第12話

「それって、企業が自分とこの利益のために労働者を利用してるってことじゃない?」

「やっとわかったようだな。いま世間ではそれが問題になってるんだ」

 井上さんはサキイカを親のカタキのように引きちぎった。

 野田老人は完全に眠りの状態に入ってしまったようだ。

「まあそんな理由で収入がなくなってしまって、やむなく安い家賃のとこに引越したというのがここに移ったというわけです」

「いまは?」

 ビールから焼酎に切り替えた花木さんが訊く。

「無職です。この間まではうどん屋でバイトをしていたんですが、あまりにも時間給が安かったものだから、少しでも高いほうがいいと思って辞めてしまったんです。でも僕がバカでした。格好をつけて、うどん屋にわるいと思って次の仕事先が見つかる前に辞めてしまったんです。でもこの景気では簡単にはつぎが見つからなかったんです」

 僕ははじめて自分の失態を他人に話したのだけれど、この3人には話せる限りのすべてを聞いて欲しいと思った。

 野田老人が眠ってしまったため飲み会は2時間ほどで解散となり、久しぶりのアルコールに酔ってしまった僕は足をとられながら部屋にもどった。

 出がけに敷いておいた布団の上にごろりと横になると、ゆっくり目を瞑った。目蓋の裏側が黒とオレンジ色の幕が広がり、やがてそれが渦になってそろりと回転をはじめる。まるで幾何学的な映像を見せられているようだった。やがて全身がそのなかに呑み込まれてしまった。

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