第20話
僕は所轄の警察に向かわなければならないのだが、すぐにはエンジンをかけられなかった。
ようやく気を取り直してエンジンをかけながらなにげなく助手席に目を向けると、そこにあったのは、僕が弟に買ってやった龍の指輪だった。
(あれほど大切にしていた指輪を、なんでおまえは外してしまったんだ!)
その夜遅くになって両親と合流した。僕はふたりの親からまるで仇のように責めの言葉を浴びた。しかし言い訳など僕にできるはずはなかった。
ついでにその後の家族のことを話しておくと、その数ヶ月後、父親が心筋梗塞で他界をした。母親と僕が遺されたかたちになったのだが、しばらくして母親から僕の銀行口座に2百万の現金が振り込まれた。
不思議に思ってすぐに母親に連絡をとったのだが、どういうわけか連絡がつかない。訳がわからない僕は急いで実家にもどった。だが、そこには売物件と書かれた看板が立てられてあった。
僕は躊躇することなく、看板に書かれてある不動産屋に電話を入れる。
返ってきた言葉は、「あの家はずいぶんと前に手放されました」と事務的なものでしかなかった。
母親は、弟の保険金と父親の保険金を手に入れ、僕にわずかな金を渡して身をくらましてしまったのだ。ひとりぼっちになった僕は胸のうちを熱くしたまま東京にもどった。
その後無事に大学を卒業したのだけれど、ただでさえ就職難な時代なのに、家族のない僕にまともな就職などできるわけがなかった。
このことはいままで誰にも話したことがない。だって僕の人生でもっとも思い出したくない事実なのだから――。
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