第26話

 花木おばさんは僕のすぐ横に坐った。あまりにも近過ぎる。いつもとは違った距離に戸惑いながら乾杯する。

「どう、このアパートには慣れた?」

「おかげさまで。みなさんによくしていただいて……」

「よかったわね、これからも困ったことがあったら遠慮なくいいなさいよ。できる限りちからになるからね。きょうはジイさんたちがいないからゆっくり飲も。さあ、食べて、食べて」

「ところで、花木さんは温泉旅行に参加しなかったんですか?」

「ああ、あれ? あれは男ばかりで行く旅行だったから、女のわたしには参加資格がなかったの。それにもし行くんだったら、あんなジイさんたちと行くより、もっと若い人と行ったほうが愉しいじゃん」

「そういうもんですか」

「そうよ、そうに決まってるわよ。ところで、さっき就職が決まったっていってたけど、どんなとこ?」

 花木おばさんはテーブルに肘をついて、身を乗り出すようにして訊いた。

「バーです。決まったばかりでまだ店には行ってないんですけど、場所は渋谷の駅の近くだって聞いてます」

「あらあんたバーテンダーの経験があるの?」

「いえ、最初のうちはホールとか雑用です。そのうち徐々に覚えるつもりです」

「まあなんでもいいから、がんばりなさい」

 自分でビールを注ぎながら励ましてくれた。

 花木おばさんは次からつぎに料理を出してくる。

 あら煮はもちろん、ホウレン草のおしたし、ポテトサラダ、燻製チーズ。普段はこんなに食べるはずはないのに、ひょっとすると僕のためにわざわざ……。


 僕は酔ってしまい、つい眠り込んでしまった。

 熱い吐息にふと目を醒ますと、花木おばさんの顔が間近にあった。

 僕は愕いて押し退けようとしたのだが、花木おばさんの想像以上の重さに、まるで金縛りにでも遭ったようにまったく身動きができなかった。

 おばさんは無理やり唇を重ねてきた。やがて股間に手を這わせ、僕の固くなった部分をやさしく撫ではじめる。さらに硬直した僕は、いまにもはちきれんばかりなった。

 そうなると男として我慢ができなくなり、体位を変えて今度は僕が上になった。

 そんなに僕が欲しいんなら、こうしてやる。僕はおばさんのスカートも捲り上げ、むっちりとした太腿をすべり抜けていよいよと思ったとき、すでにおばさんは下着をつけてなかった。

 少ない茂みを分けて秘部に指を這わせようとした。


 そこで僕ははっと目が醒めた。股間に手を添えると、脈打つ部分は発射寸前だった。そして気づいたときには夢精していた。だが僕は久々の快感にしばらくじっとそのままでいた。

 夢だったのだ――。

 確かに夕べ花木おばさんの部屋で酒と食事をご馳走になったまでは覚えている。しかし、どうやって自分の部屋にもどったのか皆目覚えていない。でもこうやってちゃんと布団を敷いて眠っている。

(まさか、花木おばさんが……いや、そんなことはないはずだ)

 僕は水を飲みに台所に行ったが、頭のなかはまだはっきりとはしなかった。

 とはいうものの、わざわざ隣りに行って確かめる勇気はなかった。

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