第17話 5

 1時間ほどコーヒーを飲みながら雑談を交わしてから自分の部屋にもどった僕は、スマホを確認する。思ったとおりメールが1通届いていた。明日面接予定がある本屋からのものだった。

 急いで開封してみる。内容は面接時間の通知だけというあっさりしたものだが、いまの僕にはキラキラと輝いて見えるメールに思えてならなかった。

 明日面接に行く本屋は、京王井の頭線でふた駅向こうの明大前の駅前に2週間後に開店するチェーン店だ。たまたま求人広告を見つけた。いまの僕には仕事を択んでいる余裕などこれっぽっちもない。とにかく収入を得ることを最優先しなければならないのだ。

 僕は頭のなかで作戦を練った。まず絶対にしなければならないことは、風呂に入って清潔にすること。これは夕方になって食事を兼ねて銭湯に行けばいい。次は服装だが正直いって迷っている。企業なら文句なしにダークスーツにネクタイだ。でも本屋はどうなのだろう。正社員での求人ならばやはり敬意を表してスーツというところなのだろうけど、店員でそれもアルバイトとなると、そこまでしなくてもいいような気がしてならない。

 散々悩んだあげく、綿パンにジャケットで、ネクタイはしていかないことにした。そのかわり、あるものを身に着けて行くことを決めた。

 そのあるものとは、龍の姿を彫り込んだ銀の指輪だ。これは自分自身のものではなく、3歳下の弟にプレゼントしたもので、引越しのときに引き出しのなかを整理していたときに偶然見つけた。

 なぜ弟にやった指輪が僕の手元にあるかを説明しなければならない。

 

 ――あれはいまから7年前のことになる。

 僕が大学3年生の夏だった。弟は高校3年生で寝る間も惜しんで受験勉強に取り組んでいた。夏休みで名古屋の実家に帰ったとき、ある日CDを買いに大須のアメ横にふたりして出かけた。

 そのとき露天でアクセサリーを売っている茶髪でロングヘアーの外人が眼に入った。ふたりは誘われるようにその店に足を向けた。茶髪の外人は僕らを見ると、すぐに片言の日本語で話しかけてきた。

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