第14話
僕は204号室のなかば剥がれかけたベニヤ板のドアを軽く3回叩いた。
なかから面倒臭そうな返事がされたあと、
「どちらさん?」
ドアを細めに開けながら訊く。
「104の鈴置です」
「104の……。なんですか?」
「あのう……庭にこれが落ちてたんですけど、ひょっとしてこちらのではないかと……」
僕はついいいよどんでしまう。まるでいけないことをしているときのようだった。
女性は、僕の手のひらを覗き込んで、
「あら、これうちのんですけど。えッ、落ちてました?」
「ですから、僕の部屋の前の庭に……」
「おおきに」
女性は自分の下着をまじまじと見られているにもかかわらず、平然とした口調でいった。
「それじゃあ、僕は」
手にあったものを女性に渡してドアを閉めようとしたとき、
「ちょうどええわ、いまコーヒー淹れたんやけど、飲んでいかへん?」
女性はようやくドアを大きく開け、化粧のないシミの浮き出た顔で笑った。
「でも……」
正直僕は朝飯がまだだったので、ちょうどコーヒーが飲みたかった。だが、そうはいってもまだ初対面に近い女性の部屋に上がり込むなんてとてもできないと思った。
「ええのよ、遠慮せんでも。これひろてもうたお礼に。でも無理にとはいいひんよ」
「いえ……ご馳走になります」
僕は一瞬逡巡したが、せっかく招いてくれたのだから甘えることにした。
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