第35話 11
次の日、午前中に西福永の駅近くにある家電量販店に行ってみることにした。液晶テレビを買うためだ。少しでも安いほうがいいので、2軒の電気店を回って価格を比較したのだがどちらも同じような値段だった。
結局2軒目で22インチのテレビとアンテナを買い、両手にダンボールの箱をさげて駅前を歩いていたとき、背中から声をかけられた。
「ちょっとォ」
最初は気づかない振りをしていたのだが、二度三度と呼ばれたのでひょっとしてと思い、面倒臭そうに振り返ると、2階の西野ネエさんが手を振りながら立っている姿があった。
きょうのネエさんは日除けの大きな帽子に濃い色のサングラスをかけていた。
「こんにちは。ご無沙汰してます」
「なに、買い物?」
西野ネエさんが近づきながら訊く。
「ええ、部屋にテレビがなかったので、いま買ってきたところなんです」
僕は荷物を道路に置いて事情を説明した。
「おニイさんは電気に詳しいの?」
西野ネエさんは僕の顔を覗き込むようにしていった。
「詳しいってほどじゃないですけど、普通に」
「だったらお願いがあるんやだけど……」
「なんでしよう?」
「はずかしい話なんやけどぉ、うちこの前、パソコン買うたんや。なんで買うたかっていうと、店の若い女の子からな、インターネットでいろんなもんが安う買えるって聞いたから、うちも負けてられへんと思て、そいで……」
西野ネエさんは若い娘になったかのようにはじらいながら話す。
「はあ」
僕はネエさんがなにをいいたいのかまったく見当がつかない。
「ほんでな、買うたんはええんやけど、使い方がわからへん」
「ええッ? マジで?」
「ほんまアホやろ? うち負けず嫌いやさかい、すぐ前後のみさかいがのうなんねん。ほいでな、おニイさんに教えてもらおうと思て聞いてみたんや」
「それぐらいのことでしたら、いいですよ」
いま僕は自分のパソコンを持っていないが、学生のころはずいぶんいじっていたので、ネエさんに教えるくらいの知識はあるつもりだ。
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