第46話
(なにをわけのわからないことをいってるんだ、この警官は)
「鈴置さん、これでも私は都民の生活を守る警察官です。嘘をいうはずがありません。事実このアパートはもうずいぶんと前から入居者がいない状態でした」
「まさか? きのうまでのあれはなんだったんだろう」
僕のいっていることがわかっていないのか、警察官は帽子のひさしに手をあてながらそっとドアを閉めた。
納得のいかない僕は、急いで部屋を出ると、警官の言葉を確かめるのに101号室の前に立った。次に102号室そして103号室……。
僕は小首を傾げた。そういえば部屋の入り口に表札や名札がかかっていたのを見たことがない。郵便受けにも部屋番号だけで、名前の書かれたものはなかった。書いてあるのはただ1軒、それは僕の名前だけだった。
僕は茫然となって立ちつくす。 頭のなかが無秩序になったままでまったく整理がつかない。
このアパートに移り住んで以来、これまで起きたことはなんだったのだろう。夢なのか現実なのかそれさえもわからない。頭を拳で何度も叩いた。
僕はふと我に帰ると、カンカンと跫音を立てながら2階への階段を駆け昇る。確かめたいことがあった。
204号室の前に立ち、力強くドアを叩いた。しばらく待ったが、なかからはなんの返事もなかった。同じように203号室も返事を待った。やはりどの部屋からも応答はなかった。
諦めの気持でなにげなく足元に目をやると、2階の通路は砂埃が堆積し隅には枯れ葉が押しやられて、ずいぶんの間無人であったことを仄めかしているように見えた。
(やはりあの警官がいっていたのは嘘じゃなかったのか……)
僕は気持の整理がつかないまま、がさがさに錆の浮いた通路の手すりを握りしめたあと、左の手を大きく広げ、中指にはめた龍の指輪をじっと見つめた。
(了)
龍の指輪 zizi @4787167
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