第7話
久しぶりに大きな浴槽にどっぷりとつかり、冷え切った躰を暖めてさっぱりした気分で銭湯を出ると、急に空腹感を覚えた。そういえばこのところまともな食事をしていない。どこか食堂みたいなところはないだろうか、と期待を抱きながら人通りの多そうな場所に向かって歩きはじめた。
僕の勘は間違ってなかった。銭湯からしばらく歩いたところに、「田中食堂」と暖簾をおろした1軒の食堂を見つけることができた。
磨りガラスの戸をそろりと開けてなかに入ると、4人がけのテーブルが5つと5人がけのカウンターがあるだけの小さな食堂だった。先客がふたり、ビールを飲みながらフライ物を突っついていた。
僕は壁にかけられたメニューを眺めて、さんざん迷ったあげくトンカツ定食を注文する。
目の前に定食が搬ばれると、意外にカツの厚みがあることと、付け合せのキャベツの多さに感激した。ほかにはホウレン草の小鉢と味噌汁と漬物が添えられてあった。これで650円は安い。ほかの定食も同じような値段であることにちょっと嬉しかった。
空腹な僕は、カツにたっぷりとソースをかけ、真ん中の切り身から齧りついた。肉は柔らかくて甘みがあり、周りのコロモはカリカリに揚がっている。幸せな気分が全身を奔りぬけた。
満腹感にひたりながら食堂を出たときにはすでにあたりは薄暗くなっていて、いままでなかった街の灯りがいくつも点りはじめていた。
街の雰囲気を確かめるようにしてアパートにもどったのだが、電気が点くのは明日の午後になる。真っ暗闇のなかではなにもできない。頼りになるのはペン型の懐中電灯なので少しでも灯りをと思い、窓のカーテンを目一杯開けた。意外だったのは、徐々に闇に目が慣れてきて、闇がそれほど気にならなくなった。
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