第8話 悪魔の追加法則…フランクの法則とは?


>石斧GET!丸太GET!


長さ1m程太さ5cmの木枝に、皮紐で石を括り付けた斧で低木を倒す。歯が欠け砕ける度に石を交換して使う。そうして出来た2m程の丸太で拠点内の岩をテコの原理で転がし、入口脇に押出す。20〜30kgの岩程度抱え担げるが、腰を傷める事を用心したのだ。数日に渡る重労働に、邦人の身体負担は蓄積されていた。


虎はザックリ解体した。漢方などで珍重されるが食用にはしない。包丁も鍋もない状況では、調理出来ないと考えたからだ。従って、ひたすら骨肉を剥ぎ取っては、水場の廃棄場所を往復して棄てた。容れ物は鹿皮袋だ。鹿肉・鹿材の残りは拠点内に干してある。


内臓は小腸と膀胱・ペニス皮、睾丸袋だけを確保した。強烈な胃酸の胃袋だけは、早々に両端を括って中間地点に廃棄した。自壊されると厄介だから。


夕方になって漸く、虎の骨肉の2/3程を捨てれる。邦人がわざわざ1km近い場所を往復したのは、拠点近くで小動物やカラスを餌付けしたくなかったからだ。それでも何度目かの往復の際、図々しいキツネが近くに来たので、加減して一鞭くれてやる。丈夫な毛皮のお陰で死を免れたキツネは、ケンと鳴くと、鈍い動きで茅の茂みに消えていった。


拠点に侵入され、干してある肉等を食い荒らされたら堪らない。


------------


おそらくテリトリーボスであった、虎の臭気に満ちた拠点に他の猛獣は近付かないだろう。幸い虎は獅子と違い群れない。来るとすれば鼬やキツネだが、彼等は楽に餌を食える水辺の廃棄所に群がっている筈だ。


虎の糞尿や内臓の臭気に閉口しながら、邦人は低木の枝葉で新調した寝床で、革ブーツを脱ぎ身軽になっていた。焚火で小動物と虫除けはしている。


そこで、邦人は全開にした革ジャケットのポケットからスマホを取り出しスリープを解除した。漸く当面の脅威が片付いたと判断したからだ…。



スマホは相変わらず圏外だった。電源も70%に落ちている。ただ…ウェイト表示が変わっていた、“SSS暦20,833年・残年数8,957年/91%”それを軽く見て、SSSアプリに切り替える。


『大切なお知らせ…新法則の適応について。サヴァイバルタイム005年、プレイヤー099・フランク 様が”要“獲得しサヴァイバルワールドに新法則が適用されました。新法則は以下の通りです。(OK)』


サヴァイバルタイムの5年は、リアルタイムでは20日だ。しかし…わずか5年で10人以上に発見させ支持を集めるとは、フランクは優秀な人物なのだろう。


そんなフランクがどんな新法則を?

期待しながら、邦人はOKボタンを押して次を読み進めた。


------------

------------


プレイヤー099・フランクの13法則


1 最初に要を成し遂げたプレイヤーのみ、無制限に法則を変えられる→13個法則を変えられる。


2 複数の法則を1度の改変で無効にする事は出来ない。1つの法則を無効化すると、下位が同時に無効化する場合、下位法則から無効化していく必要が有る。


3 SSS内で定義される人の細胞に、ミトコンドリアの様に独立したエネルギー生成器官マギトリアを持たせ、電磁的性格を持つ物質Mを精製、原子番号0とする。Mは精製者が排泄・死亡した場合(M認知されない場合)、一般環境下ではFeと酷似した物質的振る舞いをし、化石・鉱石化する。


4 SSS内で定義されるプレイヤーの脳波に、Mを活性化・統御利用する基本ルーチンを付与する。ルーチン名称はMAGIエンジンと定義。基本ルーチン詳細は以下に示す。


5 物資-Eを定義する。これは周囲空間と交換を必要とせず発生するエントロピーで、分子式の成立と共に効果発生し崩壊する。発生後は通常の熱エントロピーとなる。分子式により、+及び-エントロピーを為し、重核化する事により威力を増す。分子式の定義は以下に示す。


