第28話
布団に横になったのは10時過ぎだった。2時間ほど眠り、物音に気づいて目を醒ました。
廊下のほうで話し声と人の歩く音が聞こえた。空耳だったかもしれないと思い、じっと耳を澄ましてみると、確かに数人いる気配がした。
(こんな時間に……なにかあったのだろうか?)
可能性のあるすべてを頭のなかで巡らせていたとき、ふとあることに気づいた。
それは、ここに来て4ヶ月になるのだが、毎月第3土曜日になると同じことが起きているのだ。なにがあるかはまったくわからない。
そのうちに気配はなくなり、やがてもとの真夏の夜にもどった。
ところがそれからさらに2時間が経過し、まんじりともしなくて何度も寝返りを打っていると、庭のほうでかすかに砂利を踏む音が聞こえた気がした。
(誰かが庭先に来て、こちらの様子をうかがっているような気がする。もしそうだとしたら、誰が、なんの目的で犯罪ともいえる行動をとるのか)
理由がわからない。
ガラス戸は40センチほど開いている。いま布団を出て見止めることはできるのだが、僕にはそれが誰であるか確認する勇気はなかった。あげく、朝まで眠ることができなかった。
日曜日になって僕は庭に出てあたりを見回したのだが、足跡などは見つからなかった。
(あれは気のせいだったのだろうか……?)
ところが、あの不可解な出来事があって以来、僕が深夜に仕事からもどると、誰かが部屋に侵入している気配がしてならない。その気になればこんなドアの鍵を開けるなどなんの雑作もないことだ。それがあって部屋中を調べてみたのだが、荒らされた様子もなく、別になくなっているものもなかった。
次の日、気味が悪くてしょうがない僕は、出がけにドアの上にセロテープを貼りつけて仕事に向かった。誰かがドアを開ければセロテープが剥がれ、侵入した証拠になるからだ。
僕は出勤したものの、まったくといっていいほど仕事に集中できなかった。それを目ざとく見つけたマスターが、
「拓クン、どうかしたのか? いつものキミらしくないじゃないか? 体調でも悪いのか? 顔色がよくないぞ」
と、眉間に皺を拵えて訊いてきた。
「いえ、そんなことありません」
まさか正直に話せる内容の話ではなかった。
なんとか1日をやり過ごして終電車に乗った。
(万が一テープが剥がれていたらどうしよう……)
そんなことを考えると、針で刺されたように胸が痛くなった。
アパートに着いて恐るおそるドアに近づく。ここからでは薄暗くてはっきりと見届けることができない。ポケットから部屋の鍵を取り出し、勇気を振り絞ってドアの前に立った。
全身のちからからが抜け落ちた。テープは剥がされてなかったのだ。
僕は思い切りテープを剥がして部屋に入った。
それ以来部屋に残されてあった不穏な空気を感ずることはなかった。
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