第21話 6
面接の時間は10時だった。僕は少し早めに店の近所まで行き、時間を潰すことにした。
5分前になって顔を出すと、すでに僕より3、4才若い男女が3人待っていた。店内は本棚の造作に取りかかっていて、あちこちからトンカチの音が聞こえてくる。
いよいよ面接がはじまった。僕は3番目に呼ばれた。所要時間はひとり15分といったところか。面接は店長が直接やるみたいだ。
僕は事務所に入って軽く一礼をする。名前を確認されたあと、椅子に坐るよういわれた。店長は履歴書に目をとおしたあと、おもむろに質問をはじめた。
とおりいっぺんの質問がすむと、1枚のA4用紙が目の前に出された。
「鈴置さん、5分でこの問題の答えを書いてください。できるだけでいいです」
そういわれて用紙を覗き込むと、そこには簡単な計算式が30ほど書かれてあった。
ようするに暗算でおつりの計算ができるかどうかテストされるのだ。
僕は昔小学生のころ算盤塾に通っていたことがあるので、暗算は得意なほうだった。だが、最近あまり早く計算したことがないので、規定の5分が終わってみると、答えを書いたのは23問だった。
「採用不採用は本社決定となりますから、10日ほどで連絡させていただきます。それまでお待ちください」
僕は椅子から立ち上がり、深く頭をさげて事務室を出た。
ひと安心した僕だけど、その一方不安が脳裏を過ぎった。学歴には多少の自身はある。だが、家族欄になにひとつ書くことができないのだ。そこをポイントにされたらどうしようもない。ふたたび母のことを恨んだ。
気がつくと僕は左手にある指輪を握りしめていた。
面接が無事すんで、駅前をぶらりとしてからマクドナルドでハンバーガー食べてアパートに帰った。
部屋にもどってもやることのない僕はスマホのゲームをはじめた。ところが少し経って急に眠気が襲ってきて、スマホを手にしたまま眠ってしまった。
ドアがノックされた音で目が醒めた。
寝ぼけ眼でドアを開けると、果たしてそこに佇んでいたのは103号室の花木さんだった。
「おニイちゃん、またみんなで飲むから、よかったらおいで」
花木さんはそれだけをいい残してさっさと帰って行った。
僕は考えた。いつもご馳走になってばかりでは申し訳ない。いまから酒屋に走って行ってウイスキーでも買って来ようか。ボトル1本持っておいておけば、3回くらいは手ぶらでも気がひけることはない。でも、みんなを待たせても悪いし……。
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