第37話
テレビの音で目を醒ましたのは、12時を回ったころだった。急いでテレビのスイッチを切ってしばらくすると、部屋の外で物音が聞こえた。
(そういえば、きょうはあの日だ)
きょうこそはと思い、僕はすぐにでも出られるように身がまえる。ドアに耳をあてて外の様子をうかがうと、案の定通路を歩くいくつもの跫足が聞こえた。
この前と同じタイミングで部屋を出ると、周囲に気を配りながら慎重に尾行する。
この時期になるとさすがに朝晩はしのぎやすくなった。いまではあの耳ざわりな声を撒き散らす蝉たちの声もなくなり、涼やかな風に乗って聞こえる軽やかな虫の音が寂しさを誘う。
彼らの行き先はわかっているので、見失う心配はない。
3人は思ったとおり万昇寺に入って行った。僕が山門の前に立つとやはり口をつぐむようにぴしゃりと閉ざされている。迷うことはなかった。だがひょっとしたらということもあるので、潜り戸に耳を傾けてなかの様子を探る。
そっと戸を押し開いて足を踏み入れてみると、ほとんど灯りというものがなく、あるのは住職の住まいにある明かり取りの小窓からもれるぼんやりとした灯りだけだった。
彼らはどこに行ったのだろう。本堂には人が入った様子がないから、あと行くとしたらあの住まいしかないことになる。だが、もう深夜の1時だというのになんのようがあって、それも3人そろってだという。まったく不可解な事実である。
しかたなく引き返すことにしようかと思ったものの、このまま帰ったらまたこの前と同じになってしまう。僕はお寺の塀に沿ってそろりと歩きはじめた。
そして徐々に本堂に近づく。歩くたびに足もとの虫が泣き止む。気づかれないかと心配をしたが、もうここまで来てしまったら腹を括らなければならない。
この前のときは本堂の裏側を確かめてなかったのでこの際だから見ておこうと思った。
そこも漆黒の闇に包まれたもっとも足を踏み入れたくない場所だ。そのとき、意外にも先方にわずかな灯りがもれているのに気づいた。
本当はいまにも逃げ出したいほどの恐怖が背中を奔る。
(なぜそこまでして彼らのことを知らなければならないのか?)
僕は自問自答するが、答えは帰らなかった。
尻のポケットからペン型の懐中電灯を点ける。マッチの頭ほどの小さな灯りだが、瞬時にあの皮膚に沁み込みそうな闇を遠ざけた。慌てて手のひらで覆い隠す。
足もとだけに灯りを落とし、音を立てないように慎重に足を搬ぶ。自分の足がえらく重いもののように感じた。
本堂の壁に背中をつけながら灯りに近づいているとき、そういえば本堂の隣りに文庫のような建物があったのを思い出した。
(あそこに間違いない)
そう考えると自然に足が早くなり、不思議なことにこれまでの身も震わすほどの恐怖が霧消していた。
建物の壁に耳をあてる。窓からオレンジ色のかすかな灯りがもれているのだが、話し声はまったくしない。やはりここではなかったかと思いつつ、だめもとで窓に手をかけてみた。
ほぼ目の高さにある窓は意外と簡単にずらすことができた。3センチほど開けてなかを覗いたとき、僕はそこにある光景に息を呑んだ。
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