6 物質-ELを定義する。分子式が成立した空間に沿って0.01ミリVAの電流を発生させる。分子式の成立と共に効果発生し崩壊する。発生後は空中電力となり、その場の環境性質に従う。重核化する事により威力を増す。分子式の定義は以下に示す。


7 物資-Gを定義する。分子式が成立した空間に対して+-0.1Gの重力を発生させる。分子式の成立と共に効果発生し崩壊する。但し重力は二次元表面に限って発生し、裏面は固定化し影響を受けない。重核化する事により威力を増す。分子式の定義は以下に示す。


8 物資-Tを定義する。-Tは-定義された物質を利用した分子式の崩壊開始タイミングをヨクト秒単位で制御出来るスイッチ物質。-ヨクト秒を用いれば制御分子を虚数空間に放逐する。分子式の成立と共に効果発生し崩壊する。


9 MAGIエンジンでのM利用を簡便にするサブルーチン付与を行える様する。プレイヤーに限定しスクリプション作成が可能。名称をMAGI言語とし言語詳細は以下の通りである。


10 内燃機関を発動よりサヴァイバルタイム1/10期間停止する。停止に伴う余剰エネルギーは物資Mに変換される。この間凡ゆる種類の内燃機関は利用不可。但しエネルギーに物質M及び-物質を用いた場合は別とする。


11 高度30,000km以上の人工物を全て廃止、地球外に廃棄する。NPC含み人が居住していた人工物が有れば、彼等は安全に地上に送還される。


12 新法則作成要件を緩和する。サヴァイバルフィールド上プレイヤー人数の10%で、可能とする。


13 電気・電波・電力での折り畳み(エンコード・デコード)情報搬送を禁止する。アナログ電話は使えるがデジタル電話はダメ、と言う事。


------------

------------


それぞれ、法則の詳細は1,000Pに及ぶdocument が付いており、プレイヤーはPDFの様にスマホで呼び出して、いつでも読める様だ。


「なんだこれは!? 」


フランクはルールの穴を利用して一度に13の法則を適用していた。おそらく無制限の法則適用をSSSの管理AIに申し出て、交渉の末に13を認めさせたのであろう。自分ならそう事を運ぶ、と邦人は思った。


そうしておいてフランクは、訳の解らない新物質を創造し、次に現代文明の要(かなめ)で有る幾つかの技術を封印した。これでは、この世界の文明は中世並みに引き下げられてしまうだろう。それはそれで面白そうだが、フランクがなぜ変な物資を創造したのかが気になる。


火勢の弱まった燠火に、虫除けの枝葉と粗朶を加えて、邦人はそれに息を吹きかけた。一瞬燃え上がった燠火に、白い山脈の様な残像が目に残る。邦人は先を読み進めた。


------------

------------


フランクの13法則発動後、死亡や退出で20名程のプレイヤーが抜けた告知が有った。そして…。


『大切なお知らせ…新法則の適応について。サヴァイバルタイム008年、プレイヤー003・マリア 様が”要“獲得しサヴァイバルワールドに新法則が適用されました。新法則は以下の通りです。(OK)』


プレイヤー003・マリアの法則


フランクの10番法則を無効にし、内燃機関を復活する。


------------

------------


『大切なお知らせ…新法則の適応について。サヴァイバルタイム009年、プレイヤー099・フランク 様が”要“獲得しサヴァイバルワールドに新法則が適用されました。新法則は以下の通りです。(OK)』


フランクの追加13法則


14内燃機関の停止。期間はサヴァイバルタイムで100年間とし、細則は先の10番と同様とする。


15サヴァイバルフィールド内の時間を10倍の1000年間とする。これまでの経過時間は割合に応じて削除。


16MAGI言語によるスクリプト・プログラムを…


------------

------------


「そういう事か…!」


フランクの1番法則は、一見一度限りに見えたがそうでは無かった。“フランクだけは一度の機会で13回法則発動出来る”と解釈出来るのだ。マリアは複数法則発動をこそ、封印すべきだった。



そこまで読み進めた時、岩間の入口に何かの気配が生じた。邦人はスリープにしたスマホをしまい鞭を握り締め、言葉を発する事なく身構える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る