第31話

 次の日、どうしてもあのお寺が気になってならない僕は、昼過ぎにアパートの部屋を出るときのうと同じ道順で万昇寺に向かった。

 山門の前に立つと、きのうとは打って変わって門が見事に開けられてあった。僕はお参りする振りをして境内に足を踏み入れた。もうお盆の墓参りがすんでしまったのか、境内に人影はない。ただ蝉たちが耳が裂けそうな声で叫び続けているだけだった。

 正面に本堂が見えたが、それほど大きな伽藍がらんではない。ところどころ雑草が伸びている境内の左手には住職の住まいなのか、普通の家と同じようにガラスのはまった玄関が見えた。さらに本堂の右手には物置、左手奥には文庫――つまり書物を保管しておく建物があった。

(自分が想像していたのとはぜんぜんぜん違っているのに一瞬呆然となった。それにしてもなんの目的があって彼らはこの寺に入って行ったのだろう。ましてあんな時刻に……)

 僕はかたちばかりのお参りをすませると、スマホでお寺の写真を2、3枚撮り、釈然としない気分のままアパートに帰った。

 スマホでお寺のことを調べようと試みたのだが、まったく情報を得ることができなかった。ますます不可解に思えてきた。

 そんなことを考えていたとき、ふいにドアがノックされた。

 玄関先に立っていたのは、花木おばさんだった。

「久しぶりね、どう、元気にしてた?」

 花木おばさんはいつものように屈託のない顔で訊く。

「おかげさまで」

 僕は頭をさげながら返事をした。

「またみんなで飲み会やるんだけど」

「はい、みなさんの顔を見るのも久しぶりなので、ご迷惑でなければ……」

 僕はきのうのことが気がかりなこともあってぜひ参加したいと思った。

「なにいってるの、迷惑だったらわざわざ誘ったりしないから。さあみんな待ってるから急いでね」

「はい」

 僕は居間にもどると、この前買っておいたウイスキーのビンをかかえて101号室に向かった。

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