第9話
5分ほどして野田さんの部屋に行くと、井上さんと花木さんの3人が丸い卓袱台を囲んで缶ビールを飲んでいた。花木さんの手招きに誘われて彼女の隣りに坐る。もうすでにグラスが用意されていて、花木さんがビールを注いでくれた。
「じゃあ、鈴置クンっていったかね?」
「はい」
「鈴置クンの入居を祝して、カンパーイ」
「乾杯」「かんぱい」
野田さんの音頭でグラスを合わせながら全員が発声した。
目の前の卓袱台には、サキイカに柿ピー、それに花木さんが拵えてきたカボチャの煮物と枝豆がのせられてあった。
「若い人には口に合わないかもしれないけど、遠慮なく食べてよ」
花木さんは僕の前に器をすすめながらいう。
「ありがとうございます」
「きみも仲間になったんだから、もっとリラックスしたらいい」
禿げ頭の井上さんがほんのり赤くなった顔で僕の肩をポンポンと叩いた。
「はい」
先輩たちは余分な気を使わないようにいってくれるのだろうけれど、そういわれてもなにせきょうはじめてのことなので、常識として厚かましい態度をとることはできない。まるで借りてきた猫そのものだった。
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