第6話 ここはVR内部だった…2万年経過?

岩場に戻る途中に蛇と遭遇する。昨日見かけたものだろうか?太さ5cm程長さは3m近い。邦人は考え有って、蛇を仕留める事にした。肉や骨の入った鹿皮袋と杖を置き、見えている胴を持ち上げて引っ張る。


革グラブ越しに、弾むワイヤーを握った様な硬い手応えを感じる。蛇は邦人の腕に尾を絡ませ、鎌首を向けて噛み付こうとした。させじと邦人は、蛇の上部を振り回し遠心力で地面に叩き付ける。何度も、何度も…。


生憎と打ち付けるに手頃な石や岩が見当たらず、時間は掛かったが次第に蛇は力を失い、手中の感触は空気の抜けた自転車タイヤの様になる。邦人は、蛇の持ち手を徐々に上に上げてゆく。


>蛇GET!


最後は左手のみで振り回しながら、右手で杖を拾い杖先で頭部を殴打して仕留めた。杖で頭部を抑えてから踏み付け、石ナイフをガツガツ振るって頭部を落とす。


戦闘は5分程だったが既に血肉の匂いでハエなど虫が鹿袋に寄って来ている。邦人は荒い息を付きながら、蛇の長い胴体をロープの様に丸め肩がけし再び獲物を担いで岩場に戻った。


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入り口手前で荷物を降ろし一旦内部を確認する…荒らされた痕跡は無かった。蛇の胴体以外を持ち込んで寝床材の上に置き、岩間の奥の方にやる。そして下部の寝床材を入り口付近に集めて火を炊き、虫と小動物避けに岩間を煙で満たす。大分拠点にスモーキーな香りが付いてきた。


近くから低木をへし折ってきて蒔き材を足すと、邦人は一息も付かず、杖と2本の蔦材、蛇の胴体を持って再度水場に向かった。素晴らしい体力だ。


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水場に戻ると鹿角を回収し、水辺で蛇皮を剥いだ。先程鹿を解体した水辺にはタガメやヤゴ、タニシが集まって水中の肉片に群がっている。


鹿の余りを廃棄した場所に群がっていた小動物達は、邦人が現れると一旦姿を消した。そこに皮を剥いた蛇肉を追加してやると、暫くして恐る恐る現れまた饗宴を始める。


>蛇皮、蔦紐材GET!


裏返した蛇皮を水中でこし濯ぐ。蔦材は細かい突起をその辺の石で擦り落とし、最後に水中でこす様に擦った。その辺の葦をグラブに巻いて使い、グラブのダメージを減らしている。


その後邦人はそれらと鹿角を持ち、逃げる様に岩間に引き返した。そろそろテリトリーボスが姿を現すと考えているからだ。


>木材、蔦、岩、石GET!


日暮れまで、木材、蔦材、岩、小石などを集め、邦人は拠点の防錆作業に勤しんだ。常に火を絶やさず煙を起こし続けている。


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二日後の深夜…大岩拠点の防衛を整えたと考え、邦人は壁奥に置いていたスマホを手に取った。充分乾燥している事を確認して電源を入れる。作業中はジャケットの内ポケで汗まみれだったからだ。


スマホは問題無く起動した。

相変わらずアンテナは立たず電池残量は90%で、これが当初ゲーム空間の可能性を想起させなかった。ゲーム内スマホにはアンテナも電池残量も無かったからだ。


しかしもしここがゲーム内ならば、専用アプリが有りリゾートへ抜けるなど今を切り抜ける選択肢が有る筈だ。ページを繰りアイコンを探すと…有った、SSSの文字が乗った四角いアイコンだ。邦人はそれをタップした…。


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『システムに重大な障害が起きました。本スマホのプレイヤー識別情報がリセットされています。あなたがプレイヤーならば、アカウントとパスワードを入力し、プレイヤー権能を起動して下さい。』


…やはりVRワールド内部だったか。

現実で無い事にほっとしながら、邦人はアカウントとパスワードを入力する。続いて指紋確認が行われ、住所・氏名・生年月日とカード番号の再入力を要求され、邦人は首を傾げながらそれを行った。優れた映像記憶を持つ邦人にとっては何ら問題無いが、カード番号など思い出せない者の方が多いのでは?と思ったのだ。


『お帰りなさい!プレイヤー・015・ダーティさん。前回のトラブルから182,497,080時間が経過しています。システムトラブルによる時間経過はプレイタイムから除外されます。あなたの残りサヴァイバル時間は78,472,080時間です。(OK)』


「なに!? 」


邦人は電卓を並行起動しそれぞれの時間を割る。2万833年と8,958年、サヴァイバルで100年リミットだった筈だが…どういう事だ?


TIPSを確認したいが他に選択肢が無いので『OK』を押してウェル・カムバック・メッセージを消すと、またもや強制告知が始まる。


『大切なお知らせ…。』


邦人は、情報補完する為には好都合と考えた。しかしその前に、プレイヤー認識された事で通信機能は復帰していないか、アプリを切替えて確認……。


…その時岩場拠点の外で、バキっという音と大きな生き物が動く気配がした。ばら撒いておいた小枝を踏んだのだろう。テリトリーボスがご挨拶に来たようだ…。


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