
「よし繋がった。ダーティー僕の言う通りにいうんだ、いいね?」
邦人は頷いて了解の意思を示し、キツネの言葉を復唱した。
「SSSフィールド管理に告ぐ!プレイヤー・ダーティーはプレイヤー・マーガレーデの3つのルール違反を赦す見返りとして…3つの力のアイテム、ムッソー、フォウセット、6マギーズの譲渡を要求する。」
すると邦人達の頭上に、両目が糸で縫い合わされた大きな顔がスゥッと現れた…。
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『SSSフィールド管理は、プレイヤー・ダーティーの要求を了承する。プレイヤー・マーガレーデはこれを受け入れるか?』
エコーがかったバリトンが言うと、マーガレーデは弱々しい声で了承した。
『ムッソー、フォウセット、6マギーズは、これ以降プレイヤー・ダーティーが一切の権利を所有する。』
顔は更に続ける。
『まだ代償が不足している。プレイヤー・マーガレーデは、以後72年間、プレイヤー・ダーティーに対し直接間接を問わず、法則を用いた情報取得行為と500km以内への接近が制限される。但しプレイヤー・ダーティーには接近の自由がある。プレイヤー・マーガレーデはこれを了承するか?』
「了承します。」
『よし。他に裁定事項が無ければ、SSSフィールド管理は撤収する…。』
邦人達が見守る中、顔は出現時と同様空中にスッと消えた。
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スマホはマーガレーデに対する効力を失ったようだ。今は落ち着いた表情のマーガレーデを、邦人は手を取って起こしてやると、服を拾って手渡した。
「君のゲストになれなくて残念です。マーガレーデ。」
「今からでも遅くありませんよ?貴方が私にそう言えば。ダーティー。」
慌てて何か言おうとしたキツネを、マーガレーデは服を身に付けながら身振りで制した。
「大丈夫ですコンパニオン。この男は信じられない程用心深い。それに心理操作も効きません。今の状況も理解しているでしょう。」
「少なくとも今は、彼女は私やキツネ君には力を振るえない。」
口を閉じたキツネに、ホラね?と言った身振りと表情を見せると、すっかり衣服を整えたマーガレーデは邦人に向き直った。
「それじゃ行きます。」
「会えて良かったよマーガレーデ。君が何者でも、君は魅力的だ。」
するとマーガレーデは大きな目を丸くし、嬉しそうに微笑んで邦人に抱き着くと、頰にキスした。邦人も軽く抱き締め、二人はすぐ離れた。彼女は何処からか指輪を取り出して邦人に渡す。
「これ、私からは貴方に近付けないから。話し相手が欲しくなったら、貴方がこれで私を呼び出して。」
「ありがとう。」
「それと、そのコンパニオンに名前を付けて下さい。誰でも名前が無いのは悲しいから。」
そう言うと、今度こそ彼女は岩間の外、暗がりに去って行った。
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